見出し画像

コーヒー豆の焙煎度


焙煎のパターン

一般的に、焙煎度は①浅煎り②中煎り③深煎りの三パターンが存在します。どの豆をどの焙煎度で煎ることも可能ですが、生豆が有する本来の特性を踏まえたときに最もそのポテンシャルを引き出す煎り方を「おすすめ」と呼んでいます。

では、一体どのような豆において、どのような焙煎をすると、その結果としてどのような香りや味が生まれるのか、簡単に解説していきます。まず、各豆につき、それらが有するポテンシャルをいくつかの種類に分類したうえで味の区分けをしたいと思います。

各生豆のポテンシャル

ここ10年ほどでメジャーになってきたスペシャルティコーヒーは、まるで紅茶のような華やかな香りのする品種が多いです。例えば、有名なものでいうとパナマにおけるエスメラルダ農園のゲイシャがそれにあたります。このような生豆はその香りの豊かさを損なわないように浅煎りにすることが多い一方、よく飲まれる質感がありボディの強い品種、例えばブラジルのムンドノーボやカトゥアイといった品種は、生豆の持つ甘味(ここでは糖の甘さを指すのではなく、バターの香りと同様の風味を指す)を引き出すために、深煎り(中煎り)にすることが多い、といった具合です。

こういった、生豆の特性はいくつかの要素によって構成されています。主に、品種・標高・精製方法で分かれると考えればよいです。品種については別記事にて詳述していますが、大きな括りでいうと、①アラビカ種(コフィア・アラビカ)と②ロブスタ種(コフィア・カネフォーラ)が存在しており、繊細な味を有する品種はほぼすべて①に入ると認識いただくとわかりやすいかと思います。そもそも②は使い始めた当初から病原菌に強く、一本の木からの収穫量が多く、高温多湿環境でもよく育つことから大量生産品種とみなされてきた歴史があります。加えて②は豆の特徴から、香り高さ以上に圧倒的に質感が表れやすい品種であるため、深煎りのインスタントや品種交配に用いられてきました。また、標高でいうと、①~800m ②800~1,000m ③1,000~1,200m ④1,200~1,500m ⑤1,500~2,000mに大きく分類できます。①に近いほど酸味が少なくフレーバーに乏しいですが、質感や甘味を出すポテンシャルを秘めており、⑤に近いほど酸味やフレーバーに富み、質感のポテンシャルが減ってきます。要するに、酸味やフレーバーは、甘さや質感とはトレードオフになるということです。標高が高い地域で収穫された豆ほど酸味とフレーバーが豊かであることは、標高が高いほど冷涼な気候になりやすく、チェリーの成熟が遅いために密度が高くなることに起因しています。最後に精製方法でいうと、大きく分けると①ナチュラルと②ウォッシュドが存在します。①の方が香りが立った状態で出荷できるメリットがありますが、乾季の存在が実施条件として存在することや、完全手作業でのピッキングであるがゆえに欠点豆が出やすいというデメリットもあります。②は一度水に浮かべると欠点豆をスクリーニングできるので、①と比較すると少ないですが、コーヒー本来の香りが弱くなってしまうというデメリットが存在する、といった具合です。これらのいいとこどりをした生成方法が折衷式と呼ばれるもので、「パルプドナチュラル」「ハニープロセス」と呼ばれるものです。

詳細をわかりやすくまとめた本として、「コーヒーは楽しい!」が大変おすすめです。私自身、ウイスキーも好きで同著作のウイスキー版も保有しています。

ポテンシャルの活かし方

焙煎を行う焙煎士は、この生豆の特徴と顧客の好みを踏まえ、どの焙煎方式で焙煎豆を作るのかを考えていくことになります。上記でわかった人もいるかもしれませんが、基本的には生豆ごとに有する特徴を、焙煎を通じて引き出す、というのがその豆を最もおいしくいただく方法です。ですので、例えばパナマのゲイシャの場合は香りを活かすために浅煎りに仕上げるのがおすすめですし、ブラジルのムンドノーボやカトゥアイは質感を出すために中煎りもしくは中深煎りにするのがおすすめです。

