Roasting Training Report_vol.2
はじめに
今回は私自身がどのようにしてコーヒーの焙煎を習得し、スキルを磨いているのか、その一部についてご紹介できればと思います。そもそも、私自身コーヒーは元来好きであったものの、自ら焙煎することを試みたのはここ最近のことですので、コーヒーそのものの扱い方や焙煎をいちから学んだプロセスについて一部ご紹介できればと思います。特に、自学だけでなく海外に本店を構えるスペシャルティコーヒー専門店で焙煎の座学と実践の経験を積んでもいるので、そこで学んだことをお話ししたいと思います。(本記事はかなり専門的な内容になります)
前回のおさらい
コーヒーの焙煎度を語るうえでは色で語るのが最も客観的であるということは前回お話させていただきました。ただ、色を揃えると言っても見た目の色だけでなく、内側の粉に引き直した際の色までが揃っていないと同じ焙煎度とはなかなか言い切れません。外側中煎り×内側浅煎りと外側中煎り×内側中煎りでは当然風味が異なるというわけです。
焙煎豆の色とプロセスの関係性
今回のトレーニングでは、「全く同じ焙煎度合い=外側も内側も色が同じ」の場合であれば、味に差がでることがないのか?を検証しました。厳密には同じ焙煎度合いで仕上げることは不可能ですが、焙煎の中での「一部の要素」だけを変数として調整をし、他の要素は全く変化させない、という条件下で果たして風味が変化するのか?を確かめるという実験を行いました。行った焙煎回数は5バッチで、通常バージョン、Drying Phaseが長い/短いバージョン、Maillard Phaseが長い/短いバージョンを試行しました。要するに、焙煎開始~Dry endとDry end~1ハゼまでの時間をそれぞれひと区間として設定した際に、そのひと区間分の焙煎プロセスだけを変更した場合の味の変化をみました。
生豆の持つ水分量と密度
今更の当たり前情報で恐縮ですが、豆の種類によって水分量と密度が異なります。その差異によってハゼまでにかけなくてはならないエネルギー量が異なります。したがって、水分量が多く密度が高い豆にはそれだけ高い火力が必要ということです。今回はエルサルバドルの豆を使って焙煎し続けていたので、そのプロファイル変更の必要はありませんでしたが、先述の通り同じ豆でも「Dry endやはぜまでにどの程度の火力で熱するか」によって、水分の飛び方や豆の内側からの力の入り方が変わるため、味に変化が生まれます。一般的には、(同じ温度での焙煎という前提ですが、)焙煎時間が短すぎると中が生焼けで生っぽくなり、長すぎると焦げ臭くなってコーヒーの風味が消えてしまうと言われています。今回の事例では焙煎全体をいくつかのプロセスに分けて時間をコントロールしてみたので、もう少し細かい変化を生み出しました。
Drying Phaseによる変化
Drying Phaseとは、前述の通り焙煎開始~豆色の変化タイミングを指します。豆にもよりますが、大抵豆温度が150~160度になることでDry endを迎え、Drying Phaseは終了します。焙煎機にもよるので、一概に言えないですが、Turning pointを1.5~2分ほどで迎えてDry endは5分前後で迎えることが多いです。このトレーニングで用いた焙煎機も、私が個人的に使う焙煎機もいずれも容量の40%程度で焙煎をするようにしているので、そのような時間配分になっています。(使用する焙煎機が大きければ、熱空間が広いので豆全体が熱を帯びるのにもう少し時間がかかる場合が多い)
余談でしたが、火力を下げてこのDrying Phaseを短くした場合、水分量が比較的残りやすくなるため、生豆が含有する芳香成分や酸味成分を残したままMeillard Phaseに移行することができます。つまり、いわゆる香り高い浅煎りコーヒーのような焙煎を目指す場合は高温短時間で豆温度以が空気温度を大きく上回る状態をキープすればよい、というイメージです。長い場合は逆に酸味は消えますが、芳香成分も消えて焦げ感が残るイメージです。完全に好みの問題ですが、深煎りの炭焼きコーヒーのような味わいが好きな方は後者の焙煎プロセスで進めるのが良いかと思います。実際にこの説明通り、そのような焙煎で豆を焼き上げるとDrying Phaseが短いと芳香が残り(と同時に過度に短いとナッツっぽさや草っぽさが残る)、長いとカラメルのような香り成分(焦がしたバターのようなイメージ)と焦げ感によるボディが残りました。Drying Phaseの長短によって、次のMeillard Phaseで出す風味の前段階をデザインするのです。
Meillard Phaseによる変化
Meillard Phaseとは、Dry end~1ハゼまでの間を指します。豆にもよりますが、大体自分が扱う焙煎機だと185~195度くらいのレンジで1ハゼを迎えるので、155度前後から30~40度近くの温度上昇にかかる時間をMeillard Phaseの期間とイメージいただければと思います。このフェーズでは焙煎豆としての甘味、酸味、フレーバーのポテンシャルが決定するので最も重要なフェーズになると言われています。無論傾向としては、Drying Phaseでの話と似ているのですが、高温短時間であればあるほど香りが立ちやすく逆に時間を伸ばすほどに甘味が出るような設計が可能です。(時間を長くすれば甘味は出るのですが、長くし過ぎると香り立ちが消えかかってしまうので塩梅が難しいです。)3バッチ目と4バッチ目ではここの時間を調整することよる味への影響を測りましたが、傾向として少し長めにトライする方が全体の味が整う印象になりました。
Drying Phaseでは、所定の時間より長くしても風味が弱くなる気がするし、短くしても生焼け感が出てしまう印象がありましたが、Meillard Phaseにおいては、やや長くした方が自分好みの味に整うということがわかりました。香りと味のバランスをどこに見出すかによってローストデザインは変わるので、そこが店による個性の出し方になるのだと勉強になりました。(ただ、そこまで拘って焙煎していても味をどう受け取るかはお客様次第なので、半分自己満足の世界だな、と独りでに感じました)
メニュー開発
ここまで第一回から、「狙った焙煎度の出し方」と「焙煎過程での加熱プロセス」についてを実践を交えながら学習してきました。それらを踏まえ、自分好みの味としては、浅煎りコーヒーにおいてはTruning Point :1:30~2:00、Drying Phase:5:00、1st Crack: 8:00~8:30くらいで進めるのが好みであるとわかりました。大体、豆状態のアグトロン値でいうと75前後、粉でいうと+10で80~90の間くらいのプロファイルになります。勿論、中煎りや中深煎りだとプロファイルは当然異なるのですが、いずれにしてもコーヒー本来の華やかな香りを失わないようにレシピを作りたいと思っています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。焙煎豆を作るとはいっても純粋に生豆を加熱し続けるだけではなくどのようなタイミングで火力を強くするのか、攪拌度合を上げるのかによって熱の伝わり方、すなわち生豆へのカロリーのかかり方が変わってきます。すると豆のポテンシャルの中で、酸味や華やかさを最大限に出すのか、それらを抑えたうえで甘味のみを出すのか、はたまた両方をある程度出してバランスの取れた味わいを目指すのか、焙煎所によって様々な考え方があります。私の焙煎では、一定程度の華やかさは大事にするものの日常使いの豆を提供したいと考えるので、甘味やコーヒーらしい質感をベースにしつつ他の要素を盛り込むというスタイルでデザインを心がけています。