“もっと知りたい!枠予算のススメ”④『自律経営と枠配分予算』_財ラボ分科会2024
みなさん、こんにちは。
一般社団法人新しい自治体財政を考える研究会(通称:財ラボ)事務局です。
今回は、財ラボ分科会2024「“もっと知りたい!” 枠予算のススメ④自律経営と枠配分予算」についてお届けします。
財ラボが実施する分科会とは、通常の講演会とは異なり、より狭く深く、財オタと会員が一体となって考えるワークショップです。
本分科会では、福岡市に枠配分予算を導入した財オタの今村寛さんを講師にお招きし、
「枠配分予算の仕組みは分かるけど、うちの自治体に導入する時にはどうしたら良いんだろう」
「枠配分予算を導入しているけど上手くいかない。何を改善したら良いんだろう…」
など、講演会では質問しにくい自治体財政課職員からの課題や疑問について全4回に渡って今村さんが相談に乗っています。
*本分科会(全4回)の各テーマは、財ラボ会員の皆さんから募集した枠予算に関する課題や疑問を基に下記のとおり設定しており、各回先着応募のあった会員(5自治体)が、オンライン上で講師との対話を通じて枠予算に関する課題や疑問点を積極的に解決できる場となっております。
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第1回:対象事業の選定、配分額の計算
第2回:制度の柔軟な運用
第3回:政策推進・財政健全化と枠配分予算
第4回:自律経営と枠配分予算
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第4回目のテーマは『自律経営と枠配分予算』。
参加した皆さんからは、次のような感想をいただいております。
・導入に至るまでの具体的な道筋が見えたように感じ、大変満足度の高い分科会でした
・単に仕組みとして枠配分予算を導入するだけでなく、制度を根付かせるための継続した努力が必要ということがわかりました
ご参加いただいた自治体の皆様、ありがとうございました。
本記事では、分科会第4回目の質疑応答の内容をお届けします。
【参考:過去の分科会で出た質疑応答の内容】
▼第1回 https://note.com/consensus/n/n3bc2f6782be6
▼第2回 https://note.com/consensus/n/n38377a88d7f9
▼第3回 https://note.com/consensus/n/nd4b70b1f3fed
▼番外編 https://note.com/consensus/n/n317acb9fc5cb
【質問者】参加者の皆さん
【回答者】財オタ 今村さん
① 枠の中に収めて事業を行っている認識を、各課が持てていない(どのように持たせたらいいのかが分からない)。
(背景)
枠配分予算を導入3年目。継続事業については昨年度同様であげてくることが多く、削減するにもどこからメスを入れていいのか、財政課サイドから原課の意識づけに課題を感じている。
毎年の予算編成説明会時に財政課から枠配分予算の導入目的や部局で予算を組んでいる理由について原課職員に説明している。
(今村)
“自治体の財布は一つしかない”、そしてそれをみんなで分け合いながらも経常経費が増えている現状では、
新規事業をするために既存事業の見直しを図る”ビルド&スクラップ”の必要性
を原課の職員が言葉だけの表面上の理解だけではなく、本当の意味で理解することが重要ですが、貴市ではその点いかがですか。
(質問自治体担当者)
原課職員の中でもきちんと理解されている方とそうでない方がいるような気がします。
(今村)
お金がない状況は一件査定でも枠予算でも同じこと。
より良い予算編成のために「一つの財布の中身をみんなで分け合っている」という趣旨を原課に対し改めて説明する必要があるかもしれませんね。
(質問自治体担当者)
自分自身も財政課に異動してくるまで、予算編成のことをあまり知らないことが多かったです。
これから行う予算編成説明会で、原課に自分事として捉えていただけるよう工夫して伝えていきたいと思います。
(今村)
一度の説明だけで理解していただくことは難しいので、原課から財政課に流用の相談や補正の相談があるその都度、枠予算制度と絡めて”財布は一つであること”の説明を繰り返しすることが必要だと思います。事業の見直しさえすれば、新しいことができるということもあわせて。
② (上記①質問の回答を受けて)やはり原課が枠内の既存事業を見直し、自分たちで財源を捻出したうえで新規事業を打ち出していくというのが理想的なのか。
(今村)
もちろんそれだけでは、新しい事業というのは作れないと考えています。
福岡市だけでなく全国の自治体でも取り組まれていると思いますが、政策に関わる重要な新規施策については、枠の外で要求していいというルールを設けています。
予算編成説明会等で原課に枠外で要求できる条件を提示した上で、市としてやるべき事業に限定して枠外事業を認めることにしています。
しかし一方で、何でも新規で認めてしまうと、財源が足りなくなってしまいます。
その出し入れをうまく調整するのが、財政課と政策推進を司る企画部門の仕事となります。
(質問自治体担当者)
現状、当市ではこれまでそういった枠外ルールを設けていませんが、今村さん自身、このルールの必要性をどのように捉えていますか?
