見出し画像

第6期『ゲゲゲの鬼太郎』は現代のワイルド・サイドを歩く。

第6期『ゲゲゲの鬼太郎』がギャラクシー賞テレビ部門特別賞を受賞!! それを(勝手に)祝して、2018年7月発売『CONTINUE』Vol.54にて掲載された「今期の鬼太郎、マジでヤバすぎだろ!!」対談を完全無料公開!! 水木しげるテイストがモダナイズされた第6期『鬼太郎』、その奇跡とは何か――!?

新時代の鬼太郎

『CONTINUE』編集長・林(以下、林) 名人! 大変です! いまの鬼太郎って見てますか? ちょっとビックリなんですよ、いまの鬼太郎!

内田名人(以下、名人) もちろん見てますよ。いま鬼太郎を『コロコロ』でやってる段階でビックリですよね(笑)。『ボンボン』でやっていた印象が強いですから、やっぱり。

 僕、完全にノーマークだったんですけど最初から注目してました?

名人 第6期が始まるっていうので期待はしてたんですよ。まず僕が思ったのは、鬼太郎って10年周期でやってるんです。60年代の白黒、70年代とあって。だから、2010年代もあるよねって感じで待ってたんですけど。前回が2008年ですよね、第5期が。

 結構経ってるんですね。

名人 三条陸先生が脚本を務められた第5期から10年くらい経ってるんですよね。それがゼロ年代のアニメ鬼太郎。だから2010年代も絶対あるだろうな、と踏んでたんですよ。まずツイッターで情報を知ったんですけど、公式のアカウントをフォローしてると、ものすごく活発なんですよね。宣伝もしっかりしてて、先行映像も配信してて。

 そこは現代的なんですね。

名人 僕が最初にスタッフが楽しんでるなって思ったのは、番組が始まる際のビジュアルをアニメ第1期の作画タッチで上げたときがあったんですよ。それが、すごいツボにハマって。そんな絵柄では当然やらないんですけど(笑)、それを見たときに「信頼できるな」と思って。そう、これです、これ。

 うわ! そのまんまだ!(笑)

名人 そういうところからも水木先生へのリスペクトが伝わってきて、僕らとしては期待しちゃいますよね。

 実際の絵は違いますけどね(笑)。

名人 こういうお遊びがあるのが、嬉しいんですよね。それで一番最初の鬼太郎をやった野沢雅子さんが目玉のおやじをやるっていう。最初の鬼太郎がいまの鬼太郎を見守っているっていう配役も良かったですよね。

 スタッフも若くなってると思うんですけど、考えてみると水木先生がお亡くなりになってから初の鬼太郎なんですよね。そういう意味でも、新時代の鬼太郎なんですよね。

原作よりも深い? 衝撃の「幽霊電車」

名人 編集長は、どのタイミングで見られたんですか?

林 去年、ウチの子供が『妖怪ウォッチ』の映画に行ったんですよ。そこに鬼太郎が出たんです。『妖怪ウォッチ』の映画はキャラが大幅に変わったりして結構、ウチの子からするとイマイチだったみたいなんですけど、そこに出た鬼太郎がカッコ良くて、一気に鬼太郎のほうが好きになっちゃったんですよ(笑)。

名人 それまで鬼太郎のことは全然知らないで?

 まったく知らなくて。それで昔の鬼太郎を東映アニメーションのオフィシャルチャンネルで見るようになってたら、「春から新シリーズやるらしい」って話を聞いて、毎週日曜に見るようになったんです。だから、ものすごく期待値は高かったんですけど、まさか、いまみたいな方向の期待値は当然ないですから(笑)。

名人 ないですよね、普通は(笑)。

 鬼太郎ってもともとダークヒーローみたいな側面がありましたから、そんなにヤバいなっていうのは思わなかったんですけど、最初に「あれ?」と思ったのは7話の「幽霊電車」。「幽霊電車」って古典的名作で何度も映像化されてるじゃないですか? 話自体はスタンダードな流れがあって。

