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“もっと知りたい!枠予算のススメ”【番外編】個別相談会_財ラボ分科会2024

みなさん、こんにちは。
一般社団法人新しい自治体財政を考える研究会(通称:財ラボ)事務局です。

当分科会では講師の福岡市・今村さんと質疑応答を通じて、個々の自治体が抱える枠予算の課題・疑問の解決を図ることを目的に全4回構成で展開しています。
過去3回の分科会でも各自治体の枠予算に関する個別具体的な質問に対し、今村さんからお時間の許す限り回答していただいてまいりました。
【参考:過去の分科会で出た質疑応答の内容】
▼第1回 https://note.com/consensus/n/n3bc2f6782be6
▼第2回 https://note.com/consensus/n/n38377a88d7f9
▼第3回 https://note.com/consensus/n/nd4b70b1f3fed

今回は、過去開催された分科会後の事後アンケートで追加質問をいただいた自治体に対し、今村さんがオンライン上で回答した個別相談会の内容を分科会【番外編】として取り上げています。

個別相談会ということで、より財政運営の実態や実務に沿った質疑応答が交わされました。
そのため、今回の質問自治体(担当者)と同様な課題をもつ
・これまで一件査定のみで査定してきた自治体
・「枠予算を導入したいけど具体的手法や庁内周知の手法が分からない」など悩みを抱える財政担当者

の役に立つ内容になっているかと思います。

ぜひ読み進めていただければと思います。

【質問者】過去分科会に参加した自治体担当者(現状は一件査定だが、査定方法の改善策として枠予算の導入を検討中)
【回答者】財オタ 今村さん


◆枠配分額等の計算方法

①配分額等の計算方法は、例えば総務省の概算要求ベースで考えているのか、その他別のノウハウがあるのでしょうか?

まず、結論から話す前に枠配分予算の大前提のお話として下記2つのポイントを抑えていただければと思います。

  • 枠配分予算の配分方法や積算方法に正解はない

  • 現場(部局)で自律した予算を考えられるようにするための方策であり、目的は自治体組織の自律経営にある

質問をより具体化すると「国の基準財政需要額やそういったものを配分額の参考にするべきなのか?」ではないかと推察しますが、全く別のところに配分根拠を置いてしまうと、あたかもそれが正しい姿であるかのように財政課が押し付けてしまうことになります。それをそのまま部局に受け止められてはいけないですよね。

福岡市では、翌年度枠対象として必要となる経費を毎年6月~8月前半に調査・精査を行い、来年度予算編成で必要となる枠対象経費を決定します。
これに並行して別に試算した税や交付税等などの一般財源収入見込みから枠対象外の義務的経費・特会への繰出金に充てる一般財源を差し引き、残った枠対象経費への配分可能額に合わせ、枠対象経費として必要な額に圧縮率を掛けて配分しています。
(参考:第3回分科会
なお圧縮率は、次年度の財源見込みとのバランスを調整した結果「これぐらいの掛け数で部局に我慢してもらえればなんとかなる」というところの数字を採用しています。
また、質問にある”総務省の指標”が交付税額のことを指していた場合、上記の財源見込みをする際にも交付税は一定見込む必要がありますが、6~8月だと次年度の交付税額は未定です。そこで、前年の交付税決定額で仮置きすることがほとんどですね。
そして、年末や年明けになって国から次年度の地方財政計画が提示され、交付税額を試算できるようになったときに財源を置きなおす作業が発生します。

②夏時点の財源見込みよりも、実際の財源の金額が不足する事態が起きた場合はどのように対応するのでしょうか?例えば、圧縮率を前年比10%シーリングで部局に要請していたが、その後見込みが甘かったことが判明し予算が組めなくなる状況が危惧されます。

