【2話】ラーメン屋での野望
家族に内緒でラーメン屋のアルバイトを始めて早6ヶ月。
「誰にも負けない!」をモットーに飲食業界で戦い続けてきた本間ですが、ラーメン屋で初めての敗北を味わうことになります。
日本料理の板前での10年間の修行を積んできたので体力だけは自信があり、長時間労働は苦になりませんでした。
また、レッドロブスターでのスーパーバイザー8年の経験をしていたので、オペレーションのスペシャリストとしても負ける気がしなかったのですが、唯一負けたのがありました。
それは、スピードでした。
たった12坪しかない小さなお店でしたが、月商1,000万円以上を稼ぎだす人気店。
平日のランチタイムの客数は250名も回すのです。小さいお店でこれだけの売り上げを作るわけですから、その回転率は物凄いものがあります。
その忙しさと言ったら、最初の2ヶ月は手元の作業で一杯いっぱいでロクに目も開いていない状況でした。
年が明け、ようやくお店のスピードに慣れてきた頃、やっとお店の空気感を感じることが出来るようなり、作業中の手を止め、顔を上げて客席を見る余裕ができたのです。
そこで驚いたのは、よくテレビで見る芸能人や、明らかにお金持ちで遊び上手なお父様方のお客様ばかりでした。
「えっ、こんな有名人たちが来る店だったの!?」
元々本間が修行した和食屋も六本木の好立地なところにあったため、芸能人やお金持ちの来店はよくあったのですが、それでもこのラーメン屋での客層は一味違いました。
現役の芸能人はもちろん、人気絶頂期で引退した超有名歌手や、誰でも知ってるお笑い芸人まで、日本のトップクラスの人々が集まるお店だったのです。
西麻布という場所柄もあるのでしょう。お客様の層は凄かったようです。
しかし、同時に本間はこうも考えました。
「私が感動したこの味は、家で留守番をしている奥さんと子供たちは知らずして一生を終えるのだろうか?」
そう考えた瞬間、本間は居ても立ってもいられませんでした。
それを解決する方法はたった一つ。
「親父さん、この味をもっとみんなに味わってもらうために店舗展開しましょう!」
入って2ヶ月のアルバイトが突然の申し込みをしたのです。
思わずそのまま口に出して親父さんに進言してしまいましたが、同時に怒られる!と頭をよぎったのもよく覚えています。
「・・・お前、できるのか?」
しかし、帰ってきた言葉は予想とは違ったものでした。
真剣な目で本間を見つめる親父さん。返す言葉は一つしかありませんでした。
「できます!!」
「俺も昔そう考えてたんだよ。もうすっかり忘れてたがな…」
そう言うと、頑固親父の親父さんはニヤッと笑って返しました。
この時、本間と親父さんの心が通った初めての瞬間でした。
次の日、いつものように早朝に出勤して寸胴の掃除をしていると、自転車に乗った親父さんが出勤しました。いつもの赤い派手な自転車に乗って。
しかし、いつもと違ったことがありました。右手に大きな紙袋を抱えています。
「ほら、本間。これだ!」
「なんですか?これ…」
開けてみると中には札束が大量に入っていました。
「3,000万円ある。これでお前の夢を叶えてみろ」
意気揚々と札束を突き出してくる親父さんを他所に、本間の回答は、
「親父さん、足りないです」
「・・・えっ」
頑固な親父さんが一歩下がった。
本間の構想では3,000万円ではとても足りなかったのです。大量の店舗展開の構想を実現するには3億円が必要だったのです。
「じゃあ、どうするんだ」
「ランチが終わったら、毎日時間をください。この構想を実現するにはファイナンスを対応してくれる会社が必要です。これを見つけるまで毎日会社に売り込みに行ってきます」
それを聞くと、親父さんはしばらく考えたあと、「じゃあ、ちょっと待ってろ」
そう言い残すと、また札束の入った紙袋を抱えて帰って行きました。
その後、お昼前に出勤した親父さんは本間に紙切れを渡しました。
そこには、殴り書きで大企業の名前と担当者、電話番号が書いてありました。
「本間、ここに電話してみろ。話をつけておいた」
そう言って、じっと見つめる親父さんを前に、本間は恐る恐るメモ帳に書いてある大企業に電話をしてみることにしたのです。
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・・・つづく
*この物語は、ラーメン屋の代わりに“クロコ”としてスープ作りに命を燃やす男たちのストーリーです。今では当たり前となったラーメン屋のスープ外注を請け負う「業務用ラーメンスープ」ですが、それがどうやって生み出されていくのかの誕生秘話です。
*本記事はクックピットSTORYから抜粋したものです。
URL:https://cookpit.jp/story/
【会社情報】
クックピット株式会社
『ラーメンを健康にする唯一のスープメーカー』
【執筆】
取締役副社長 外薗史明