名人 おばけをバカにした人間が妖怪たちにこっぴどい目に遭って。

 最後地獄に行くのか、逃げ出すのか、みたいな。そこで悪いヤツと一緒にいるのがメガネ出っ歯の水木キャラなんですよね。その水木キャラで描かれたサラリーマンがいて、なんやかんややってたら最後、その水木キャラが一緒にいる悪い上司から滅茶苦茶なパワハラを受けて自殺してたっていう、とんでもない展開になって(苦笑)。

名人 ビックリしましたね。これまでのアニメ版では「妖怪を小馬鹿にしていたサラリーマン側がこっぴどい目に遭う」で終わってたんですけど、あれは、いままでの「幽霊電車」にはなかったです。

 ここ最近になって「パワハラ」とか「セクハラ」とか「Me Too」とか言われるようになったじゃないですか。そういうのが社会問題になってたときに鬼太郎がそれをやったから、子供と見てて「なんなんだこれは!」「こんなものを見せていいのか!」って(笑)。

名人 ラストも変化球だったじゃないですか? オチがふたつありますからね。パワハラを受けた会社員が実は死んでいて、最後にLINEいじめをやっていた女子高生に鬼太郎が釘を刺して終わる。だから「大人のいじめ」と「子供のいじめ」があって、そういうことをやる者の末路が描かれてる。原作の「幽霊電車」よりも深いんですよね。

現代社会に漂う存在としての鬼太郎

名人 それを踏まえて、ちょっと前の「電気妖怪の災厄」(5話)を見ると、「安全ではない電気を使うのは危険だ」みたいなセリフがあったり、電気利権の闇みたいなのが、あくまでもストーリーの邪魔にならないように描かれてるんですよね。で、注目なのが、妖怪の怪しい電力を絶賛している主婦がサザエさんなんですよ(笑)。

 あははは、そうでしたっけ?(笑)

名人 サザエさんキャラなんですよ、思いっきり(笑)。「たんたん坊の妖怪城」(第3話)での「自分と異なる者を認められない奴は嫌いだ!」という鬼太郎の台詞も、ヘイトによる社会の分断が叫ばれているいま、とても意味深で。だから「どこまで計算して入れてるんだろう?」っていう。こういうのを見ても「第6期、ただごとじゃないな」って思うんですよ。

 前に『CONTINUE』で特集しましたけど、ノイタミナの『墓場鬼太郎』は深夜にやってたんですよね。だから、僕ら向けなんです。僕らはあれを見て面白かったんだけど、子供に向けてやるかよっていう。

名人 僕的に言うと、等身が上がって話題になったねこ娘と犬山まなちゃん。第3期でいうところの(天童)夢子ちゃん。第3期でのヒロインふたりは鬼太郎をめぐる恋のライバルだったんですけど、第6期ではLINE友達で、相思相愛じゃないですけど、まなちゃんは「ねこ姉さん」って慕ってる。それはパターン破りなんですよね。

 ねこ娘の等身が変わったっていうのは発表直後から話題になりましたよね。しかもツンデレで(笑)。

名人 第3期も第4期もねこ娘は鬼太郎にベタベタなんですけど、今回みたいにツンデレなのは、たぶん初めてですね。

 全国の小学生男子の性癖を決定づけるくらいの勢いですよ、ねこ姉さんは(笑)。今年のコミケとか、ねこ娘いるんだろうなあ。

名人 あと、14話に登場したイケメン化した「ヤング目玉のおやじ」(笑)。あれも。すごかったです。

 すごかったよね! しかも、声が野沢雅子さんだから、まんま『ドラゴンボール』の悟空っていう(笑)。ツイッターのトレンドワードにも「目玉のおやじ」が入りましたからね。どんだけ衝撃的なんだっていう。

名人 細かいですけど一反もめんも変わってるんですよ。一反もめんに女好きっていうキャラクターが付加されてるんです(笑)。だから、やっぱりパターン崩しをしてますよね。鬼太郎も特徴的で、それほどフレンドリーじゃないっていう。それも含めて、これは長期スパンで描こうとしているものがあるなっていう。

 鬼太郎っていうのは、それこそベトナム戦争のときにはベトナムで戦ったりとかありましたけど(「鬼太郎のベトナム戦記」)、昔から現代社会が抱える問題っていうのに、その時々で向き合ってたんですか?