自分も福岡市の財政調整課長時代に
「部局がきちんと枠を守ってきた(枠配分額範囲内で予算を立ててきた)にも関わらず、財源見込みがもっと厳しくなったり財政課の義務的経費査定が思うように行かず、当初見込んでいた財源が不足したらどうしよう」
という不安は常にありました。
万が一、枠の配分後に財源が不足して何かしら調整するのであれば枠の再配分(当初10%シーリングで要請していたものを15%シーリングで要請し直すなど)というのは全部局・事業に影響を及ぼすので、避けたほうがいいと思います。
調整するとしたら、予算額も大きい大玉事業に対して査定させてもらい、その代わり来年の枠配分時に今回の査定額分の金額を予算につけられるよう調整するなどして折り合いをつけますかね。
基本的に枠を守ってきた事業は査定しないので、「財源厳しいからこの部局の事業を査定させて」というのは枠配分予算のルールから合致しませんが、財源見込みに収めるための措置としては有り得ると思います。
また、査定ではなく2月補正で対処するとか、次年度の9月補正に見送るなどの調整・対応方法もあります

◆枠配分制度の段階的導入と流用

③当市は、経常費・臨時費・政策的経費がありますが、今後枠配分制度を段階的に導入するにあたってどのような事業・経費から制度を適用していくべきでしょうか?

福岡市では、下記の3段階で枠配分予算制度を導入してきました。
経常費の事務費のみ枠配分制度を適用
これは最も簡単な方法です。あらかじめ、財政課で適用する節などを指定(印刷消耗品費・備品購入費等)し、経常費事業の節を全て合計したものを枠対象とします。
よって、先に枠配分として財源を分配しどの事業にどれだけの予算を組み立てるかは部局に任せました。
これは政策判断も不要ですし、部局ごとに節ごとに枠配分額内に収まっているかどうかを機械的にチェックシートで確認するのみで、ヒアリングも査定もしていません。
簡単な方法ですが、事業の選択判断の議論には発展しないため、自律経営にはつながりません。
ただし枠予算を体感してみるという意味では、意義のある取り組みだと思います。

経常費全てに枠予算制度を適用
こちらも比較的簡単です。経常費のため政策判断は不要ですね。
金額の精査のみですので、全体で枠配分額内に収めてもらえれば、部局ごとにどの事業を減額して、どの事業を増額するかは部局にお任せする、というやり方です。
ただし、圧縮率を掛けて枠を配分する際には、義務的経費を除いてあげないと厳しいと思います。
貴市でいうと、残りの臨時費(毎年必要となる公共事業など政策的判断を伴わない経費)と政策的経費(市長や副市長が判断するような重点事業の経費)にどれだけ財源を留保するかで経常費に掛ける圧縮率は変わるため、たくさん留保しようとすれば経常費の圧縮率はとても高くなります
福岡市でも一時期、経常費のみ枠予算制度を適用していた時がありましたが、経常費は支出に余裕がないものばかりなので、どの部局も枠内に収めきれない状態になり結局財政課が全て一件査定をする事態が起きていました。
ですので、第1段階でこれはあまりお勧めしませんが、もしダメだったら次に行くって感じですかね。

政策的経費以外全て枠予算制度を適応
最後の3段階目が今、福岡市でも行っているもので市長や副市長が判断するような重点事業の経費以外は全部枠予算で取り扱うやり方ですね(こちらも②同様、義務的経費は除いた方がよいでしょう)。
この段階になると、裁量ある投資的経費が枠予算の中に入ってきます。これは、経常費よりも見直しがしやすいため、枠全体として予算が立てやすくなります
やはりこの場合も②同様、政策的経費として要求するものをどこまで絞り込み、財政課が財源を留保しておくのかという腹決めが必要になってきます。
ここであまりにも財源を留保してしまうと、枠内の圧縮率が非常にきついシーリングになり、部局から「これでは予算組めないよ」という声があがってしまう事態になりかねません。

枠配分予算制度の導入には、
❶経常費の事務費のみ枠配分制度を適用
経常費全てに枠予算制度を適用
政策的経費以外全て枠予算制度を適応
この3段階があると理解していただければと思います。

④(上記回答を受けて)各課が自主的に枠内で予算を収めるために、これまで計上していた費目とは全く別の経費で予算を組んだとしても財政課としてはもう関知しない覚悟ということですか?