(今村)
枠配分予算を補完するものとして必要だと捉えています。
義務的経費など削減できない固定的な経費は、枠外で取り扱わないといけないものですし、仮に全て一緒に枠内の中で収めようとすると原課から「既存事業の見直しが困難な枠内の中で、新規事業なんて到底できません」という話になりがちです。
そうすると当初予算の色付けがなくなってしまい、平たんな予算編成になってしまいます。
そこで、福岡市では原課や部局の判断ではなく市全体の判断で、4カ年の実施計画(マスタープラン)に基づいた重点施策対象事業には厚く財源を付けており、また特定分野の重点施策を促進し補完する新規事業についてはこの年度に限っては枠外で要求してよい、というルールにしています。
「市全体の判断」とは具体的に言うと、首長がこの年度において定めた重点施策事業であり、当初予算記者会見時に首長が話す「目玉事業」になり得るものですね。
ですから、担当課だけではなく首長や首長の周りの参謀、企画部門が一緒になって重点施策事業を考え、財政課は財政面をサポートするといった構図になります。
(質問自治体担当者)
予算の組み立て方としては、まず枠外予算に必要な財源を充当させてから、残りの財源を枠内予算に充てているのでしょうか?
(今村)
そうですね、この作業を福岡市では「財源フレームづくり」と呼んでいます。
翌年度一般財源収入見込から義務的経費分を控除し、まず枠外に充てる経費を取っておき、残りの財源を枠配分対象経費としています。
枠外の予算を確保するためにも、先に枠配分するお金から財政課が留保する形を取っています。
(質問自治体担当者)
最初の段階から財政調整基金も見込んでいますか?
(今村)
財政調整基金はあくまで財政調整目的のものですから、福岡市ですと決算剰余金の半額と同額程度入れる予定で、財源見込みに入れて当初予算編成を組んでいます。
フレームの中に入れてはいるが、それは自治体ごとの考え方によると思います。
③ 職員が積極的に枠内予算の見直しや新規政策提案をできるような枠配分の良い方法は。また、どのような説明であれば理事者や職員を説得できるか。
(背景)
枠配分導入7年目。首長から枠配分制度が原因で原課が新規事業を検討できないのでは、という指摘があるほど(枠配分制度に対する)マイナスの印象が強い。既に強化施策を枠外予算として認める方策を講じるなど、原課による事業見直し・新規事業創出のモチベーションをアップさせるような取り組みを実施しているが効果が見られず、より良い方法を模索中。
(今村)
まず、大前提の話としてはっきりと申し上げたいことは、
『新規事業が出てこないのは枠配分制度のせいではない』
ということですね。
市の重点施策事業に絞って新規要求を枠外で要求できるルールも財政課として整えているにも関わらず、原課から新規事業の提案が挙がってこないのは原課の新規事業へのモチベーションの低さに問題がある可能性があります。
原課職員に「新しいことをやらないといけない」という危機感や市民ニーズの把握、行政課題に対する向き合い方などがもしかしたら不足しているのかもしれません。
例えば、行政評価の結果が悪かったら新規事業の必要性も出てくると思うのですが、そういった自分たちのいまの政策が充足しているかどうかを考える局面は、あるのでしょうか?
