肉じゃがは強火で
人生最高の肉じゃが
肉を食べない方には申し訳ありませんが、今回は肉じゃがのレシピを巡るちょっとしたことを書きます。
うちの本屋に『フレンチシェフが作る「人生最高!」の肉じゃが』というタイトルの本があります。長らくフレンチレストランのシェフをつとめた田村浩二さんの本です。もちろん肉じゃがだけでなく、カレー、メンチカツ、オムライス、五目ごはんなど家庭料理を中心としたレシピが載っています。
それにしても「人生最高の肉じゃが」とは大胆なタイトルです。ほんとに、最高の肉じゃがが味わえるのか。つくってみました。
調理が下手だったのか、人生にいろいろなことがありすぎたのか、最高ではありませんでした。どこかがいけなかったようです。
たかが肉じゃがだが
肉じゃがはポピュラーな家庭料理です。つくったことのない人は少ないのではないでしょうか。基本の料理本にはほぼレシピが載っています。
しかし、レシピは料理家によって様々です。簡単なものから手の込んだつくり方のものまでいろいろです。
阿古真理が『小林カツ代と栗原はるみ』で<代表作「肉じゃが」のつくり方>として小林カツ代の肉じゃがレシピを解読しています。そのまま引用すると長くなるので、要約してレシピを紹介します。出典は『小林カツ代のおかず百科』(講談社、1996年)です。
・じゃがいもは大きめに切り、たまねぎは1センチ幅に切る。
・牛薄切り肉を食べやすい大きさに切る。
・鍋にサラダ油を熱し、牛肉とたまねぎを炒め、肉の色が変わったら、砂糖、みりん、醤油を加え、強めの中火で煮る。
・肉に味がついたらじゃがいもを加え、水をひたひたになるまで注ぎ、強めの中火で約10分煮る。途中で一度蓋を開け、混ぜる。じゃがいもが柔らかくなっていたら完成。
時短料理の小林カツ代らしいレシピです。
他の料理家はどのような肉じゃレシピなのか。もちろんそれぞれですが、例えばワタナベマキの『おいしい仕組み』(日本文芸社、2017年)掲載の肉じゃがレシピを要約で。
・鍋にごま油を熱し、牛肉を入れ中火で焼きつける。色が変わったらみりんを加え、からめ、いったんとり出す。
・この鍋にたまねぎ、じゃがいも入れ炒める。油が回ったら、牛肉、しらたきを離れたところに入れる。
・鍋に酒、だし汁を入れ煮立て、アクをとり、弱火にして落とし蓋をして15分煮る。
・じゃがいもが柔らかくなったら、醤油、塩を加え、さやいんげんを加え、落とし蓋をとり7、8分煮る。
肉をいったん取りだすなど細かなレシピで、調理時間は長めです。
レシピでの火加減
阿古真理が指摘していますが、小林カツ代の肉じゃがレシピで特徴的なことのひとつに火加減があります。
「強めの火で煮続けるところも違う。通常中火または弱火でじっくり煮含めることで、素材に味を浸透させる」(小林カツ代と栗原はるみ』p.100)
昔、女性誌の編集をやっていたとき、料理記事を担当していました。ある企画で日本料理店の料理長さんのレシピで肉じゃがをつくってもらいました。そのレシピでは強火で煮るやりかたでした。強めの中火ではなく、強火。「そのほうが美味しくできる」ということです。
以来、私も肉じゃがをつくるときは強火です。じゃがいもの切り方にもよりますが、強火で7.8分くらいが目安かな。
料理家のレシピを正しくつくることもいいですが、時にはアレンジしたり、冒険したりすることも必要かも。これをやれば、いつかは人生最高の料理をつくることができるかもしれません。
2019年6月14日 クック・バイ・ブック 上村武男