韓国を変えた歌「아침이슬」(朝露)
ご無沙汰しております
なかなか筆不精な性分なので、投稿がこまめに出来ずすみません。
今月は毎年恒例の韓国への旅行に行くので、今からどこへ行こうか意気揚々としております。
「아침이슬」
今年7月に一人の劇作家が亡くなった。
김민기(金敏基)
日本ではあまり聞き馴染みのない方だが、韓国では誰もが知る著名な劇作家である。
1971年「아침이슬」(朝露)を作詞作曲し多くの人に歌われるヒット曲を飛ばす。
彼の作品は常に政府への抗い、自由への開放と1970年代の混沌とした時代のカリスマだった。
常に作品を作り続け、多くの後輩を輩出した偉大さは決して色褪せることなく、格好いい大人の代表例と言ってもいい方でした。
私は彼が亡くなった際に記事を投稿したかったのですが、なかなか時間もなく気づけば10月になってしまい、今更感はありますが、日本にも彼の功労を知って欲しく投稿いたします。
김민기というアーティスト
김민기は1951年に生まれ、韓国の最高学府であるソウル大学で美術を専攻し、バンドを結成し活動する。そこで小学生の同級生だった양희은(楊姫銀)に「아침이슬」楽曲提供をした。この歌は政府への反抗的な意味合いを含みながらも歌詞に一切棘のある内容ではなく、自然賛美を盛り込んだ異色な作品である。
1974年には軍隊へ入隊、除隊後は労働問題をテーマとした歌などを書き上げる。1979年から韓国全土で公演を行い、1991年に自身の劇場を立ち上げた。以後アルバム制作などに勤しんでいたが、2002年には完全に音楽からは引退し、裏方として劇作家に転身。多くの作品と俳優の育成に尽力していた。しかし持病であるがんが進行しており、たびたび大手術をくりかえすものの、2024年3月で自身の劇場をたたみ、4か月後の7月にがんで逝去した。
「아침이슬」と民主主義への希望
「아침이슬」は反政府的な意味合いを持つとして1975年に発売禁止の処置に遭ってしまう。
しかし学生の間では愛唱歌として定着しており、数多く歌われた。
ではこの歌が何故韓国を変えたのだろうか。
そこには一人の学生の死が大きく関係していた。
学生活動家이한열
1945年から1987年まで韓国は軍事政権が独裁状態だった。李承晩から始まり、朴正煕、全斗煥と多くの軍人が国民を統制していた。更に北朝鮮とのいがみ合いが続き国内は常に国内外で争いが絶えない時代だった。1980年には民主主義を訴える群衆を無差別に襲撃した光州事件など独裁が過激化していく一方だった。
そんな中で民主主義を訴える学生による学生運動は絶え間なく続き、激化の一途をたどる。
その中で学生運動のカリスマと称されたのが이한열だった。彼は大学でマルクス主義を勉強し多くの同志を募り、最前線で軍事政権の権力へ抗っていた。
1987年6月9日決起集会に参加した이한열は機動隊の発射した催涙弾をまともに食らってしまい、後頭部に被弾してしまう。このことが原因で彼は昏睡状態で病院に担ぎ込まれ、左脳は完全に欠損してしまい植物状態となってしまい、予断を許さない状態になる。辛うじて処置を施し呼吸はしていたのだが、7月4日に20歳の若さで逝去してしまう。
政府が軍事政権を打倒しようと志した若い学生を殺したと一気に抗議活動は過激化され、多くの群衆が彼の死の嘆きと政府への怒りを「아침이슬」に乗せて歌ったのだった。
김민기もこれに感化され、多くのアーティストが立ち上がり軍事政権打倒に動いた。
そして長年続いた軍事政権は倒れ、韓国に民主主義が誕生するのだった。
現在彼が通っていた延世大学には記念碑が建っている。彼が与えた影響はとても大きく彼の死が決して無駄な死ではなかったという思いを感じらえるスポットであり、今なおカリスマ性をもった烈士として今なお著名である。驚くことに北朝鮮でも彼を表彰して、祖国統一賞を与えている。
「아침이슬」の綺麗さ
「아침이슬」を作詞した김민기の死は韓国各界に影響を与えた。そして彼の死を悼む国民が多かった。彼が育てた俳優は今もなお韓国の芸能界で多く活躍している。
それほど韓国の行く手を変え、また今なお歌われる「아침이슬」は色褪せることなく続いていた。
今世界では相変わらず動乱が続き、戦争や紛争が絶え間ない。朝鮮も未だ南北は統一せず互いにけん制している状態で、いつになれば戦争は終わり、徴兵制が亡くなり、憎しみは消えるのだろう。ありのままの文句では聞きたくもない怒りの言葉でしかない批判も綺麗な言葉でかつ明るさを持つメロディーに奏で歌えば、それは希望へと変貌する。
三豊百貨店崩壊事故、大邱地下鉄放火事件、セウォル号沈没事故、梨泰院群衆圧死事故…未だに韓国では大規模人災が起きている。
そのたびに多くの涙が流れていく。常に世は悲しみが多く、平和とはなにかを考えさせられる。
平和を願う我々に対して常に歌は怒りと悲しみを伝える。そして二度とこうした悲劇を起こさないために反省する。
他山の石ではなく、我が身を振り返ることを大切さをこの歌から考えることとなった。
韓国における国難の際にはこの「아침이슬」が常に歌われるのだった。
日本人にはあまり知られていない韓国の民主主義をもたらした偉大な名曲だった。
日本にもこの歌の偉大さと、素晴らしさを知っている人間がいることを知っていただけたら嬉しいです。
最後に2021年コロナウイルスの蔓延に伴い、多くのイベントが開催見合わせとなる事態に疲弊した人々に多くの歌手がエールを込めた「아침이슬」を歌った。
非常に綺麗な歌声なので聴いていただけたら幸いでございます。