そうですね。福岡市でも❶経常費の事務費のみ枠配分制度を適用の段階から、部局には「出張旅費が不足していれば印刷消耗品費から回してください」という言い方で説明をしていましたし、実際に予算執行の段階でそういった協議は起こっています。
どの自治体でも「予算計上をしたものの、年度になって予算が足りなくなったので別の予算から流用させてください」という協議が部局から財政課に来ることはあると思います。
この「節間流用を年度に入ってからするぐらいだったら、もう最初から部局が必要とする金額計上しておきましょうよ」というのが、もともとの節間の枠を決めて予算化するという考え方です。
「後で流用するぐらいだったら最初からもう使いやすいところに置いといてもらっていいですよ。全体の金額が収まっていたら財政課の方で予算の中身まで見ませんよ。」
という部局と財政課のやり取りになるわけですね。

一件査定をしている場合は、「例えばコピー代がいくら必要なのか」、「旅費はこれだけ計上しているとどこに出張行くのか」とか、ひとつひとつ細かいところまで部局にヒアリングしているかもしれません。
そもそも財政課がそこまで部局の細かい予算内容まで首を突っ込む必要があるのか、ということを見つめ直すのが枠予算の本質ですので、首を突っ込まないって決めたら、もうどこでどんな予算計上しても突っ込まない。
しかしそうすると、財政的に秩序が乱れると考えられる節があります。それが19節補助金・負担金です。
この19節だけは、今も福岡市では枠内の予算ですが「財政課にも予算計上の内容をちゃんと見させてね」と部局に伝えており、提出された調書から大幅な予算の増減があった場合には、部局から理由を聴取して政策的に問題がないことを確認しています。
これは査定ではなく、この予算で行くことを市長・副市長の2役に説明してもらうための確認作業になります。
例えば、ある補助金のメニューについて枠を守れないことを理由に部局の判断で予算を切ってしまった場合、それが首長の政治生命を切ってしまうことに繋がりかねない可能性もあるわけです。
そのため、この19節補助金・負担金だけは2役も含めて予算の増減を最終的に検討する仕組みにしています。

⑤枠配分予算制度下での執行段階の流用処理について財政課はどこまで関知したらいいのでしょうか。枠の予算内であれば財政課の合議無しでも認める形になるのでしょうか?

やはり枠配分で予算編成をした以上は、枠の中の差配は現場の部局に任せているということになりますね。
それは執行段階でも同様で、節間や費目の流用も部局の説明がちゃんとできるのであれば、福岡市では合議区分上も財政課の合議を不要とする運用をしています。
枠配分という制度は、部局側に裁量を委ねるものなので説明責任も当然委ねます。
財政課で確認するのは限定的にしていますが、やはり先程の19節補助金・負担金は重要な節であるため、福岡市でも合議区分の中で「19節からの流用と、19節への流用については、財政調整課に合議をしてください」と定めています。
また、枠外の政策的経費の予算は2役とも議論したうえで予算計上したものなので、予算の時と違う執行をする場合は財政課の合議を通すようにしています

⑥経常費を全て枠配分した場合、経常的経費の枠の中で持っている金額を使って、予算時には見込んでいなかった裁量的事業を執行してしまう可能性を危惧します。財政課としてどのようにその辺りの管理や把握をすればいいのでしょうか。

これは結局、現場(部局)にどこまで委ねるかの問題でしょうね。
前提として「経常費とは、特に政策判断が不要なもので例年実施するような事業である」という概念を財政課と部局側で相互理解ができていれば、初めて取り組むような事業の実施は経常費では計上できないという話を理解できると思います。
ただし、事業の運営方法を年度になって変更するような場合にそれが経常費なのか投資的経費なのか、投資的経費だとしたら財政課との協議が必要なのかどうかについては、財政課の方で判断するべき内容かと思います。
私個人の意見としては、執行段階で事業のやり方を変えたとしても事業目的が変わらないのであれば、特に財政課への協議は不要じゃないかと思いますが、対象者も情報発信力も異なることや、また今までやっていたことを辞めるのだからハレーション(悪影響を及ぼすこと)も考慮して政策判断が必要では?と考える人もいます。
ですので、部局には「執行段階で予算計上に無いことをしようとした場合は、事前に財政課に言ってくださいね」程度のアナウンスをしておくといいでしょう。
そして、実際に相談があった場合には
・枠予算制度下での部局の権限(裁量)内の動きなのか
・部局に与えられている権限(裁量)を超える動きなのか
の判断を財政課ですることになります。

