コンセプトを考える前に。どんな世界を叶えたいのか①
初めて飲食店を開くことになった。
飲食業に足を踏み入れてまる6年だが、「いずれ自分の店を持ちたい」と思ったことはほとんどなかった。
しかし後述する「叶えたい世界」をはっきりと自分の中で認識したことで、他人が作った店で働いていてもそれは叶えられないと自覚できて開業に動けたように思う。
それを言葉にしておく必要があると思ったので、noteに残しておきます。
この世界にどんな世界であってほしいのか?の現時点での私の答えのひとつは「安心してその人がその人自身でいられる世界を叶えたい」というものだった。
のっけから不躾なことを書くが、働いていたフレンチレストランの耐え難かったことの一つが完全無欠の上下関係だった。
「ここは軍隊みたいなもの。フランス料理の世界ではシェフが神様。シェフが白と言えば黒いものも白なのだ。」と教わったし、「星とるようなレストランではどこも同じような環境だ」とも言われた。
それを初めて聞いた時は心底引いたのだけど、そう言われる所以というものもあるようだった。
フレンチレストランの厨房において、スタッフ間にはピラミッド状の階層(階級とも言える)があり職位による格付けがされる。これは元々軍隊の編成を参考にして取り入れられたたものなのだ。
(ちなみにこの軍隊を模した構成をフレンチレストランの厨房に取り入れたのがかの巨匠、オーギュスト=エスコフィエだと言われている。)
シェフから指示された際の返事である「Oui chef!」、あれは軍隊における上官への返事「Yes, sir!」と同じ。
だからフレンチレストランの厨房≒軍隊、というのはあながち間違っていない。
そして軍隊における一番遠い感情が安心感だ。安心してちゃ戦えないからね。
その店での毎日は確かに、安心とはほとんど無縁の日々だった。
レストランあるあるだけど朝7時から夜22時まで勤務というのもザラで、その間交感神経は緊張しっぱなし。
当時働いていた店は知り合いもいない片田舎にあって住み込みで働いていたため、休日含めリアルな人間関係が仕事関連の人しかいなかったことも良くなかったと思う。
その店では10時と16時の1日2回まかないがあるのだけど、スタッフ10人もいて会話がほとんどないお通夜状態で食べていた。
別々に座ってるんじゃなくて、みんなで集まっているのに、です。
話しにくい雰囲気が確かにあって、あれは「会話は時間と労力の無駄。それより早く食べて仕事に戻れ」という意味もあったんだとは思う。
けどそれだけではなくて、作ったまかないに対しての文句を陰で言われたり、人格を否定する悪口を陰で言われたり、長期間にわたって誰かを無視するようなこともある環境だった。
トップが率先してそういうことをする人たっだ。
そうなるともう仕事”仲間”ではなくもはや敵といつもいる感覚になってしまう。
ほっとするはずの食事の時間ですら緊張が途切れなかった。
著名な建築家が設計した建物で、素晴らしい景色を望みながら、シェフが直々に作った間違いなく味が良いであろう料理を食べても、
食卓を囲む人たちとの安心感が無ければ「美味しい」と感じることは難しいのだとわかった。
つづきます
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