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【財オタ出張相談2024(中編)】枠配分と起債・組織体制

みなさん、こんにちは。
一般社団法人新しい自治体財政を考える研究会(通称:財ラボ)事務局です。
当研究会では、財政をはじめとした行政に関する知識・経験が豊富な「財オタ(詳細はこちら)」に、各自治体が抱える財政に関する課題や悩み事を直接相談することができる出張相談を開催しています。
今回は、枠配分制度を一部導入しており今後制度の拡充を検討している財ラボ会員自治体と財オタ・今村さんとの出張相談(オンライン)の内容を全3部構成でお届けします。


前編:枠配分導入~運用の実務・技術的手法
中編:枠配分と起債・組織体制
後編:枠配分と行政評価・自律的自治体経営


財政運営の実態や実務に沿った質疑応答が交わされたため、今回の質問自治体(担当者)と同様の課題をもつ
・現行の予算編成方法に限界や改善の必要性を感じている自治体
・「より良い予算編成や組織体制強化の実現」など課題を抱える財政担当者
の役に立つ内容になっているかと思います。

ぜひ読み進めていただければ幸いです。
【質問自治体】
義務的経費を含む経常的経費にのみ一部枠配分を導入し、投資的経費については一件査定の現状。
組織体制の強化とともに自律的な自治体経営を図るためにも今後、枠配分の制度拡充を検討している。
【回答者】財オタ 今村さん


中編:枠配分と起債・組織体制

①  将来払うべきもの(地方債)を枠配分の中でどのように加味しているか?

まず公債費は義務的経費なので、過去の起債の償還については財政局で一括して義務的経費として予算を計上していました。
しかし各部局からすれば、起債に頼れば自分たちの枠を消化せずに事業ができてしまうので、福岡市では枠配分制度の2年度目に当たる平成26年度(2014年)当初予算からは起債も枠配分の考え方を用い、起債は起債で発行時点での枠をはめるようにし、前年度の当初予算をベースに枠を設定しています。

なお、全体として「市債残高そのものを下げたい」という思いがあったので、来年度の元金償還額に相当する額までしか市全体で起債を打たないということにしました。
上限を市全体で決めているので、各部局に「あなたのところはいくらまでしか打てません」というような形で配分しています。
つまり、26年度(2014年度)当初予算編成以降の枠配分では、一般財源の枠配分と起債発行額の枠配分その2つを同時に課すようにしています。

②例えば国の補助事業や交通事業、町や県との中長期の社会資本整備総合交付金では、複数年のスパンで事業計画を県と調整する場合に年毎で金額の増減があるが、それも把握したうえで起債の枠配分をしているのか。

そうですね。現在、福岡市では公共事業のほとんどを一般財源の枠配分で引き続きやっていますが、それはある程度のロット、例えば道路や下水道など同じテーマで一定の金額を毎年行っているような事業がほとんどなので、枠配分の方がむしろ収まりがつきやすいんですね。
ただ、今おっしゃられるように特殊な事業、例えば新しく文化ホールを1つ作るなど、そういった通常やってない数年間限定の事業も当然あります。
そういった事業は、最初にその一般財源の枠配分の考え方のところから除外します。

ご質問いただいたようなケースは、限られた数ヶ年だけ必要な事業及び金額であるため、前編で説明した個別調整案件として捉え「別枠(枠配分ではないところ)で予算要求をしてください」と各部局に依頼しています。
そして、当該事業が真に必要かどうかについて金額まで含めて市長まで上げて判断する仕組みを構築しています。
なお、この個別調整案件については、各部局から挙げられた事業について要件を満たしているかなどを精査し、財政局が事業指定をしています。

個別調整案件に指定されると一般財源も枠配分しませんけど、起債も同じように枠配分しませんので、その一般財源と起債それぞれが枠とは違う世界で判断ができます。
そこのバッファ(予算上のゆとり・予備的意味合い)を見込み、例えば起債の上限額を750億円と設定した場合、配分するのは700億円にしておいて50億円はバッファを持っておいて個別調整案件の起債だけに当てるなどして運用します。

③枠の配分は局・部・課など、どの単位で行っているか?

福岡市では総務企画局、財政局、市民局、福祉局、保健医療局…など局単位で政策を束ねているので、局単位に配分しています。
局に配分するときに小事業ごとにヒアリングをしていますので、当然どういう積算根拠かっていうのは、お互いにその局の財務担当も財政課も知っています。

しかし前編で説明したとおり、局には経常的経費も投資的経費も一緒にした枠配分額を渡しているので「この金額の範囲内だったら財源の配分は、局内で自由に融通して構わない」というルールでやっています。

④部署間で枠の金額調整が発生することがあるか。また、ある場合はどのように調整を行っているか?

