大衆和牛酒場コンロ家 両国店
両国駅
①〈徒歩〉…3分
②〈ダッシュ〉…1分
③〈散歩にしては少し足を伸ばしすぎた。古く、小さなビル群の間を縫うように歩き、時刻は既に4時を回っている。夕日は大小2つの影をアスファルトに落とし、娘はご機嫌な様子ですれ違う人々へひらひらと手を振っている。
父となり今日で1年10カ月が経つ。
平均よりも随分と早く、そして小さく生まれた娘は、今では私の隣を二足歩行するまでになった。そんな時間の流れをもちろん嬉しく思う一方で、いつか大人になり巣立ちゆく姿を想うと、ほんのり寂しくも感じる。
そんな感傷に浸りつつ帰宅時間を気にしていると、ふいに右手が引かれ、目を向けた。
真新しい提灯。傷一つない看板。木製の扉に、オレンジの電球が淡く揺らいでいる。
新しいお店か。開店したての、えも言えぬ空気を感じた。
-50種樽ワイン飲み放題-
黒板にはそう書かれてあった。
繋いだ手をきゅっと握り、隣で立ちすくす、まだ小さな我が娘。
「んにゃ」と彼女なりの言葉を発し、扉の方を差す。
行きたいの?
「にゃぁ」
振り返り、ふわりと笑う。
そうだね
いつか 一緒に行けたらいいね
さぁ 今日はもう遅い 帰ろう
18年と2カ月
まだ見ぬ遠い未来にニヤリとし、少しだけ強く手を引いた。
+
待ち合わせには少し早かったようだ。風は冷たく、乾いている。少し長い袖をなびかせ、目的の店へと到着した。
埃っぽい提灯。古びた看板。くすんだ木製の扉にオレンジが暗く映る。
食べログで見つけた、なんとも趣のある店だった。
ほうっと外観を眺めていると、ふいに名前を呼ばれた。少し先から小走りに駆け寄って来る。隣まで来ると、遅れて到着した際のお決まりのセリフを言い、二人並ぶ様にして店を見上げた。
…そうか お前 行きたがってたものな
小さく、そんなことを言う。意味がわからず、しかし聞き返すのも面倒で、そうだねと一言返す。
やはり ちょっとだけ寂しいものなのだな
相変わらずの独り言を遠くに聞きつつ、入口へと向かう。
「いらっしゃいませ~」
ようし お祝いだ 50樽ぜんぶ飲んでやろう
そう言い、優しく笑う父。
今日はなぜか、いつもより機嫌がいいように見えた。
〉…約18年2カ月と10分
両国駅から152m
名 称:大衆和牛酒場コンロ家 両国店
所在地:130-0026 東京都墨田区両国3-21-8 MKビル 1F
電 話: 03-6659-4240