(質問自治体担当者)
実は昨年度に総合計画の見直しをしたところです。
総合計画に沿った事業をどんどんやっていきたいのですが、首長の方でどの分野を強化していきたいのかが示していただけなかったのが現状です。
企画部門からも原課に事業をお願いしているが出てきません。
評価は今のところ特段していない状況ですので、その取り組みは必要と感じているところです。
(今村)
貴市に欠けているものは「(市の政策として)何を重点化すべきか」についての議論ではないでしょうか。
どの政策分野も均等に推進するといった総合計画ではなく、特に何を重点的にやるべきかを事前に明らかにしておかなければ、毎年度の予算編成でそれを決めて原課から新規事業を考え、出していくことは困難です。
それは政策を推進する企画部門や首長、官房部門が市民の声や議員からの指摘、データなどを基に総合計画に書かれている10年後の都市像を実現するために、少なくともこの3・4年間で何に重点的に取り組む必要があるのか議論して明示していく、そのうえで予算編成方針に重点施策として打ち出していくべきではないでしょうか。
(質問自治体担当者)
これまで1回のみの開催ですが、今年の春過ぎに政策レビューを実施しました。現状の課題や今後の検討を行いまして今後は、担当課からの予算要求に応えていく方針です。
(今村)
春から夏にかけてレビューを実施しているのであれば、担当の副市長や部長が予算編成に活かすように、まずは予算編成に間に合わせるための議論をする資料作成などに動きたいところですね。
そしてレビュー結果を基に「秋までにちゃんと予算化に向けて動こう」とか「ここは重点化できるように財源配分を考えよう」など、”レビューがレビューで終わらない”ようにその結果が予算編成に反映できるような、反映しないといけない仕組みを構築する必要があります。
レビューの中身がしっかり現場にも落ちてくると、原課も「レビュー結果を基に新規事業を考える必要がある、そのためにも既存事業を見直そう」と意識が変わると思います。
まずは、議論を起こす資料作成の作業を企画や官房、財政どの部門がやってもいいのですが、誰かが音頭を取る必要がありますね。
(質問自治体担当者)
おっしゃる通りだと思います。
(今村)
枠内予算の見直しについては、現場が常日頃感じていることの優先順位をつけて部局で反映できる仕組みが必要だと感じます。
④ 各部長主体の枠配分査定実施において、(各部長の負担軽減の観点から)財政主体での査定と各部長の査定の視点を分ける等の工夫は可能か?(財政担当経験のある部長からは全事業を細かく把握できないと各事業の査定はできないとの声あり)
(背景)
令和7年度予算編成から枠配分を試行的に導入。企画・財政部門で部長主体の枠配分予算編移行を働きかけており現在、行政評価→枠配分の順で着手している。
各部長はこれまで予算を見てこなかった経緯があり、今回からは事業の拡大縮小を中心によく見てもらいたいという意図がある。
しかし一件査定と同じように、枠配分でも部長がすべて把握することが重要だと思っているが、部長の査定時間の確保も課題になっており所管事業を全て見ることは不可能だと考えている。
(今村)
部長本人のマンパワーの割き方の問題だと思いますが、部の中に部長を補佐するようなとりまとめ担当課は組織的に機能していますか?
(質問自治体担当者)
小さい自治体なので、部長を補佐する役割をもつ課はありません。
(今村)
それでは、部長が束ねている業務である各課の業務を部長自信が横並びで見て優先順位をつけることは可能な状況ですか?
(質問自治体担当者)
行政評価では実施できているので、可能と捉えています。予算編成でも判断してほしいと思っているところです。
(今村)
各部に自律経営を促すためには、部長個人のマンパワーに頼るのは難しいので、組織で経営できる組織整備や人員配置が重要となります。
各課にヒアリングをしたり、調整したりする権能を持たせる組織を作った方がよいのではないでしょうか。
各部の筆頭課を組織に位置づけて、権限の差配ができるような組織体制の構築が必要だと思います。
実際に、福岡市でも枠予算の対象事業を大幅に拡大した際、枠内に収めるために配分を受けた部局内の優先順位をつけないといけない状況になりました。
そのときは、財政課の担当者が現場に出向いて、どうしたら枠に収められるかのサポートを数年間実施しました。
いわゆる”査定ノウハウを現場に移譲するための伴走支援”ですね。
各部局に判断してほしいという思いがあるのであれば、最初は組織や人材を配置するか、財政課のサポートが必要になります。
(質問自治体担当者)
組織的な改革は難しいですが、今村さんがおっしゃった”財政課の伴走支援”は実現可能と感じました。
財政課から各部長にヒアリングをし、査定材料を部長に提案したうえで、優先順位の判断は部長にお願いする方向性で検討していきたいと思います。
(今村)
伴走支援のやり方は「導入初期なので一緒にやりましょう」のスタンスが大事です。
本来の部長・とりまとめ筆頭課の役割を示したうえで、あまり財政課が入り込み過ぎない(世話を焼き過ぎない)ことも、導入当初の伴走支援をしていくうえで大切です。
⑤ 将来的な枠配分予算の導入を見据えた場合に、今から取り組める事前の根回し・準備などの対応は?