煎り方として、冒頭で①浅煎り②中煎り③深煎りがあると述べましたが、平たく言ってしまうと、生豆に熱を加えている時間で判別することが可能です。火力にもよりますが、豆色が時間に従って変わるので、この色の変化を以て焙煎度を判別します。(厳密には音や香りも含めて判別することとなります)。肉と同じ(ではないですが)ように、生に近いほど素材本来の香り味が楽しめると言われており、コーヒーを趣味や仕事にする人は浅煎りが好みの人が比較的多いです。実際に世のスペシャルティコーヒーの専門店は浅煎りで提供している所が多いです。

ただ、豆の味の違いは見た目の違いだけで語れないところがコーヒーの奥深さを語るうえで理解が必要なポイントです。各焙煎フェーズにおける①加熱温度②加熱時間③攪拌度合④排気度合をそれぞれ適切にコントロールすることが求められるのです。これらの要素が異なっていると、一見見た目が同じ(生豆自体も同じ)豆でも全く異なる香りや味になります。

各焙煎フェーズを色の変化とともに追いましょう。まずは豆が緑色の状態から黄色に変化します。これは豆への吸熱反応を示しており、この時間をドライフェーズと呼びます。大体2~3分ほどでここからメイラードフェーズに入ります。これは、豆内部で化学反応が起こり香りと味が生成されると同時に色が濃くなっていく時間です。これらの反応が起こり、豆内部の圧力が高まると、大体8~12分ほどで内部の炭酸ガスがはじけて放出されて褐色になります。これをハゼと呼びます。ハゼが始まって以降のことをディベロップメントフェーズと呼び、これらの3フェーズに到達するまで、して以降の変数をどうコントロールするかで味が大きく変わります。

細かいコントロールはあれど、浅煎りで豆の特徴をしっかり出すためには、高温×短時間×多攪拌×少排気を念頭に置き、深煎りで豆の質感を重視する場合には、低温×長時間×低攪拌×多排気を念頭に置くという傾向で進めれば、想定の味に近づいていきます。ただし、いずれの変数も「ここは超えない/下回らない方がよい」という閾値があるので、その点に注意したうえで焙煎することが求められます。こうして焙煎士は豆のポテンシャルを引き出しているというわけです。

焙煎度の選定

では、どの焙煎度の豆を選ぶのか?これが難しい観点です。結論は誰が言っても変わらず、ご自身の好みを選べばよいということですが、私は同じ豆を色々な煎り方で比較してみることを提案します。コーヒーの味わいはウイスキーとも少し似ています。コーヒーが生鮮食品であるという点は全く異なるのですが、例え話としてどの焙煎度でコントロールするのか=どの樽で寝かせるのか、というくらいに違うと考えていただければわかりやすいです。例えば、サントリーの山﨑をミズナラ樽で寝かせたシングルカスクとシェリー樽に寝かせたシングルカスクだと全く味わいが違いますよね。(無論、焙煎度の話とは「熟成年数の長さ」が近しい論点ですが、ウイスキーの場合は熟成年数の高さ=味の良さに直結する傾向があるため敢えて「寝かせる樽の種別」で表現しています)

豆を表現する手段(焙煎度)に正解はありません。傾向や好み、焙煎士が狙う味はあれど、何がおいしいのかという定義は人それぞれです。何がなぜおいしいのか、そのメカニズムは何なのか、それを解き明かすのが、コーヒーという嗜好品のロマンだと思いませんか?私たちは、コーヒーを通じて「人が味に対して何を想うのか」「その味はどうできているのか」「自分が愛を持てるのはどんなものなのか」それらを哲学するお手伝いができたらうれしいと思っています。

いいなと思ったら応援しよう!