“もっと知りたい!枠予算のススメ”③『政策推進・財政健全化と枠配分予算』_財ラボ分科会2024
みなさん、こんにちは。
一般社団法人新しい自治体財政を考える研究会(通称:財ラボ)事務局です。
今回は、財ラボ分科会2024「“もっと知りたい!” 枠予算のススメ③政策推進・財政健全化と枠配分予算」についてお届けします。
財ラボが実施する分科会とは、通常の講演会とは異なり、より狭く深く、財オタと会員が一体となって考えるワークショップです。
本分科会では、福岡市に枠配分予算を導入した財オタの今村寛さんを講師にお招きし、
「枠配分予算の仕組みは分かるけど、うちの自治体に導入する時にはどうしたら良いんだろう」
「枠配分予算を導入しているけど上手くいかない。何を改善したら良いんだろう…」
など、講演会では質問しにくい自治体財政課職員からの課題や疑問について全4回に渡って今村さんが相談に乗っています。
*本分科会(全4回)の各テーマは、財ラボ会員の皆さんから募集した枠予算に関する課題や疑問を基に下記のとおり設定しており、各回先着応募のあった会員(5自治体)が、オンライン上で講師との対話を通じて枠予算に関する課題や疑問点を積極的に解決できる場となっております。
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第1回:対象事業の選定、配分額の計算
第2回:制度の柔軟な運用
第3回:政策推進・財政健全化と枠配分予算
第4回:自律経営と枠配分予算
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第3回目のテーマは『政策推進・財政健全化と枠配分予算』。
参加した皆さんからは、次のような感想をいただいております。
・まだ枠配分の経験がないなかでの検討段階ですので、大変参考になりました
・今村さんの説明はわかりやすく、納得できる内容でしたので、非常に参考になりました
ご参加いただいた自治体の皆様、ありがとうございました。
本記事では、分科会第3回目の質疑応答の内容をお届けします。
※第1回分科会記事はこちら
※第2回分科会記事はこちら
【質問者】参加者の皆さん
【回答者】財オタ 今村さん
◆長年の枠配分予算圧縮で現場の裁量が縮小するのではないか
①事業発足当初年度は政策的経費として枠外予算で扱っていたものが翌年度からは枠内予算になるため、枠内予算の対象経費が増加傾向にあります。福岡市では、枠予算の増加を抑制するような取り組みをされていますか?
枠予算の対象経費が増えていくことは新規事業の打ち出しだけでなく、物価高騰や対象人数増加に伴う経常経費の増もあり、当然の現象といえます。
福岡市では、枠対象経費に必要となる財源を毎年6月~8月前半に調査・算出を行い、来年度予算編成で使える配分総額を決定します(必要経費と同額ではない)。
まず、全体の一般財源収入見込みから枠対象外の義務的経費・特会への繰出金を差し引き、残った枠対象経費への配分可能額に合わせ、枠対象経費として必要な額に圧縮率を掛けて配分しています。
②(①の回答を受けて)毎年、部局に枠予算のシーリングを要請するという認識でしょうか?
例えば、前年度100万円の予算がついた枠外事業でも、翌年度枠内事業となれば全体のシーリング率(圧縮率)が20%かかった場合に80万円しか使えなくなるため、枠内で既存事業を見直さないと継続できないことが起こります(新規事業を枠内で継続するか、枠外として継続運用するかは自治体ごとに検討の余地あり)。
ここで、ビルド&スクラップの考え方で優先順位付けが働いてきます。新しいから優先ではなく、限られた財源の中で何を優先して、何を辞めるかを毎年現場でゼロベースから議論できるようになるわけですね。
枠配分予算制度に対して「毎年見直しが必要になるなら新規事業の立ち上げ(ビルド)なんてできないよ」という批判を受けることがありますが、一件査定でも同じ問題は起こっています。裁量的経費の財源が減っていくのは手法の問題ではありません。
『どの事業を残し、どの事業を廃止するか』を、財政課が一手に引き受けて一件査定をするのか、現場で考えて判断していくのかの違いです。
◆政策推進・財政健全化を図るための制度設計や取り組み
③首長判断で枠外対応している事業が過去からずっと積み残しになっている現状で、どのタイミングで部局の枠内予算に変更するべきか悩んでいます。福岡市ではどのように対応されていますか?
