リュート奏者に楽器は何台必要?
演奏のお仕事の依頼を受けた際に、いろいろやりとりをしたあとに、
「で、結局私はどの楽器を弾けば良いのでしょうか?」
となることが、わりとあります。
だいたいは演奏曲目や共演者などの情報から、こちらで何となく当たりを付けられるのですが、それができない場合もあってなかなか厄介です。
大前提として、リュートという楽器はヨーロッパに限っても、時代や地域によって様々なタイプがあるために、「これ一台さえあれば万能!」というものは存在しない、と言って良いでしょう。
各時代・地域にどんなリュート属の楽器が存在したかについては、マガジン「リュートへの招待」で計5回に渡って書きましたので、まだお読みでない方は是非こちらをどうぞ!
依頼によっては、
「このあたりのレパートリーをやるので、是非ともこの(特定の)楽器でお願いします!」
と言われるケースもあります。
そうした場合、先方の期待に添える楽器が手持ちにないときは大変申し訳ない気持ちになりますし、逆に、
「楽器の選択は、全てそちらにお任せします!」
と言われてしまうと、与えられた自由度が高すぎて戸惑う・・ということにもなります。
おそらくこうしたことは、例えばピアノやギターなどでは、起こりにくいはずです。
大雑把に言えば、例えばクラシックのギター奏者であれば、手持ちの楽器がたった一台だったとしても、胸を張って活動できるのに対して(ですが、メイン楽器が故障した際の、スペアの楽器はあるに越したことはありません・・)、リュート奏者の場合ですと、なかなかそういう風にはいかないというのが実情です。
「プロのリュート奏者の方って、楽器を何台持っているのが普通なんですか?」と何気なく聞かれることがあって、そういう場合答えに窮してしまいます。
手持ちに最低何台、いや何種類の楽器を揃えれば良いのかは、普段から大いなる悩みの一つです。
とりあえず現在の私の手持ちの楽器は、計8台。
内訳は以下の通りです。
◆プレクトラム・リュート
◆ルネサンス・リュート 大小2台
◆キタローネ(イタリアン・テオルボ)
◆アーチリュート
◆バロック・リュート
概ね挙げた順に、それぞれ時期的に古いレパートリーに対応しています。
プレクトラム・リュートは14世紀から15世紀の始め頃まで。バロック・リュートはバロックと言いつつ、モーツァルトが亡くなる18世紀の末頃までは普通に使用されていました。
キタローネとアーチリュートは、主にバロック音楽の演奏に用いますが、その場合もソロではなく、伴奏用に使うことが圧倒的に多いです。
さらにこれらの他に、リュート属には分類されない楽器で、むしろ現代のギターと親近性の高い、
◆バロック・ギター
◆ビウエラ・ダ・マーノ
がそれそれ一台ずつあって、これで計8台となります。
この数を見て、大抵の方は
「多い!」
と思われるでしょうが、正直なところ、私はどちらかといえばこれでも「ミニマリスト」だと思っています。
↑ 音大時代に弾いていたリュート/ギター属の楽器たち。ここには映っていませんが、18世紀モデルのマンドリンも弾いていたことがあります。
手前にある一番小さなソプラノ・リュートから、右奥にある一番大きなキタローネまで、サイズも調弦もまちまち。
一つの本番で複数の楽器を持ちかえるとなると、頭が混乱します。
まあそれ以前に、これだけ弦が多いと調弦作業が大変!
数年以内に、ルネサンス・リュートをもう一台、さらにバロック・リュートももう一台迎え入れる予定がありますが、これで計10台ですね。
自分の経済状況や家の広さからして、これ以上増えることはないでしょうし、正直増えるのを想像したくもありません。
私は常々、
「演奏家と楽器コレクターは必ずしも一緒である必要はない」
と思っています。
そして、概してプロ奏者よりもアマチュア奏者の方が、より楽器に「凝れる」という面があるかとも思います。
ルネサンス・リュートばかり6、7台とか、それも違う製作家による同じ仕様の楽器を持っているという例は、少なくとも私の周りのプロ奏者ではいませんが、アマチュア奏者の方からはちらほら、そうした話を聞きます。
ですので、プロ奏者なら手持ちの楽器の種類が多いだろうというのは、ある種の偏見かもしれません(ただし、奏者が製作家を兼ねている場合は除きます)。
むしろその逆パターンもあります。国際的に名の知られたリュート奏者で、ドイツ在住のロバート・バルト氏は、かたくなにバロックリュート、しかも最近は13コースの後期モデルのものしか弾きません。
製作家もしかり。現代最高のリュートの名工とされる英国のポール・トムソン氏は、だいぶ前からルネサンス・リュートのみ、しかも7コースの楽器に限って注文を受け付けています。
また手持ちの楽器は多くても、演奏するレパートリー自体に縛りを設ける人たちもいます。
例えば、私のプレクトラム・リュートの師であるクロフォード・ヤング氏や、その後任教官であるマルク・レヴォン氏は
「演奏するのは、16世紀前半の音楽まで!」
とはっきり決めているようです。
ある分野をとことん追求したいとなると、奏者でも製作家でも、そのための適度な取捨選択は必要になるということなのでしょう。
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さっきの写真には続きがあって、ガンバ属の楽器たちもついでに並べました。
↑ 疲れた・・の図。本人も楽器と一体化していますね。
まあ、人間の体も楽器であるには違いない!
ここには、当時学校の所有だったために返却したものや、自分の楽器だったが後に売却したものなどが混ざっていますので、これら全てが今の自分の楽器ではありません。
この記事を書くにあたって、本来であれば自宅にある楽器を全部出して並べるべきなのでしょうが、今はそのスペースもなければ、それをする気力すらないのです。
というわけで、10年以上前の写真でどうかお許し下さい・・