キーエンスはなぜ高年収なのか。生産性と社会的な企業価値
先日、2021年度のフォーブス・世界長者番付が発表されました。
「世界長者番付2021とアフターコロナの業界動向」でも取り上げましたが、世界長者番付の1位はアマゾン創業者 ジョフ・ベゾス氏、2位はテスラ創業者 イーロン・マスク氏です。
日本勢では、29位(日本1位)がソフトバンク創業者・孫正義氏、31位(日本2位)がファーストリテイリング会長・柳井正氏、62位(日本3位)がキーエンス創業者・滝崎武光氏がランクインしています。
孫正義氏、柳井正氏は日本においても知名度はありビジネスパーソンであれば誰もが知っている人物だと思います。
一方で、キーエンス創業者・滝崎武光氏の名前を知る人は限られているとは思います。
日本の高年収ランキングの上位の常連になっており、キーエンスの社員の平均年収1800万以上と言われています。
とてつもない数字です。
以前、「年収ランキング1位の企業創業者から学ぶ経営」にも書かせていただきましたが、キーエンスの経営から学ぶべきところはとても多いです。
創業者の滝崎武光氏はメディアに極力露出せずに黒子に徹していることで有名です。
ワクセル主宰・嶋村吉洋氏も滝崎武光氏の経営をロールモデルとし、ご自身は黒子に徹しながら事業を拡大させ、現在のソーシャルビジネスコミュニティ「ワクセル」を創立したと言われています。
このように各界の実業家、経営者、起業家に影響を与えるキーエンスとはどのような企業なのだろうか。
そして、滝崎武光氏によってここまで高年収企業に育て上げられた原因は何だろうか。
今回はそれを徹底解剖していきたいと思います。
キーエンスが高年収の理由
上場企業の年収ランキング上位をキープし続けるキーエンス。2020年3月期の有価証券報告書に記載された平均年収額は1800万円を超えています(平均年齢35.6歳)。高収入で有名な三菱商事が約1600万円(42.6歳)、不動産賃貸やビル開発の大手ヒューリックが約1700万円(39.4歳)です。
このように毎年、上場企業における年収ランキング上位の常連になっています。
それではなぜそこまで高給なのか。
注目したいのは、キーエンスの18.2%という原価率の圧倒的な低さです。ヒロセ電機は57.8%、村田製作所は62.1%です。実はキーエンスは、部品を生産する工場を持っていません。製造原価や設備投資の減価償却、製造にかかる従業員の人件費などが大幅に削減できています。他社を圧倒する営業利益率50%超という数字の主要因はここにあります。
次に注目したいのが、従業員1人あたりの売上高と営業利益。キーエンスの従業員1人当たりの売上高は6600万円。一方、ヒロセ電機は2600万円、村田製作所は2100万円です。キーエンスは他社の2倍以上稼いでいます。そして驚異的なのが1人あたりの営業利益。キーエンスは3300万円、ヒロセ電機は400万円、村田製作所は300万円です。まさに桁違い。
キーエンスが高給の理由として注目されるのは、
①原価率の圧倒的な低さ
②従業員1人あたりの売上高と営業利益
といえます。
従業員1人あたりの売上高は6600万円、営業利益は3300万円と、他社と比較しても圧倒的な差をつけていることが分かります。
商売において、売上を最大化、経費を最小化していくことは基本中の基本といえるでしょう。
京セラ創業者の稲盛和夫氏も京セラフィロソフィにおいて経営の心構えにて説いています。
このように従業員1人あたりの生産性を上げ、売上高を増やし、経費も抑え、営業利益を徹底的に追い求めているからこそ、従業員に対する還元も多いとみることができます。
当然のことながらそれだけの生産性を発揮すれば高給になるのは当たり前だと言えるでしょう。
では、なぜそこまでキーエンスの従業員はそこまで生産性が高いのか。
キーエンスは、製品知識を営業マンに持たせ、顧客(製造業など工場のオーナー)が抱える課題を正確に吸い上げて、最適な提案をしています。部品一つひとつは安く仕入れられますが、それを統合することで高額なサービスへと結びついているのです。この会社は1円も値引きしないことで有名です。すなわち、クライアントが「はい」と頷く他ない最適な仕事をしているということになります。これが安く仕入れて高く売っている秘訣です。
そして、メーカーや製造担当者、カスタマーサポートなどに頼らずに、営業マンが1人で解決している生産性の高さに強みがあるのです。
シンプルに営業マン1人あたりの製品知識の高さ、顧客課題を正確に吸い上げて顧客視点で課題解決に取り組んでいるからだとわかります。
安易な値引きもせずに一企業の代表として営業マン1人が全ての工程において営業活動から課題解決に努めていることから生産性の高さが伺えます。
経営と数字
経営をしていく上で、数字、すなわり売上、経費、利益というような数字は切っても切り離せない関係だと思います。
