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【財オタ出張相談2024(後編)】枠配分と行政評価・自律的自治体経営

みなさん、こんにちは。
一般社団法人新しい自治体財政を考える研究会(通称:財ラボ)事務局です。
当研究会では、財政をはじめとした行政に関する知識・経験が豊富な「財オタ(詳細はこちら)」に、各自治体が抱える財政に関する課題や悩み事を直接相談することができる出張相談を開催しています。
今回は、枠配分制度を一部導入しており今後制度の拡充を検討している財ラボ会員自治体と財オタ・今村さんとの出張相談(オンライン)の内容を全3部構成でお届けします。


前編:枠配分導入~運用の実務・技術的手法
中編:枠配分と起債・組織体制
後編:枠配分と行政評価・自律的自治体経営


財政運営の実態や実務に沿った質疑応答が交わされたため、今回の質問自治体(担当者)と同様の課題をもつ
・現行の予算編成方法に限界や改善の必要性を感じている自治体
・「より良い予算編成や組織体制強化の実現」など課題を抱える財政担当者
の役に立つ内容になっているかと思います。

ぜひ読み進めていただければ幸いです。
【質問自治体】
義務的経費を含む経常的経費にのみ一部枠配分を導入し、投資的経費については一件査定の現状。
組織体制の強化とともに自律的な自治体経営を図るためにも今後、枠配分の制度拡充を検討している。
【回答者】財オタ 今村さん


①今後、全庁的に枠配分制度を拡充していくにあたって、これまで財政課が担ってきた各課の予算要求などの調整権限を各部長が持つことを想定しているが、大きな組織と違い、財政や企画部門の経験がある人材や各部局による自律経営の土壌が乏しい中で、制度転換をすることへの不安も大きい。
各部局側にある調整課(筆頭課)の設置形態について具体的に説明をしていただきたい。

1人の部長が平均して4~5課を持っているとして、その課の中の一つをご質問にある筆頭課に充てます。
この筆頭課は、予算編成時だけではなく常日頃から照会回答や人事、時間外労働の集計とりまとめなど、部局内をまとめる役割を持っていますが、ここに部局内の予算調整を任せています。
財政から枠が配分されたら、部内の課同士で調整をお願いするわけですが、この筆頭課がまずは調整にあたり、難航する場合は部長が調整に入ることになります。

どうしても課長に直接予算を配分すると、課長は自分のところの事業を守ることを優先しまいがちになるため、課を取りまとめる部長に配分し、部の中で議論をしながら枠に予算を収める指示や調整が必要になります。
しかし、運用の初期段階などで調整が難しい局面が出てくると思います。
その時は、企画と財政部門でそれぞれ相談に乗って伴走支援をすることが大切ですね。
いずれは、部局ごとに自律した経営ができるようになることが目標ですから、手取り足取り教えるのではなく、あくまで「伴走支援」に徹することが重要です。

②当市では部のマネジメントが機能しきれていないことが課題だと認識している。企画部門が中心となって行政評価の手法を見直している中で「枠配分制度の拡充をうまく活用して部のマネジメントの強化を図れないか」というのが今回の相談会を依頼した経緯でもある。

(背景)現在も、「ビルド&スクラップ」で新規事業をあげる際には既存事業の見直しを行うルールとしているが、実態としてスクラップが実行されていない。新規事業の良し悪しとその財源捻出の調整は企画と財政部門に依存している状態であり、本来原課の事業を俯瞰してマネジメントする単位である部の役割が曖昧になっている。

査定方式の手法や行政評価の導入有無は関係なく、「部が課を束ねる機能がない」組織体制が問題の根源ではないでしょうか。
原課は自らの課の事業推進や維持のことしか采配できず、庁内を横串で見て各事業の優劣をつけることができないために、外部の財政課が査定をすることで無理やり枠に収める必要が出てきます。
そうなると部長も課長も、よその組織からの指示を受ける立場になってしまい自分たちの予算にも関わらず、マネジメントが機能しなくなってしまいます。

