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五月の歌

あっという間に五月ですね。日本はゴールデンウィークまっただ中!

にしても「五月病」なる言葉は、一体いつできたのでしょうか。
どちらにしても、新年度が四月始まりという、日本特有の事情から派生した言葉に違いありません。

かく言う私も、まだこちらでの新しい職場に慣れていないので、しばらくはいろんなことで気をもむ日々が続きそうです。
息抜きにこちらで記事を書くのも一興。

さて、概して日本よりも緯度の高いヨーロッパでは、この五月上旬が気候的にはベストシーズンといえます。
暑すぎもなく寒すぎもなく、それに日照時間も程よくあって、ちょっと家の外を散歩するだけでも、気分が晴れます。

昔のヨーロッパの人々にとっても、五月は一年の中でとりわけ気分のうきうきする時期だったらしく、また多くの歌や文学作品にみられるように「五月=恋の季節」でもありました。

今回は、近々やってくるかもしれない「五月病」を前もって吹っ飛ばすべく(!)、五月にちなんだヨーロッパの古い歌をいくつかご紹介します

まずは中世の吟遊詩人たち、トゥルバドールによるこちらの歌から。

歌詞は、当時の南西フランスで使われていたオック語
Kalenda mayaは「五月の新しい月」くらいの意味でしょうか。
なんとなく予想がつきそうですけども、オック語のkalendaは、英語の「カレンダー calender」と共通の語源をもっています。

ちなみにこの曲、歌詞なしで器楽だけで演奏しても面白いです。

まあ、こんな感じで打楽器も入れてどんちゃん騒ぎ。
このようにもともと単旋律しか記されていない音楽は、アレンジによって、無限の響きの可能性があります。

ヨーロッパの北と南では、同じ五月といっても感じ方がずいぶん違います。
ひょっとしたらその感覚の違いは、歌のメロディにも現れているのではないでしょうか。

現在のドイツの辺りで活動したミンネゼンガーたちの歌にも、五月の到来に際して歌った、こちらの有名な歌があります。

旋法のゆえか、トゥルバドゥールの五月の歌と比べると、ちょっぴりもの悲しい響きのようにも聞こえますね。

ところでお気づきになられたでしょうか。これを歌っているグループの名前が、まさに先ほど紹介したばかりの歌の名前「カレンダ・マーヤ」なんですよ!

この曲が含まれているアルバムは、私の古楽の原体験ともいえる一枚で、良かったら是非、通して聴いていただきたいと思います!

さて、時代を下って私の大好きなルネサンス音楽の中に「五月の歌」を探してみましょう。
となると、『戦い』『鳥の歌』『狩り』などの表題作品や、あけっぴろげな歌詞を使ったシャンソンで有名な、クレマン・ジャヌカン(1485頃~ 1558)による作品の一つをまず思い浮かべます。

「この五月に、私は緑のスカートをはいて・・」とはじまる歌詞。
最後の方は、かなり素朴な愛情表現(行為?)の描写が見られますけど、ジャヌカン作のシャンソンにしては、これでもまだおとなしいほう

15世紀から16世紀のフランスの歌には、「この五月に Ce moys de may」ではじまる歌が他にいくつもあって、愛の歌を導き出すある種の常套句のような感じだったのかもしれません。

最後はさらに北へ行き、エリザベス一世やシェイクスピアの時代の英国を訪れてみることにします。

英国の声楽グループの老舗、キングス・シンガーズが歌ったことにより一般的に有名になったこの『今や五月 Now is the month of maying』は、普段この時代の音楽を聞かない方でも、ひょっとしてどこかで耳にしたことがあるかもしれません。

イタリアのバレットと呼ばれる世俗歌曲が、英国で大流行して、現地化したもので、大抵はこのようにファラララ・・という、はやし文句的なリフレイン(繰り返される定型句)がつきます。

ご紹介したのはかなり古い演奏、そして映像なのに、今なお新鮮です。
さっきのフランス語の歌のあけっぴろげな感じとも違う、こうした「適度に砕けた」味わいがなんともいえないです。

先ほどの映像では、途中からエンディング画面になりましたが、実はこれ、キングズ・シンガーズのメンバーたちが、マドリガルの歴史を紹介したBBCの番組の一部。

マドリガル Madrigal は、イタリア語ではマドリガーレ Madrigaleと呼ばれ、元来は複数人の歌手たちによる、かなり高尚な内容を歌ったものでした。
しかし、シェイクスピア時代の英国では、このように砕けた歌詞で気軽に歌えるものも、広い意味でマドリガルとして捉えられるようになったのです。

ついでに、これは五月とは関連がないのですが、リュート奏者としても良く知られた作曲家ジョン・ダウランド(1563~1626)作曲の、楽しい『Fine knacks for ladies ご婦人がた、小間物はいかが』を歌っている、同じ番組シリーズからの一場面です。

リュート奏者と歌手たちが、こうしてテーブルを囲んで演奏するのが当時の一般的な形。
こうした形態で演奏できるように、わざわざ楽譜の中の各パートの向きが調整されて出版されたことが、番組の中でも説明されています。

リュートは、以前ご紹介したこともある若き日のアンソニー・ルーリー氏。
この番組では、伴奏で共演するほかに、曲目アドバイザーとして名を連ねていました。

演奏に先立って楽譜の説明をしているのは、キングズ・シンガーズの当時のメンバーで現在は指揮者として活動するジェレミー・ジャックマン氏。

私は最初にこれを見たとき、「久米宏やんか!」と思いました。

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最後は完全に余談でした。

良い気候に恵まれた、この五月の時を大切にお過ごし下さい。


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