企業として売上を上げていくことは社会に対してどれだけ価値を提供し貢献できたかのバロメーターになるものです。
同じように一個人としても収入を上げていくことは、その個人の生産性がどれだけ企業あるいは社会に対して価値を提供できたかの一つの指標になるものだと思います。
つまり、高収入であればあるほど、その仕事のもつ責任、そして世の中に対する価値貢献度合いは高いということができます。
キーエンスが徹底的に利益を追求する姿勢こそが社会に対して大きな価値をもたらしていることが分かります。
経営者こそ、数字にこだわる
キーエンス・滝崎武光氏を尊敬するワクセル主宰・嶋村吉洋氏も徹底的に数字にこだわっています。
「数字で会話することが大切」だと口酸っぱく仰っています。
私が起業を志し始めた当初、講演会にて学んだことは今でも自身の仕事において大切にしています。
例えばセールスにおいても目標売上、受注件数、期日、訪問件数、アポ取り件数というように全て数字に落とし込んでいくことが大切です。
むしろそれがなければ仕事にならないと思います。
経営において数字を上げていくことこそが社会に対して大きく価値を貢献できることだと思います。
ESG投資と社会的な企業価値
「環境」「社会」「ガバナンス(企業統治)」を重視するESG投資が世界中から注目を集めています。
日本においてもESG投資を意識する企業が大企業を含めて増えてきています。
「ESG投資」とは、E(Environment=環境)、S(Social=社会)、G(Governance=ガバナンス)を基準に企業に投資することです。従来のように、企業の収益性だけで投資を決めるのではなく、環境問題や社会問題への取り組み、企業統治の適正度も鑑み、投資を行うことをESG投資と呼びます。
企業の生産性、収益性だけではなく、環境問題、社会問題への取り組み、企業統治の適正かどうかも企業への投資価値を判断するというものです。
先ほどまでキーエンスの企業として、あるいは従業員としての生産性、収益性はとても高いとみることができました。
一方で、ESG投資的な観点でみるとどうなのでしょうか。
MSCI(米・モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社)が作成するグローバルな株価指標です。その中の、「ESGセレクト・リーダーズ」に選出されることが、企業にとっては誇るべきことで、アップル、マイクロソフト、VISA、トヨタ、ソニー、キーエンス、オムロンなど名だたる企業が選ばれています。
それ以外では、アメリカ版のヤフーファイナンスのサイトで、企業ごとに「サスティナビリティ」という項目があり、「環境」「社会」「企業統治」のそれぞれがスコア化されています。また、再生可能エネルギー100%に取り組む「RE100」に加盟することも、企業価値を高めるために有効でしょう。
加えて日本では、ESG投資に関連する指標、たとえば年間CO2削減量や女性の管理職比率、障がい者雇用率などをまとめた「非財務報告書」を作成する流れも広がっています。投資家はそれらの開示情報をもとに投資判断を行っています。
出典元:ESG投資が世界で注目を集める今、「環境問題」「社会問題」「企業統治」を重視する企業こそが生き残る
キーエンスは、ESGセレクト・リーダーズというMSCIが作成するグローバルな株価指標のなかでも名を連ねています。
収益性だけではなく、ESG投資としての企業価値、社会的な価値が高い企業となります。
従業員1人あたりの生産性、そして企業としての生産性、社会に与える影響をどこを切り取っても企業の模範となる存在だといえるでしょう。
近年では、SDGs(持続可能な開発目標)に向けて世界中の企業が実現に動いています。
地球環境問題、社会問題の解決、そしてこれからの持続可能な社会を創っていくための活動が求められています。
キーエンス滝崎武光氏をロールモデルとする嶋村吉洋氏のワクセルにおいても「アースデイ」「Worldshift」というような地球環境問題、社会課題の解決に向けて取り組みを行っています。
さまざまな企業がESG投資を重視しながら企業活動を行っていることがわかります。
おわりに
このようにキーエンスがここまでに高年収の理由、あるいは創業者の滝崎武光氏が世界長者番付にランクインするほどの巨大企業に至った原因について書いてきました。
企業としての生産性のみならずESG投資にまでしっかりと目を向けて、「環境」「社会」「ガバナンス(企業統治)」を重視していて、社会全体に対する影響を考えて企業活動をしているから他ならないと思います。
企業としての顧客ファーストの生産性の高さを追い求めること、そして社会に対する影響も含めていくことが最も大切な取り組む姿勢だと思います。
そして、それを徹底的に追い求めていく企業こそが今後の時代を席巻していくのだと学ばせていただきました。
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