名人 それはあると思いますね。それこそベトナム戦争もそうですし、流行も取り入れています。オカルトブームのときはUFOとか宇宙人戦ったり(笑)。

 あははは、そうなんだ(笑)。

名人 時代時代で鬼太郎っていうのは不定型といっても過言じゃなくて、時代の傍観者というか、最終的には概念みたいな存在になるんですね。そういう「存在としての鬼太郎」として、今回のアニメでは時代を上手く切り取ってます。

 モダンなんですよね、鬼太郎って。人間じゃなくて、それこそ概念みたいなものだから、ベタベタした感じがないんですよね。

ニチアサで描かれた現代というディストピア

 より現代ぽいってことで言うと、タヌキが日本を支配する11話~12話(「日本征服!八百八狸軍団」「首都壊滅!恐怖の妖怪獣」)。初の前後編なんですけど、タヌキに操られた巨大モンスターが自衛隊のヘリからガンガン攻撃されながら都市を一気に壊滅させるシーンがあって、それを見た瞬間「シン・ゴジラじゃん!」っていう(笑)。

名人 ネットでも話題になりましたね。出て来る総理大臣も責任論しか言わない。

 それも大概ビックリしたんですけど、後編では、いきなりタヌキの尻尾を付けたまなちゃんの友達が尻尾のない男の子をいじめてるんですよね。日本全体が「タヌキに服従してないヤツを排除しろ!」みたいなディストピアになってて、家が火事になった人に対して消防士が「反タヌキ派の家なんて燃えてしまえばいいんだ」って言い放ったりして。

名人 あれは日本古来で言うところの「村八分」ですよね。

 街には「反タヌキ派の収容所を作るべきだ」みたいな声もあって。極めつけだったのが、まなちゃんの家でお父さんとお母さんが言い争ってて、まなちゃんが「タヌキが全部悪いのよ!」みたいなことを言ったら「大きな声でそんなことを言うもんじゃありません」「近所にバレたら何をされるかわかったもんじゃない」って言ってるのを見たときに「デビルマンじゃねえか、これ!」っていう(笑)。僕ら、今年『DEVILMAN crybay』の特集をやったりしてたから「どういうことなんだ!?」って。

名人 深読みすると、いまの右傾化していく日本に対する警鐘と言うか

 全体主義みたいなものに対する恐怖ですよね。

名人 しかも、ねこ娘が自分たちのことを「レジスタンス」って言ってますからね(笑)。それを日曜の朝にやってる勇気というか。だから、僕が言いたいのは、第6期は第2期以来の社会風刺性が入った鬼太郎である、という。第2期は公害問題とか、働きすぎ問題とか、ガンガンに描かれてたんで。

 第2期の鬼太郎は、どういう作品だったんですか?

名人 第2期は初めてカラーになった作品なんですけど、第1期の白黒時代に水木先生が描かれた原作のストックがなくなってしまって、水木先生の短編、だから「貧しい人が欲に目がくらんだ末に、もっと酷い目に遭う」みたいな短編を、そのまま鬼太郎に持ってきために、恐ろしく暗い、重い、社会風刺性の高い伝説のシリーズになってるんです。それに第6期は近付いてると思います。

子供番組で問題提起するプロの手法

 もうひとつ、9話の「河童の働き方改革」は、みんな、ちゃんと覚えておくべきで、衆議院で「働き方改革関連法案」が採決強行されたのが2018年の5月25日なんです。それで、2日後の27日に「河童の働き方改革」をやってるっていうね(笑)。ブラック企業が河童をキュウリで死ぬほど働かせるっていう話。

名人 その後に「キュウリよりもお金をもらったほうがいいんじゃないか」って気付く河童(笑)。そして労働条件を良くしようと交渉して決裂。でも、すごく楽しく見れるんですよね。テンポが良くて。

 尻子玉を抜かれる描写とか、なんとなく淫靡な感じもあって(笑)。男女問わず尻子玉を抜かれまくるという。

名人 砂かけばばあですら尻子玉を狙われますからね(笑)。だから、これが重要だなと思ってて。ただ単にハードな内容をやってるんじゃなくて、しっかり子供番組に落とし込んでいるっていう。この巧みさ。