福岡市では、マスタープランの実現に向けて4カ年単位の実施計画を策定しています。計画更新時に重点施策事業の検討を行っており、検討結果に沿って枠内外事業の判断がされます。重点事業は実施計画に基づくため、必然的に4年に1度見直されていきます。
④各部局が責任を持って枠内で予算を編成するという意識が薄れてきていると感じています。福岡市では、枠配分予算について各部局への研修や説明はどのように行っていますか?効果的な取り組みがあれば知りたいです。
私が財政調整課長として在籍していた平成24年~27年の4年間の取り組みの中で最も効果があったのは、庁内職員向けの出前講座です。
まず自治体の財政構造(収支、裁量的経費、最適化の必要性)について説明し、政策推進派と改革できない派両論はどちらも原課の意思であることを伝えたうえで、
「各部局に財源を枠配分するので、予算編成時に財政課を通さずに自分たちで既存事業を見直して財源を確保し、新規事業を打ち出してください」
と枠予算制度の目的・主旨を話していました。
現在、上記の職員向け出前講座は行っていませんが、枠予算の説明は事前調査時と枠配分時に継続して続けています。
また、予算編成説明会時にその年の枠の仕組みを各財務担当者に説明しています。
⑤当市では枠配分予算制度を導入して7年目ですが、既存事業の見直しが進まず、新規事業が出てこないことに問題意識を持っています。強化施策を枠外予算として認める方策も講じましたが、効果がありませんでした。原課による事業見直し・新規事業創出のモチベーションをアップさせるような取り組みはありますか?
枠予算における事業の見直しとは「自分たち(原課)がやりたいことのために自分たちの事業を見直す」というのが本質です。
一方で、原課から新規事業がでてこない場合は「見直ししないと新しいことができない」状況を作り出しても原課のモチベーションは上がりにくく、予算編成の手法だけで解決を図ることは難しいかもしれません。
また、財政課だけではなく政策推進の企画部門と協力するのも一つの手だと思います。
福岡市でも、新規の強化施策を企画部門が庁内を探し回って掘り起こしたり、現課に働きかけたりして動いています。
財政部門・企画部門の各担当課で役割分担をして、原課を伴走支援していくような体制を構築することも政策推進のカギかもしれません。
⑥当市では一般財源の見通しから、義務的経費への財源を確保するには、財政調整基金を取り崩して繰り入れる必要がある見込みです。福岡市では、枠予算制度下での財源不足への対応をどのように行っていますか?
福岡市では、9月時点で財源不足額が100-150億円ある状態で部局に枠を配分しており、この額は財政調整基金では到底整理しきれないです。
この財源不足額について二役(市長・副市長)には説明しますが、職員向けには「財源不足があります」という説明しかせず、圧縮率を高くすることもしていません。
枠配分時の財源不足額については、財政課での査定や財源調整によって解消させています。具体的には義務的経費の査定、2月補正への前倒し・翌年度補正への先送り、一般財源見込み額の調整(税収見込みの精査、地方財政計画に基づく地方交付税等の再計算等)、最後に財政調整基金で調整して当初予算で基金を取り崩して繰り入れる額を30-60億に収めるようにしています。
決算剰余金を2月に50億程度積むので、その分取り崩すような形にすることで、過去からの基金を取り崩したように見えないようにしています。
財源そのもののやりくりは財政課でしかできない仕事ですね。
◆一部事務組合への枠配分制度上の対応
⑦一部事務組合分への予算は当市側だけでは決められないですが、枠予算制度を導入している福岡市ではどのように対応していますか?
福岡市では一部事務組合に限らず、他会計負担金/他会計繰出金などのルールが決まっているものについて、枠外予算で個別に調整する経費として要求してもらい、10月以降、本予算の査定の中で一件査定をしています。
各会計の予算は財政課で査定に入っているため、個別調整経費についても、現場の事業見直しをする中で「(見直しを図った分)配分してほしい」という要望があれば、枠を増やすような手を取ったこともあります。
よくある事例として、外郭団体への補助金は枠配分していてそのうち人件費は圧縮率を掛けられないけど、内部の事業見直しを行うことはありました。
◆補正予算と翌年度枠配分の調整
⑧当市では枠配分予算の導入を検討段階ですが、枠配分予算制度下での補正予算の要求はどのように対応していますか。
原則として、枠予算制度下で補正予算は翌年度の枠予算の先食いとして捉えられますね。
しかし、原則論はあるにしても実際はケースバイケースかと思います。当初予算編成が苦しいので前倒しで実施することもあれば、補正財源に余裕がある場合もあるかと思います。
枠配分は当初予算という大きな規模の財源を全庁に配分する仕組みであり、補正予算とは、補正の緊急性が全庁的に議論されたうえで優先順位が高いものが判断される仕組みとなっており、どの自治体でも財政課で一件査定をしています。
財源としては、決算剰余金や財政調整基金などが充当されていくことになるかと思います。
◆枠配分予算と物価高騰への対応
⑨当市でも枠配分予算を導入していますが、福岡市では物価高騰をどのように扱っていますか?(部局や首長への説明、スケジュール感など)
福岡市では、夏の所要額見込調査時に物価高騰分の見込額を提出してもらい、物価高騰の影響額も把握したうえで、予算編成時の圧縮率を設定しています。
部局には「どの経費も必要なことは認識しているが、財源はこれしかないので全庁で痛み分けをして圧縮して配分している」ということを説明しています。
全体スケジュールとしては、下記のとおりです。
6月~:部局に所要額見込調査依頼(7月初旬提出)
7月中:部局ヒアリング
8月中旬:部長局長説明
8月末:枠配分額・枠外リストを首長説明
9月初旬:枠配分通知
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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