(背景)
まだ組織として枠配分導入の検討段階に至っていない状況。これまでずっと一件査定で予算編成をしてきたため、副市長などの幹部も枠配分を導入するという考えがない。「予算編成に使う内向きのエネルギーを外に向けた方が良い」という講師の考えに共鳴し、いずれ導入したいと思っている。
(今村)
自分も係長時代に枠予算制度を構想して、課長になって財政課に戻ってきて実現した経緯があります。
係長時代に構想のきっかけとなったのは「なんでこんなに時間外が多いんだ」という想いでした。
一件査定の根本的な問題は全事業を見ないといけないことであり、財政課に来る情報量が多すぎて処理しきれないと痛感する一方、原課はコスト度外視で青天井に予算要求し、査定はすべて財政課頼みの構図にも問題意識を向けていました。
さて、将来的に枠配分制度を導入していくために今できることや、今後どんな働きかけが有効かという議論に移ります。
例えば「こんなに残業してやっている議論、誰のためになっている?」という働き方改革の視点から入っていくと、比較的共感も得やすく導入が進めやすいかもしれないですね。
また「時間をかけた結果、いい予算になっている?」費用対効果の視点もいいでしょう。
成果の出る予算にするためには、全体をみて調整していくことが大事です。
すべてを見ることで、すべての優先順位が付けられるわけではありません。
時間がかかること、それに対して中身がない(成果がない)ことの課題共有ができる仲間の輪を徐々に広げていくと良いのではないでしょうか。
財政課がどうしてこんなに厳しい査定をしないといけないのか、みんなで考えないと乗り越えられないというのを分かりやすく伝えて理解してもらい、考えを普及していくことが大事だと思います。
(質問自治体担当者)
ありがとうございます。
まずは現状を理解してもらう草の根の活動からしていきたいと思います。
⑥ 歳入側の見込についての考え方について。特に市税の見込を算出するにあたり、予算と決算の乖離が激しいと見込みを立てづらい。
(背景)
枠配分導入3年目。歳入は毎年予算ベースでみていたが、市税など収入は予算を堅く見ているので、決算との乖離が激しい現状がある。また、課税主管課との協議が必要になってくるため、調整が難しい。
(今村)
フレームのつくり方は自治体ごとそれぞれですが、どの自治体も予算編成前に歳入見込みを出しますね。
福岡市では、歳入の見込は決算ベースですが予算は堅く見込んでいます。
現場の数字(調定)を四半期ごとにそのままもらって、組み込む作業です。
また、前々年度の決算と直近の調定や収入状況を反映しており、財源の配分は仮置きですが、フレームの策定は何度も更新して、最終的な予算額を算出しています。
⑦ 決算剰余の削減方法について
(背景)
枠配分導入3年目。郵便料金や会計年度任用職員人件費の予算事業を一本化しようと考えているが、抜本的な削減につながるか分からない。
(今村)
各部局に必要な財源を配分しても執行不要などで決算剰余金が発生してもったいないので、郵便料金や会計年度任用職員の人件費など、各部局で計上している予算をどこかに一本化してプールすることで予算要求と執行額を近似させ、執行不要額(=決算剰余金)を減らしたいという趣旨のご質問だと理解いたしました。
決算余剰金については、収入側と支出側の2つの原因があると思います。
まずは収入が低く見込まれすぎている場合について。
税務担当課が固めに見込んでいることもあるので、調整する必要があるかもしれません。
使えたはずの財源を使わないことは、できたはずのサービスをしないもったいないことですので、ここは課税主管課ともう一回よく話しましょう。
続いて、支出を多めに要求することが横行している可能性についてですが、ご指摘のように各課で分散した予算要求を行う場合にそれぞれの部署で必要額を計上することで余剰が発生しやすいという点はご指摘の通りで、それを一本化して予算計上の額を絞ることも一考に値しますが、一方で、そもそも枠配分額を多く確保しようと前年度予算執行を可能な限り行い決算ベースでの執行額を増やす、いわゆる使い切りの横行のほうが重要な問題です。
予算の使い切りは予算要求段階で「何かあったら困るので」と多めに予算を計上して必要な額を囲い込むことで過剰な予算計上に繋がりますし、それを使い切ることで前年度並みの予算を確保しようとして、本来必要でない費用に支出する予算の無駄遣いにつながるおそれがあります。
このため、枠配分の発射台(配分額算定において特殊な増減を加味する前の基礎数値)を設定する際に、決算ではなく前年予算をベースにすると原課の使い切り予算を抑制する点において効果的だと考えられます。
あらかじめ絞った金額で枠配分が行われ、これを部局内で適切に配分しようとした際には部局内での分捕り合戦になるので、「何かあったら困る」という余裕を部局内で主張することは難しく、予算不足が発生した場合は部局内での流用で対応する、という方針を確認しあうことが組織の自律経営につながると考えます。
財政調整基金は、決算剰余金の半分は積みますのでその額を繰り入れることはフレーム上想定しておいてよいと思います。
それ以上に崩さないことが大切です。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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