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多様なプロトタイピングの世界

※このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダシップコースの「クリエイティブリーダシップ特論」という、クリエイティブの力をビジネス・社会に活用しているゲスト講師の方々による講義のレポートです。


5/10の講義では、上流工程でのプロトタイピングを強みとしている株式会社ソフトディバイス代表取締役の八田晃さんに、プロトタイピングをテーマに話を伺いました。

株式会社ソフトデバイス
モノや情報と人の対話 = インタラクションの中で生まれる価値づくりを目指すヒューマン・インタフェース・デザインを核として、未来の製品やサービスのあり方を考え、創造するデザインコンサルティングファーム。
ソフトウェアとハードウェア、サービスとプロダクトの区別なく一体的に提案できることが強み。ヴィジョン策定時や要件定義前の段階での先行デザイン、プロトタイピングを得意としている
(https://www.softdevice.co.jp/より)


このnoteでは八田さんのお話の中から印象的だったことについて書いていきます。


早い段階でプロトタイプをする理由

通常のプロトタイプは、仕様を詰めていくために、どんなものを作るかを決めてかた実施することが一般的だと思います。

プロトタイピング(Prototyping)は「試作」の意味。ソフトウェア開発の初期段階に試作モデルを作り、機能や操作性を確認し、ユーザーの要求や評価を本番のシステムに反映して完成させる開発手法を指す。試作モデルは「プロトタイプ」と呼ばれる。

(引用:IT用語辞典 大塚商会 https://www.otsuka-shokai.co.jp/words/prototyping.html)


ですが、八田さん率いる株式会社ソフトデバイスでは、ヴィジョン策定時や要件定義前の段階での先行デザイン、プロトタイピングも実施されています。


どんな未来が待っていて欲しいか、どんなモノやサービスがあったら良いか議論をしていても、今までにないものを言葉だけで伝えてイメージを共有することは難しいと思います。

また、イメージはなんとなくできても、言葉や画像で具体化されたビジョンでは体験ができない為、良し悪しの判断がしにくかったり、そのモノやサービスが日常にどう溶け込んでいくかなどの周囲への影響や行動変容までみることができないと思います。

ユーザーの体験がわからないまま議論を進めても良いものは生まれない。
だからこそ、八田さん達は早い段階でプロトタイプをしてみることを実践されているそうです。


早い段階のプロトタイプが有効であると頭では理解できていても、企業だと予算や工数の関係上、「とりあえずつくってみる」に挑戦することってなかなか難しいことだと思いました。
そのため八田さん達の取り組みによって「まずはプロトタイプしてみようか」という文化がひらいていくことも、とても意味があることだなと個人的に思いました。


色々あるプロトタイピング手法

プロトタイプにも色々手法があることを今回の講義で初めて知りました。八田さんは以下のようなプロトタイプの事例を紹介してくださいました。

Hardware sketch
本当に実働するものをできるだけ早く作るプロトタイプ手法。最低限機能するものを見た目は無視で素早く作る。

Acting out
演技によってモノやサービスを使う人の行動を記録する手法。例えば「カメラが筒状だったら?」というプロトタイプをする際は実際に筒状のカメラを作る必要はなく、筒状の代用品を用いて行う。

Photo modeling
Acting outなど演技で撮った写真に、アイデアを直接書き込む手法。

■ Projection modeling
現実の空間にアイデアの断面をプロジェクションする手法。


また、これらのプロトタイプを実施できる環境として専用のLab.を設立されているそうです。

同社の野々村さんがプロトタイピングラボのデザインの変遷をテーマにした研究発表で、こんなことを記述されていました。

コンセプト段階から、最終的なデザイン検討までLab.でプロトを使って検討することにより、クライアント内の担当者だけでなく、ステークホルダーや関係技術者、商品企画担当者や、他の協力企業などを連れ立って、Lab.で体感し、デザインのゴールイメージを体感して確認するプロジェクトも多くなった。
引用:
プロトタイピングラボのデザイン softdevice Lab.での実践事例を通して,  野々山正章 (日本デザイン学会デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD 2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssd/65/0/65_278/_pdf/-char/ja


プロトタイピングをすることで同じ会社の非デザイナーを巻き込むことができるだけでなく、外にもひらいて議論ができるという点で、コンセプト段階におけるプロトタイピングにはとても発見のチャンスが眠っていそうだと思いました。


最後に

今回のお話を聞いていて、「何をプロトタイプするか」や「こだわる部分とこだわらない部分」の判断がとても重要だと感じました。

別の講義でプロトタイプをした際に、「多くのプロトタイプをつくろうとしてプロトタイプが期間内に完成しなかった(プロトタイプを使って議論をする段階まで間に合わなかった)」ということがありました。

限られた時間やリソースの中では全部をプロトタイプすることは難しいため、これからつくろうとしているモノやサービスの一番大切なポイントは何か・プロトタイプにより何を確認すべきかをこれからはちゃんと考えていきたいと思いました。


This is service design doingのプロトタイプの章を見返してみると、プロトタイプには三つの目的があると記載されていました。

<プロトタイピングの目的>
■ 掘り下げのためのプロトタイピング

初期のサービスコンセプト/アイデアを元に新しいオプションや新しい将来のソリューションを作るためにおこなわれる。
■ 評価のためのプロトタイピング
プロトタイピングが示唆する未来を、人々がどう体験するかを理解するためにおこなわれる。
■ 伝達と提示のためのプロトタイピング
プロジェクトの重要な要素を一部のオーディエンスに伝えるためにおこなわれる。


また、プロトタイピンの課題を見極めるに役立つ視点として以下4点が挙げられていました。

<プロトタイピングの評価視点>
■ 価値
■ フィジビリティ
■ ルックアンドフィール
■ インテグレーション(上記3点が一体となった時に機能するか)


色々な目的や評価軸がプロトタイプには内在するからこそ、それらを認識して今回はどういう目的や評価をするか事前にチームで話し合うことが大事なのかなと思いました。



それにしても株式会社ソフトデバイスさんのLab見学ツアー行ってみたいなぁ。


2021.5.15 こっぺ


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