理想の働き方にこだわることで、人生が有意義になる。
時間は有限だ。
働かされると思うのか、自分の選んだ働き方をしていると胸をはって言えるか。
いつでも自分に問いかけていたい。
かつて。
あたしは巨大な老舗ホテルの裏方仕事をしていた。
レストランのバックヤードで高価な銀器やグラスを磨いたり、朝食用のパンを焼いたりコーヒーを落としたり。
それ以外に、朝、昼、晩、と複数のアルバイトを掛け持ちしていてから、いつだって眠くて眠くて仕方ない。うとうとしながら歩いてガードレールにぶつかって目を覚ます、なんてことが日常茶飯事だったあの頃。
沼の底を這っているみたいで、目の前が暗く淀んでいて、どこに向かっているのかもわからなくて、毎日ため息をついた。
あたしはいつか表舞台で活躍する自分を夢見て、ひたすら働いていた。お金を貯めてやりたことをやるぞ、という決意から仕事をしまくっていたのだが、いつしかお金を稼ぐことそのものが目的になってしまい、ただただスケジュール帳をバイトのシフトで埋め尽くした。
そんな日々の中。
ある日、トースト用の食パンが入ったケースを持ち上げた姿勢から、一歩も動けなくなってしまった。
疲労による股関節麻痺だった。
「あと少し治療が遅かったら歩けなくなっていましたよ」と医者に宣告された。
忙しさを理由に人間関係もないがしろにしていた。
いくつもの予定を綱渡りするようにこなし、大事な人とのコミュニケーションにかける時間をはしょり、対話や議論を避け、親交を温める時間を省いた結果、たくさんの友人を失った。
これじゃまずい。
歩行練習をしながら、自分のこれまでの働き方に思いをはせた。
それからというもの私は自分の”理想の働き方”を真剣に考えるようになった。
仕事をする上で気をつけるようにしたのは5つの事柄だ。
1)いつ、どれくらいの量の仕事をするか、自分で仕事をコントロールできる環境を整える。
2)一日に仕事を詰め込み過ぎない。締め切りの設定に余裕を持つ。
3)創作にかける時間を確保する。自分がいちばんやりたいことだから。
4)1日のスケジュールの中に余白を取る。
トラブルがあった時に対応することもできるし、息抜きをすることでリフレッシュできる。
5)仕事に繋がるかもしれない、という淡い期待を抱いて、気がのらない集まりにはいかない。自分の気持ちに蓋をして欲を出すと、後悔する。
忘れないように何度も繰り返し唱えた。
壁に貼ったりもした。
自分で決めたことだけど、気を抜くとすぐ忘れてしまうからだ。
最初は仕事を制限すると収入が減るような気がして不安だったが、時間と心に余裕ができたことでむしろ収入は増えた。
人間関係にも無理がなくなり、好きな人と心地いい時間を持つことができるようになった。
人生は有限だ。
仕事や時間に殺されないように、地に足をつけてひとつひとつを大事に積み重ねていきたい。