◆庁内の意識醸成の手法

⑦庁内の意識醸成の手法について、実際に福岡市で取り組まれた中で効果的だったものを教えてください。

私が財政調整課長として在籍していた平成24年~27年の4年間の取り組みの中で最も効果があったのは、庁内職員向けの出前講座です。
結局、枠予算制度とは良い予算をみんなで組むための手法の一つであり、仕組みなんですね。
そこでまずは、自治体の財政構造(収支、裁量的経費、最適化の必要性)について説明したうえで、「義務的経費を除いた裁量的経費にあの一般財源が当たっているけど、この一般財源がこんな風に減っているからなかなか厳しいんですよ」と財政難の状況についても理解を促していました。
「聞きたい人は呼んでください」という形で出前講座のスタイルを取っていましたが、行った先々で歓迎してくれましたね。約1時間~1時間半程度、結構くだけた雰囲気でお話していました。
福岡市の財政状況を部局の皆さんに理解していただいたうえで
「この難局をみんなで乗り切っていくために枠予算にするんですよ」
「枠予算になったら部局の裁量部分は皆さんで考えてビルド&スクラップしていくことになるんですよ」

ということを、4年間で計80回くらい様々な職場に出向いて伝えていましたね。
(参考:第三回分科会Note

⑧(上記回答を受けて)職員向け出前講座の対象者はどんな役職の方でしたか?

出前講座なので、基本的に部局側が参加者を募る形でした。
ある局では局の財務係が主催者になって、各課の予算担当者を集めたものもありましたし、あるいはもう任意の勉強会として若手の職員で勉強会を開いているグループが主催してというようなこともありましたね。
総じて年齢層は低く30代が中心であまり役職者が居ないことが多かったです。参加者からは「課長以上の必修研修にしてください」とよく言われてましたね。

⑨前回参加した分科会でも市長、副市長を含め管理職の方々への意識醸成が重要とのお話があったと思いますが、具体的な手法や効果的な取り組みはありますか?

前述の出前講座を始める前に、各部局長や総務部長を集めた説明会を行っていました(資料は出前講座と同一のものを使用)。
そして説明会の後、当時の財政調整課長だった私と上司にあたる財政局長の2人で各部局長に一人ずつアポイントメントを取り、直接会って
「枠予算を使ってビルド&スクラップを実現することで、自律経営をしていく必要があるのでよろしくお願いします」
という説明に周りました。


また2役へのアプローチですが、前提として当時の市長が行財政改革をオープンで進めるとの号令を年度初めの4月に出して5月には第三者委員会を作っていたため、財政課からの提案がしやすい環境ではありました。
そして、6月には有識者会議に財政状況が分かる資料を提出し、2役へのレクと先ほど申し上げた各部局長への説明も6月下旬~7月上旬に行っていました。
7月中には次年度の予算編成方針の前段である枠配分導入調査も行っていたので、2役や各部局長への意識醸成期間としては約1~2か月間と短期間で行っていました。
福岡市の場合は元々、経常費を枠で予算計上していたものを投資的経費まで枠に入れて
「市長が判断するような政策的経費以外は全部枠予算で編成しましょう」
というのがその時の大きな転換でしたので、制度の説明自体はそこまで難しくはありませんでした。

しかしまったく0の状態から導入するという話になると、もう少し時間をかけないと厳しいでしょうね。枠予算導入による効果も一通り2役に説明したほうが良いのかもしれません。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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