 でね、最後は丸く収まって「キュウリ1本だけでいい」「お金よりも大事なものがある」っていうメッセージを描いてる。ただ、それも「僕はキュウリ1本だけでいいんだ」って河童の男の子に言わせること自体が、いまの働き方改革みたいなところに対する問題提起にはなってると思うんですよ、個人的には。

名人 問題提起をする番組が、アニメでもドラマでも、そもそも少なくなってきたっていうのは前から思ってるんですけど、それを、まさか朝9時の鬼太郎でやるとは思わなかったです。前回の第5期はコメディ性とアクション性が高い作品だったから、やられた感はありますよね。意欲的ですよね。

 意欲ありすぎですよ(笑)。でも、ツイッターをみたら、ねずみ男役の古川登志夫さんが「毎回脚本のコンテンポラリーネタの盛り込みに惹かれる」って書かれてますね。だから演者さんにも、そういう意識があるんですよね。「今回の鬼太郎は、ちょっと違うぞ」って。

個人的には、いまくらいの感じがいいですよ。これ以上ハードすぎると、たぶん、キツくなると思うんです。いまくらいであれば、安心して子供にも見せられる。これ以上行くと、親として「大丈夫かな?」と思っちゃうんですよ(笑)。

名人 そこがプロの手法ですからね。そのままやるのは芸がない。それはプロの仕事ではないですからね。

子供たちが見つける20年目の「答え」

 昔の少年マンガって、それこそ原作の『デビルマン』とか『あしたのジョー』とか、それを読んだ子供たちは、そこで良いことも悪いことも学んだ。いまは自主規制じゃないけど、全部クリーンになって、社会の暗部みたいなものを知らないまま大人になることの是非みたいな議論がありますけど、それで言うと、日曜の朝9時にこれをやるのってすごいなって思って。でも、僕らが子供の頃って、子供向けの番組でも、こういう突っ込んだ表現ってありましたよね。それこそATGの人たちが、こぞって子供番組を描いてた時代もあって。

名人 佐々木守先生とか上原正三先生とか。

 『帰ってきたウルトラマン』の「怪獣使いと少年」とか。切通(理作)さんが『怪獣使いと少年』って本を書かれたじゃないですか? たぶん当時の子供たち、それこそ庵野(秀明)さんにしても、みんな「あれは子供心にすごかった」って覚えてたと思うんですよ。それを形にして本にしたのが『怪獣使いと少年』ですけど、今回の鬼太郎って、そういう子が出て来るんじゃないかな、と思うんですよね。いまの子供たちが大きくなって「あれは何だったんだろう」って。

名人 それは大事ですよね。「あれは何だったんだろう」って思わせる、「この物語はハッピーエンドなのかバッドエンドなのかわからない」というお話ってありましたから。番組側も答えを出さずに視聴者に委ねるんですよね。「あなたはどう考えますか?」って。それが、6期の鬼太郎にも見える。

 いまの子供たちが20年後とかに「あれは何だったんだろうな」と思って、その答えを見つけることができれば良いんでしょうね、すごく。

名人 『CONTINUE』読者も、まだ間に合いますから、見てほしいですよね。まず「幽霊電車」を見てほしいです。一番わかりやすいと思います。水木先生よりもブラックにアレンジしたっていう(笑)。原作のないオリジナルエピソード回もいいですよ。第6話の「厄運のすねこすり」とか。

 水木先生も大概ブラックですけど、それ以上ですからね(笑)。僕は、やっぱり「河童の働き方改革」かな。尻子玉を抜かれて腑抜けになる鬼太郎も含めて見てほしいですね。あとは単純に、なぜ、これほどまでにアグレッシブなのかっていうのを聞いてみたいなあ。攻めすぎですよ。こんなに攻めてる番組はないです。

名人 楽しみですよね。この鬼太郎が、どういうエンディングを迎えるのか。人間と共存するのか。第3期みたいなベタベタではないだろうし、すごいニヒルな鬼太郎ですからね。親子で楽しめるますし、お父さんが子供に説明できるかもしれないですよね。

 でも、サラリーマンのお父さんは、すごく辛い気持ちになるような気もしますけどね(笑)。

※この対談時の放送は第14話まで。その後のエピソードも粒ぞろいの第6期『ゲゲゲの鬼太郎』。気になった方は現在、CSアニマックスで放送中です!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?