鳥籠の外へと連れ出す問いのデザイン
※このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダシップコースの「クリエイティブリーダシップ特論」という、クリエイティブの力をビジネス・社会に活用しているゲスト講師の方々による講義のレポートです。
5/31の講義では、株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO 安斎勇樹さんのお話を伺いました。
Profile
安斎 勇樹 / Yuki Anzai
東京大学大学院 情報学環 特任助教。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。商品開発、人材育成、地域活性化などの産学連携プロジェクトに多数取り組みながら、多様なメンバーのコラボレーションを促進し、創造性を引き出すワークショップデザインとファシリテーションの方法論について研究している。主な著書に『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)、『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。
(引用:MIMIGURI design https://mimicrydesign.co.jp/member/ より)
このnoteでは安斎さんのお話の中から印象的だったことについて書いていきます。
見たいものを見ている私たち
講義の冒頭、こんな問いが安斎さんから投げかけられました。
あなたが夜、やるべきことを終えてリラックスしている時、目に見えているありのままの風景を絵に描いて下さい
私はぼや〜っとソファでくつろぐ情景を思い浮かべました。
すると、安斎さんから紹介されたのは、エルンスト・マッハの回答(通称:マッハの自画像)でした。
(Wikipediaより引用:https://images.app.goo.gl/NJ3oaZ5eFzH3gPGC7)
人それぞれ見えている景色は違うと思いますが、この絵ように、視界に映る鼻なども描こうとした人は中々いないのではないでしょうか。私も1ミリも目に写っている前髪や鼻を描こうとは思いませんでした。
(そもそも今までの人生の中で、鼻が見えている!と意識した瞬間など無いかもしれません。)
この絵を通して安斎さんは、私たちは「見えているもの」を見ているのではなく、「見たいもの」を見ているということを教えて下さいました。
視覚情報はもちろんのこと、日々触れる情報など、私の生活の中にある色々なものは自分の”認識”であり、”真実”では無いということを忘れないようにしないと思いました。
ワークショップにおける問いを研究する
マッハの自画像のように、私たちが見ている(と感じている)世界は、私たちが認識したもの・私たちなりの解釈をしたもので構成されていて、そしてそれがあたかも”当たり前”のように感じてしまう。
そんな”当たり前”を問い直す、現実世界と自分とのズレを認識することのできる「ワークショップ」という手法に魅せられ、安斎さんはワークショップの研究を始めたという背景もお聞きしました。
”ワークショップの研究”というと、「こんなワークショップを企画し実践しました」というような事例研究をイメージしていたのですが、ワークショップの「問い」を変数に設定し、「問い」の違いで議論がどう変わっていくか、というとてもシステマチックな研究をされていたとお聞きしました。
質問の抽象度や情報量などを変えた質問を用意し、グループごとに与える質問を変え、議論の展開を可視化することで比較をしていたそうです。
色々な要素をデータとして客観的に分析するやり方がとても勉強になりました。
そんな安斎さんのつくる「問い」の例をMIMIGURIのプロジェクト事例から教えていただきました。
CASE1.資生堂
グループの全社員46000人を対象とした行動指針の浸透プロジェクト
概要:
46000人の国籍も業務内容も異なる全社員に対して、資生堂の行動指針「TRUST8」を自分ごととして浸透させていくために、世界規模での展開を想定したワークショップを設計
設計した問い:
「8つのうちチームにおいて優先順位の低い指針を1つ削除し、新たに別の指針を1つ考案してください」
(参考:https://mimicrydesign.co.jp/project/shiseido/ )
CASE2. CITIZEN
ブランド・アイデンティティの核を学び、活用するための図録の編纂
概要:
"シチズンらしさ”を感覚的に理解しつつも、具体的にそれらが何であるかを言語化するには至らない中で、次の100年に残したいブランド・アイデンティティを定義するインナーブランディングプロジェクトの設計
設計した問い:
「"シチズンらしい”と思う時計を3つ選んできてください」
(参考:https://mimicrydesign.co.jp/project/citizen)
二つの事例を聞いていて、問いの重要さを改めて感じました。
自分だったら「我が社らしさは何か?」のような問いをいきなり出されたらまず困ってしまいますし、今まで誰かにラベリングされていた言葉しか出てこないなと思いました。
安斎さんが手がけた問いを出されたら、「感覚的にこれっぽい」、「これは違うかもしれない」などと具体的なところから汲み上げていくことができ、直球でもらった問いよりも、もっと温度のあるものが出てきそう、と体感的に思いました。
目的や現場の雰囲気など色々な要素を考慮し、数々の問いをシミュレーションされて設計されているのだろうなと思い、改めて問いの設計って難しいなと感じました。
問いの力を鍛えるには?
問いの設計は奥深く難しいことはよく分かったのですが、問いには”正解”があるわけではなく、どうすれば良い問いが作れるようになるのか、”問いの力”を磨くにはどのようにすれば良いのだろうか、という疑問に対し、安斎さんは以下のように答えてくださいました。
Q. 問いの力を磨くために普段から意識されていること・練習方法などはあるか?
A. 自分がどのような問いをしているかを自覚し、違うパターンで問いを考えることを意識してやってみる練習がある。
自分が思いついた問いを書き出してみて、KJ法などでカテゴライズしてみると自分の問いの特徴が見えてくる。違う人がしている問いなども分析してみると、色々な問いの形が見えてくるので意識的に自分が普段やらないような問いを投げかけてみる。この繰り返しをすることで問いの幅が広がっていく。
練習方法までとてもシステマチック!問いに限らず、自分の傾向を知る方法として、パターンを書き出してみる、という方法はとても勉強になりました。
最後に
これから修士研究という”問い”を立てて研究していく自分にとって、とてもとても勉強になる会でした。研究テーマという大きな問いはもちろん、インタビューや分析の切り口としての問いなど、さまざまな場面で問いと向き合うことになると思うので今回のお話のことを意識していけたらいいなと思います。
2021.8.7 こっぺ
授業から大分時間が経ってしまいました....反省....
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