(1)局内部の部単位あるいは課単位で調整を要する場合
財政課の方では一切調整しません。
局の財務に金額を渡しているので「不足すれば部局内で調整して補ってください」という説明のみです。

(2)枠配分を渡している局同士間で調整を要する場合
局同士で財源のやり取りが必要な時には、財政課が調整に入ることはあります。
例えば「事業の移管によって予算要求をどちらの局が担うのか」というケースが最も多いでしょうか。
今年度までA局で実施している事業を、来年度からはB局で実施するようになるとか、あるいは来年度から始める事業をA・B局で共同実施する際に「枠内外どちらで予算を計上するか/枠外の場合はどちらの局がどれだけ予算計上をするのか」など、個別に調整しなければいけないことが山ほどあります。

対処法としては、該当する事業の予算そのものを一旦、個別調整案件として一件査定をして取り扱うパターンが多いですかね。
関連する予算が既に枠内で既存事業の場合は、それも含み全て引っこ抜いてしまって枠配分の発射台そのものを下げます。

そして、全て一件査定をして金額が固まった後で「A局ではいくら、B局ではいくらで分担してやってください。来年度からはこの役割分担で枠配分しますよ」というやり方で進めます。

⑤政策的経費はその年度の事業内容によってかなり大小が生じると思うが、どのようなルールで全体枠や部署の枠を設定しているのか?

基本は政策的経費・投資的経費に関わらず、N年度でN+1年度の予算編成をする時に、N年度当初予算ベースの財源を元に枠を設定しています。
その枠からはみ出す事業については、個別調整案件などで一件査定をしています。
よって部局の中で新しく取り組みたい事業があれば「ビルド&スクラップ」の考え方でまずは何をやりたいかを考え、その考えたものにふさわしい財源を充てたうえで、足りない財源を既存事業から見直しを図っています。

また組織体制ですが、どの局にも複数の部を取りまとめる筆頭の部があり、そこにある財務担当課/財務課という部署がさらに局内部への財源配分を担当しています。
また、局として必要なミッションを達成するために事業の進捗管理をマネジメントする企画課もあります。

つまり、局自体が1つの自治体のように局ごとの政策推進を企画課、財源配分を財務課が担う体制を構築して運用しています。
そして、各部局の政策事業マネジメントが市の全体方針に合致しているかという観点について市長・副市長が監督しています。

9月に各局に財源配分して枠配分の予算編成が始まりますが、10月末に各局が調書を提出した後の11月に秋のプレゼンテーション、私たちは秋プレと呼んでいますが、その場で各部局が「自分たちの枠を使ってどんな予算原案を作ったのか」を市長副市長へプレゼンテーションをしています。

そのプレゼンテーションの中では、例えば以下のような報告があります。

・枠はちゃんと守っています
・市長が常日頃から言っていることや政策をこの事業の中に盛り込み政策実現を図ろうと考えています
・その代わり予算の不足が発生しましたので、この既存事業については大胆な見直しを図っています

この秋プレは、各部局の事業方針と市長・副市長が考えている政策が合致しているかを確認する場となっています。

⑥福岡市では、前述の秋プレとは別に客観的に各部局が実施している事業を市長・副市長または財政課サイドなどが評価・判断する機会を設けているか?

福岡市では毎年度、行政評価の中の“施策評価”を行い、総合計画の事業進捗を管理しています。
進捗が遅れているものや社会情勢の変化などで政策の推進や促進が必要な事業については、さらに「強化施策」という考え方を取り入れています。
これは、100以上ある施策の中で3~4施策を毎年ピックアップし、その施策内では新規事業の枠外要求を認めるルールを設定しています。
既に前編で枠外の新規事業には「個別調整案件」と「トップマネジメント経費」の2つがあると説明しましたが、その他にこの「強化施策」という概念があります。

この強化施策は、企画サイドが中心になりその施策評価の結果や社会情勢の変化、国の政策の動向なども見ながら施策のピックアップを毎年行っています。
夏場に財政課で行う財源配分に合わせて、企画の方でもいろいろ揉んで秋の予算編成方針を示す際に、枠配分の金額を財政課が伝えるのと合わせて、企画の方から「来年度の強化施策はA施策・B施策・C施策ですから、これに関する新規事業だけは新しく財政課に枠外で予算要求ができますよ」っていうような説明を部局にしています。

よって、施策評価の結果だけを活用しているわけではなく、社会情勢の変化や国の動向、また市長の最近の発言などを加味した強化施策が選出され、予算編成にも反映していきます。

また定期的な行政評価の取り組みとして、上記説明とは別に4年に1回実施計画を総合計画審議会に掛けて議論をしたうえで評価結果が良くないものについては、事業の見直しをしています。
しかし、これは予算編成の資源配分とは違う枠組みでの取り組みになります。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、後編は「枠配分と行政評価・自律的自治体経営」がテーマです。
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