たしかに「各課事業の目的も実施意義も異なるのに、事業の優劣を付けることは困難だ」という話をよく聞くことがありますが、これは部長に判断させる仕組みの有無が原因だと私は考えています。

そういう意味で枠配分という制度は、事業の優劣や優先順位をつけ、取捨選択をするのに適しているツールだと捉えています。
もちろん、制度を導入することによって自動的に判断ができるようになるわけじゃないので、各課でどんな事業をしてどのくらいお金がかかっているのか、今後話題に挙がる行政評価についても勉強し上手く事業が回っているのかを部長の目でしっかりと確認する必要性を理解して取り組んでもらうことが重要です。

もちろん、財政や企画部門が伴走支援として部長に技術的なアドバイスをすることも必要だと思います。
福岡市でも、私が枠配分制度を拡張したときに「今まで財政課がしてきたことを、いきなり私たちにさせてもできない!」といった声が上がったので「最初は手伝いますよ」と言って、枠に収めるためのアドバイスや事業のスクラップの相談などに乗っていました。
やはり定着するのに2~3年かかりましたね。
逆にこうやって組織が成長していくことを目指さないと、いつまでたっても企画と財政部門に事業の優劣はお任せ、ということになってしまいかねないと思いました。

③現在行っている「行政評価制度の再構築」によって政策の流れをロジカルに組み、部単位で客観的な成果と事業を結び付けた自律的な施策マネジメントを可能とすることが真の狙い。その実現のために、企画と財政部門の連携も非常に活発化しているところである。

非常に事情はよく分かります。
私がこれまで「行政評価そのものが予算編成とあまり関わらない」と言っていたのは、あくまでも行政評価の中の“事務事業評価”を予算編成に活用するというのは(予算編成の)尺に合わないと考えているからであり、むしろ“施策評価”は、もっと予算編成に関わっていくべきだと思います。

“施策評価”にしても“事務事業評価”にしても、ここで重要なことは「評価する人が自分で取捨選択をして改善をしていく仕組み」を構築しなければいけない、ということです。

貴市の今後の展望をお聞きすると、部単位で「いま、自分たちの事業は上手くいっているのか?」について判断できるツールとして行政評価を活用し、予算編成にも反映していきたいのだと理解しました。
そして同時に枠配分制度も拡充することで、どんな風に枠を活用したら足りない枠を収めることができるようになるのか、実体験の中から行政評価の重要性を理解してもらう流れが良いのでは、と思いました。

これは私個人の考えですが、行政評価を“コミュニケーショツール”だと捉えています。
評価することそのもので行政サービスが向上するわけではないですが、同じ調査様式で各事業の評価をすることによって、組織や所属を横断してどの事業も同じ目線で客観的に評価ができるようになる、いわば共通言語を獲得する感覚と似ていると思いませんか?

そうすると部長が所管事業を評価する際に、どの事業も一定のものさしがあった状態で「この事業は上手くいってそうだ」「この事業は上手くいっていないんじゃないか」と議論ができるようになります。
また、内部だけではなく市民や議会への対外的な説明時にも、行政評価(評価調書)を見れば、事業の進捗や成果が一目瞭然という風になっていることが理想だと思います。
まさに組織横断・庁内外で活用できるコミュニケーションのツールとして、全庁的に行政評価を作成することが、まずは一番大切だと考えます。

私自身、行政評価についてはこれからもっと勉強しなければいけないところがたくさんあります。
施策と事業のツリーの体系や目標値の設定など専門の方もおられますし、最近では、予算~評価の連動管理や施策、事業別成果を可視化できるシステム開発に挑戦している民間企業も見受けられます。
そういったやり方を勉強しながら、なるべく職員の手間を掛けずに貴市が理想とする行政評価制度の再構築ができたら良いという風に思います。
そして、枠配分制度の拡充と一緒に展開することによって貴市が目指す自律的な自治体経営を実現できれば幸いです。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
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