『麒麟がくる』 41話「月にのぼる者」/共通テスト日本史Bで池端脚本ファンの面目躍如
明智光秀が主君信長に謀反を起こし、みずからも間もなく秀吉に討たれるのはみんな知っているわけで、何がどうなって本能寺に至るのか? というプロセスが「麒麟がくる」の最大のミステリーであり見どころ。
かつて光秀に「武士のくせに金勘定ばかりしてるドケチ」認定されていた斉藤道三は、実は戦で死なせた家臣の名前を夜ごと唱えるような至誠の人で、彼にとって金とは弱く貧しい国を変えるために必要な手段だった。
信長は光秀に「世を平らかに治めるため、新しい“大きな国”をつくろう」と言われてその気になり、古い勢力と戦をする。金を集め、派手に使う。道三と同じだと光秀は思いたかった。
でも違った。実は信長にとっては、「大きな国」という目標自体が手段だったのだ。「スゴイね、一番だね、うれしいな、大好きだよ」と喜ばせて褒めてほしいという、承認欲求をみたすための手段。
光秀は、松永久秀から受け取った天下の茶器・平蜘蛛を差し出して、「大きな国をつくるため、この名器に恥じない覚悟を持ってほしい。人心を正しく知り、慕われるリーダーになってほしい」と言う。
信長は受け容れられない。皆に喜ばれ、褒めてもらいたいから「大きな国」のためにがんばっているのに、自分なりにいろいろ折れたり我慢したりもしてるのに、なぜ喜んでくれないのか、どうして背かれるのか理解できない。母に疎まれ父にも理解してもらえなかった信長にとって、自分の可能性を見出し、認め褒めてくれる、疑似的な父母が妻の帰蝶と光秀だった。今、妻は去り、光秀に叱られている。そんなの納得できない。
信長の口から出たのは
「じゃあこれを売って金に換えようじゃないか。覚悟とやらも込みで1万貫くらいで売れよう」
まさかの転売ヤー発言ww
愕然とする光秀。お金なんかでは測れない、プライスレスなものを理解してほしくて心からのメッセージを送ったのに、このディスコミュニケーション。痺れる~!
もう、明日 本能寺の変が起きても不思議じゃないんじゃないか(笑)
一話から繰り返し描かれているのは、光秀にとって何より大切なのは「誇り」だということ。これは亡き父からの教えでもある。
誇り高く生きるため、女や子どもは傷つけない。主君や大切な人には嘘をつかないし、危険を冒してでも守り、戦う。主君の顔色をうかがって誰もが口をつぐんでいても、光秀は常にハッキリと物申してきた。
そして自らの誇りを大切にすればこそ、他者の誇りも守ろうとする。敗軍の将にも礼を尽くし、実は忍びだった菊丸の思いを汲み取って逃がし、松永が命の次に大事にしていた平蜘蛛に敬意を払う。
その誇りが通じないのが信長だと明らかになってきた。
道三はかつて「王たる者は、正直でなければならない」と言って、息子の高政でなく婿の信長に期待をかけた。あのころの信長は承認欲求と行動がシンプルに結びつき、良い結果が出て、まっすぐでいられた。
今は違う。帰蝶が去り光秀に不信を抱いた今、無償の愛を求める本心をもう誰にも出せない。嘘にまみれた秀吉ももちろん、「王の器」ではないだろう。
正直なのは光秀だけだ。その正直さを、道三も、かつての信長も愛した。そして今、帝も。
帝の怖いとこは、雲の上の人でありながら忖度力がすごいんだよねw
信長は承認欲求、十兵衛は誇り。それぞれにとって一番大事なものをあっというまに見抜いて、彼らが欲しい言葉を与えてしまう。
ここへきて、帝を太陽ではなく、月にたとえる劇作にハッとした。夜空にひんやりと輝き、男たちを狂わせてしまう。
守護代、将軍、関白、帝、そして「武士なんか戦ってみんな死ねばいい」と言うアナーキストな伊呂波太夫。「社会の秩序」というものを描くことに意欲的なこのドラマの行きつく先が気になる。
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安土城の大広間が広い!ディスタンスばっちり!
大河でここまで広い室内撮影は珍しい。上座の信長と下座の十兵衛(帰蝶)との間の距離の遠さが、わかりやすい比喩になっていてイイ。
最終盤に入り、光秀と信長、光秀と秀吉、光秀と帰蝶など主な登場人物が相対して話すだけでもいちいち見ごたえがあります。一年間の積み重ねが効いてくる、これが大河の醍醐味ですよね!
それにしても、ここで菊丸が家康のもとへ逃げおおせたの、期待しちゃうなあ。そもそも、一話の冒頭で菊丸を助けて始まった「麒麟が来る」だ。
菊丸は序盤で「不思議な魅力がある人。離れがたい」と言っていて、もともと十兵衛を好きなんだよね。最後にまた助け返してくれるんじゃないかしら。まさかの天海大僧正エンドくるか?!
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さて、今年も恒例、共通テスト(旧センター試験)の日本史Bを解いてみました。
日本史だけど中国の諸王朝の変遷が問われたり(外国との関係性を考えるのは必須なので良問)、資料は文字や通貨・そして近現代の農地改革の歴史で、幅広い出題になっていたと思います。
私の自己採点は79点。
実は、ドラマのおかげで6点ほど稼いでまして(笑)
というのは、福田英子というかなりマイナーな人物について出題があったんですけど、この人、『足尾から来た女』というドラマで鈴木保奈美が演じてたんですよねw ちなみに主演は尾野真千子。
このドラマの脚本を書いたのが、何を隠そう『麒麟がくる』の池端俊策。
池端ファンの私は録画を何度かリピり、例によって暑ッ苦しい感想を書いた記憶があります(笑)。
たぶん出題者も池端さんのファンですね(嘘です)
ドラマは2014年1月放送だったので、今18歳の受験生が5年生の頃。まぁ小学生が見るドラマじゃなかったかなー。
「主人公のサチは女性活動家・福田英子の家政婦として上京するが、その列車の中で、官憲に「福田英子は社会主義者」と教えられ、スパイ行為を命じられる」
「福田英子が登場する場面から一気に面白くなる。女性や労働者の参政権を訴え、多くの活動家を家に集わせ、彼らに一目置かれる女傑。文盲のサチに「世界のことがよくわかる」と字を教えようとする」
「すべてを知ったサチは、英子や啄木への恨み言を口にすることなく、ただ歩いていく。目指す病院は「とりあえずの目的地」であって、道ははるか遠くまで続いている。淋しくて心もとない道を無心に歩く。彼女は病院で、また楳子に文字を習うだろう。作品の序盤で「本を読めば世界のことがわかるようになる」と言った英子が甚だ不完全な人間である様子を見れば、勉強したって簡単に世界が変わることなどないのは明らかだ。それでも人は学ぶ。歩くことも出会うこともやめない。それだけがかすかな希望だ」
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去年のセンターは何点だったっけ?と振り返ると、ちょうど「麒麟がくる」初回放送の日に解いてました。
沢尻さんの件で初回放送が2週間遅れたんですよね。
で、一年経っても終わってない! 本能寺も麒麟もまだ来ない。
本当に、今まさに、歴史に残る日々なんですよね。
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