『文庫旅館で待つ本は』名取佐和子
この本を読み終わって閉じたあと、
私はしばらく身動きができなかった。
文庫がある旅館、凧屋旅館の若女将の円は、
本が持つ他の人には分からない刺激臭で、
本を読むことが出来ない。
お客様が訪れると本をすすめて、
その本の内容や、
感想を聞くのを楽しみにしている。
凧屋旅館を訪れるお客様は、その本を通して、
無意識に仕舞いこんでいた心に気がつく、
……という物語。
各章ごとにお客様が居て、
それぞれが自分の足で歩き始める感じは、
作家、青山美智子さんの作品と、
同じ流れと思っていたんだけど、
最終章で見事なまでの伏線回収に舌を巻いた。
ルーツを辿りつつ、
さりげなく各章も回収していく。
これ程、満足感に満たされる本も、
久々かもしれない。
でも、作中の円の言う通り、
全てを明かさない本だって、
可能性を無限に残した、
懐の深い作品なのかもしれない。
私は全部知って終わりたい方だけど。
因果、そして赦し。
読み始めとはガラッと印象を変えたこの作品は、
ひとり旅に持って行きたい1冊だと思いました。
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