盗用・自己盗用について その1 学術雑誌の投稿規定
この連載では、研究者・学生など研究活動に従事する方に向けて、研究公正の内容をわかりやすく解説することを目的としています。
第1回目の今回は、研究不正について解説するとともに、頻度の高い研究不正である盗用・自己盗用について解説していきます。
研究不正の種類
研究不正は、下記の3つに分類されます。
1.捏造: 存在しないデータ、研究結果等を作成すること。
2.改ざん: 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること
3. 盗用: 他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること
文部科学省 研究活動の不正行為等の定義 から引用
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/attach/1334660.htm
もしも研究不正をしてしまうと、下記のように非常に大きな影響を周囲に与えてしまいます。
· 後続の研究に対して大きな混乱が生じ、科学の発展を停滞させる
· 本人の研究生命にも大きな影を落す
· 国内・国際社会においても大きな混乱の原因となる
o 国内: 納税者たる国民において、研究者に対する信頼が損なわれる
o 海外: 日本国内で大きな研究不正が生じる度に、日本の研究者に対してバイアスが生じる
そのため、研究に携わる研究者・学生は、これら研究不正などの疑わしい研究活動を避けつつ、科学を前進させるために研究活動に打ち込む必要があります。
研究不正の実例
それでは、実際に生じている研究不正には、どのようなものがあるでしょうか。文部科学省の予算が配分された研究に限りますが、日本国内で認定された研究不正の一覧および詳細報告書が文部科学省にて公開されています。
文部科学省の予算の配分又は措置により行われる研究活動において不正行為が認定された事案(一覧)
https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fusei/1360484.htm
2021年から2023年までの3年間で公表されている研究不正は31件あります。不正行為の種類としては、捏造、改ざん、盗用の3種類に加え、オーナーシップ、二重投稿、サラミ出版、自己盗用の合計7種類で区分けされているようです。
詳しく内訳をみると、31件中およそ半数にあたる15件が盗用あるいは自己盗用でした。さらに、15件のうち、5件が自己盗用を含む研究不正として報告されていることから、盗用・自己盗用が非常に多い研究不正であることがわかります。
研究不正の内訳で最も大きい盗用
日本のみではなく、世界的な研究不正の動向に関する調査が2018年にScience誌から報告されています。
Brainard, J. (2018). What a massive database of retracted papers reveals about science publishing’s ‘death penalty’. Science. doi:10.1126/science.aav8384
撤回された論文および撤回内容を保持するデータベース “The Retraction Watch Database” を活用した本調査によると、2003年から2012年にかけて論文撤回の頻度はおよそ2倍に増加したと報告されています。加えて、出版論文数が増えている影響もありますが、撤回された論文数は2000年から2014年にかけて、およそ10倍に増加したとされています。また、撤回理由の中で、最も内訳が大きいのが盗用とされており、その頻度は30%以上と報告されています。
CopyMonitor社調べでは、執筆段階の最新データによると撤回された論文数は2014年から2021年にかけて、さらに2.6倍に増加しており、研究不正への対応が継続的に必要な状況が読み取れます。
盗用と疑われないために
研究者が研究活動を実施する中で、他論文への言及・引用は避けることはできません。引用と、研究不正たる盗用は明確に異なることは当然とした上で、論文執筆・研究公正に関する教育を受けていなければ、知らず知らずのうちに盗用あるいは自己盗用と疑われかねない論文を執筆することも、ひょっとしたらあるかもしれません。
もしそうなれば、自身の研究者としてのキャリアに傷がつき、周囲への影響も大きくなってしまいます。
今回、研究不正の中から特に盗用・自己盗用について掘り下げてご紹介します。具体的には、学術雑誌の投稿規定を参照し、研究不正となり得る盗用・自己盗用について確認します。
学術雑誌の投稿規定から読み解く「盗用・自己盗用」について
研究者が論文を投稿する学術雑誌では、研究不正を避けるため投稿規定内にルールを示しています。多少の差はあれど、誠実な学術雑誌では国内外問わずおおむね同様のルールが定められています。ここでは学術雑誌の代表として、Nature系列の投稿規定を参考にしたいと思います。
Nature誌の投稿規定は、関連雑誌であるnature portfolioの投稿規定に準じています。
nature portfolioの投稿規定
https://www.nature.com/nature-portfolio/editorial-policies/plagiarism
その内容を確認すると、盗用・自己盗用に関しては大きく下記のことが記載されています。
1. 数段落に渡る文書が、適切な引用なく転載されているものを盗用とする
2. 著者らの過去の研究内容を、適切な引用なく転載するものを自己盗用とする
3. 出版後に研究不正が発覚した場合は、研究不正の内容・他の研究に与える影響に応じて修正・撤回する
同時に、下記内容であればNature系列では盗用と見なさない旨も記載されています。
1. 英語以外の言語で出版された成果の転載であれば、盗用とみなさない
2. 修士論文や博士論文など、大学・研究機関に提出した内容の転載は、盗用とみなさない
(ただし、上記の場合は投稿時にeditorに向けてcover letter内で予め説明することを求められています)
ただし、cover letterや引用などで転載元の成果・学位論文に言及していなかった場合、研究不正として認定されるケースも発生しています。そのため、投稿論文としての独自性を誤解されないよう、引用などの言及が必ず求められているようです。
ここまで、Nature誌を代表として学術雑誌の投稿規定を確認しましたが、数段落にわたって文章を転載すると、盗用とみなされる可能性が高いことがわかりました。健全な研究活動を実施していれば、他者あるいは自分の過去の論文からそれほど多くの分量を引用することはないかもれません。
一方で、例えば学術論文を執筆している場合、MethodsやIntroductionでは過去に報告された手法・仮説に言及することが多くあります。その際、万が一でも研究不正を疑われると社会的なダメージが大きいため、学術雑誌の投稿規定以外の客観的な指標はないでしょうか?
次回は、10,000以上の学術雑誌からなるCommittee on Publication Ethics (COPE, 出版規範委員会) がEditor向けに公開している、盗用・自己盗用に関するガイドラインの内容をご紹介します。
CopyMonitorホームページ:https://www.copymonitor.jp/
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