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ドラマ|カルテット
現実と虚構のはざまの適温がぬくい
ある日、4人は“偶然”出会った。
女ふたり、男ふたり、全員30代。
4人は、夢が叶わなかった人たちである。
人生のピークに辿り着くことなく、ゆるやかな下り坂の前で立ち止まっている者たちでもある。
彼らはカルテットを組み、軽井沢でひと冬の共同生活を送ることになった。
しかし、その“偶然”には、大きな秘密が隠されていた――。
レモンありますねからサンキューパセリ
集まったカルテット4人組の食事シーンの会話劇が印象的で心地よい。食事で自分が思っている普通は、同じ環境で育っていない他人にとって普通ではない。
唐揚げにレモンかけますか?
アジフライには醤油ですかソースですか?
唐揚げのパセリ見てますか?
レモンありますねって言ってほしい家森、気にしないすずめ、普通にかける別府、レモンかけたくない巻夫、レモンかけ続けた巻妻。言われないと気づけない、言われても大したことではない、違いを興味深いととるか、面倒くさいととるか。唐揚げレモン問題からは4人の性格、過去が垣間見える。また巻夫妻にとっては掛け違え続けたボタンの1つであった。
これは生まれ育った環境から出て、他人と食事をすることで初めて相対する価値観の違い。個人的に唐揚げのレモンは、あまり親しくない人間には絞ってほしくないし、その手は洗ったよね?って頭によぎるし、絞ろうもんなら存外硬くて力いるし、何ならなくても気にならない。
状況によってはどうでもいいカテゴリーに入ることも、日常で自分にとっての普通でないことと遭遇したら、相手にとっての普通を感じたい。
らくがきのネコ
巻夫妻が出会い、恋に落ち、家族になり、他人となる邂逅から崩壊の第6話。決めてとなったのは巻夫がプレゼントした好きな詩集がほぼ読まれずにパエリアの鍋敷きになってしまった瞬間。
心の中で大事にしていた思い出やモノが、それを共有し共感していたと思っていた相手からぞんざいに扱われてヒビとなる。
以前職場でメンタルをやられかけていた子に上司が「体の傷が治るが、心のヒビは治らない」と言ったとか言わないとか。正直らしくないし似合わない台詞だなあ、なんて内心ひどい感想を抱いていたが、そんなヒビなんだろう。
巻夫側にわかるー!と共感を得た視聴者が多そうな一方で、目がいったのは9頁目に挟まれネコの落書き。二人が結ばれた日にそれぞれがネコを描いた紙。それを読んでないけどもらった詩集に挟んでとっておくところが巻妻のかわいさを感じる。なんでかって私も取っておいたことがある。ウサギバージョンで。ところでページって、ページより頁のほうがしっくりくる。
病院行かなくていいよ/信じてほしい?
すずめの過去には蕎麦屋で巻が、巻の過去には軽井沢の別荘ですずめが声を声を掛け合う。すずめの「信じてほしい?」は、薄っぺらくなくてよかった。ちゃんと互いが救われる言葉を真剣にかけることができ、形骸化されない言葉の選択は難しい。
あなたが好き、大丈夫?、心配だ、大事だ、頑張れ。相手を想う簡単な言葉はたくさんあるしよく使われるが、積極的に軽々しく使いたくない。言うだけならタダだが相手に響いているかどうかを感じ取ってしまったとき、発した言葉に虚しさが雪のようにつもりなかなか溶けづらい。
相手が大事ならば相手が求めている言葉と掛けたい言葉が一致しないとき、求めている言葉を無責任には言いたくないものだ。関係が薄いほど何でも言えてしまう、そこに想いは無いから。