ヒグマのソテー(村上春樹風レシピストーリー)
「それは何?」
買い物袋から取り出した肉のパックを見て、脇に寄って来た妻は言った。
「ヒグマの肉だよ」
と僕は言った。
「ヒグマ?」
そう言って、妻は幼稚園児の女の子が写真を撮られる時にするように、首を傾げた。
「そう、ヒグマだよ。当別の店で買って来たんだ」
「なぜ?」
妻はまた尋ねた。
「わからない」僕は正直に答えた。「その答えを知りたいと思っているけれど、わからないんだ。とにかく僕はその店に入って、ヒグマの肉を買っていたんだ」
「いくらなの?」
「100gで600円ほど。