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母性

知人に「おふくろの作った料理が美味くてさぁ」って、よく口にする人がいて、
「へぇー」なんて言いながら心のなかで「なんだよ、いい年してマザコンかよ」って思っている自分がいる。

私には母性が足らないと気づいたのは
つい最近であった。
というか…母性自体がよくわかっていないのだな。

2歳の頃から祖父母に育てられたので
母親というものに甘えた経験がない。

そんなある日
子どもの頃読んだ
藤子・F・不二雄先生の短編
「やすらぎの館」を思い出し再読してみた。

主人公の男は大企業の社長だが
「君の神経は今、極度に張りつめて疲れ切っている。違うかね?」と
医者でもある知人のすすめで
紹介された会員制の秘密の館を訪れるのである。

その名も「やすらぎの館」。

部屋にあるものは全て大きく作られており、
主人公である男は子供服に着替えて
子どもの頃のように同じ会員たちと遊ぶのである。
どこがやすらぎなのか…と後悔する主人公…。
そんな思いがピークに達したある日
目の前に現れたのは着物を着た母親のような女性。
彼女は巨人症であった。
部屋の大きさはこの女性のスケールに合わせて作られている。
彼女の目には催眠術のような力があり
主人公の男を見つめ
「おかあちゃんて呼んでくれないの?」と
やさしく話しかける
「お……、おかあちゃん」と恥ずかしながら思わず言ってしまう主人公。
すると彼女は「ギュッ」と抱きしめるのであった。

当時読んだ時は全く理解ができなかった。
表紙も怖く気持ち悪い漫画であった。
マザコンに嫌悪感を持ちはじめたのも
ひょっとしてこの漫画を読んだからかもしれない。

カバー装画 福田隆義

私の母親はまだ生きている。
会うことは十年に一度あるかないかくらい。
お母ちゃん、おかん、ママ、おふくろ…と
呼んだことは一度もない。
私の中ではその人は昔っから母ではなく
知ってるおばさんなのである。

私には母性が足らない…

そう思っていたある日
ある方に駄々っ子みたいな
メッセージを送ったら
返信があり
メッセージを読むと
こんな文が最後の方にあった…

「男はみんな子どもでいいのです
それで成り立っていると
思ってる」

………その文を読んだ時
気持ちがすぅぅって安らいで
なんだ…包まれている…この感じ
これが母性かと…
思わず

「ママ…」と呟いたのであった。

その日から
その方は私の仮想上のママなのである。
やっと遅咲きのマザコンデビューを
したのであった。


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