NY渡航記、みたいな。準備編のような…たぶん②
ニューヨークに行くと宣言してから不思議な縁ができるようになった。
その宣言から半年ほど前だっただろうか。街で友達とたむろしていた時にヒッピーのようなおじさんが話しかけてきたことがあった。このおじさん、環境保全を訴えるデモなどに参加するため日本中を旅しているのだそうだ。その時は何となく話を聞いて別れ、その後そのおじさんのことはすっかり忘れてしまっていた。そして宣言後、偶然このおじさんと再会したのだ。またデモに参加するために南の島にいっていたのだそうだ。僕はニューヨークに行くのだと伝えると、そりゃいいという話になり、じゃあ飲みに行こうと誘われた。待ち合わせ場所に、やあ!とおじさんは現れ、するとちょっと寄るところがあると一軒の家に立ち寄った。そこはおじさんの親戚の家だった。要は呑む金の無心に寄ったのだった。内心、金がないのによく誘ったりするなぁと親戚の方に申し訳ない気持ちと、ちょっぴり可笑しくて笑ってしまった。
連れていかれたのはカウンターだけの小料理屋だった。おじさんはそこのママにこの若者はこれからニューヨークに行くんだよと話しかけた。するとママは「私の息子も若いころロサンゼルスに行ってたのよ」と。そして隣のカウンターでご飯を食べていた人を紹介された。
「私の息子よ」
とても背が高いかっこいいお兄さんだった。ロスから帰国後自分で商売をしているのだそうだ。自分が教えられることがあるなら何でも聞いてくれ、そう言ってくれた。僕はその言葉にすっかり甘え何度かお兄さんの家を訪ねご飯までご馳走になった。そこでお兄さんから色々とアドバイスをもらった。そのアドバイスとは、銀行口座を開くこと、そしてアメリカ合衆国のビザを申請することだった。
内心不安なくせに何も調べず、何も準備していなかったからそんなもんかなぁなどととりあえず素直にアドバイスに従いCITI BANKの口座を開くことにした。日本で預金し、アメリカのATMで下せると知ったからだ(預金する金もないのに)。当時は大手町に普通の銀行と同じように個人向けの窓口業務を行っていた。そこで口座を開きたいと申請をした。綺麗なお姉さんが担当だった。僕はこれからニューヨークに行くんだ!などと話しかけたら「へぇ!それはいいわね、何しに行くの?」などと思いがけず話が盛り上がり、しまいには「頑張ってね」と山ほどノベルティグッズを貰う始末だった。
その足でアメリカ大使館へビザの申請に行った。今は大使館へ直に申請するなんてできないと思うが、当時はまるで市役所の市民課の窓口のように申請ができた。今考えると馬鹿丸出しなんだけど「ニューヨークにとりあえず一年ほど行きたいんだけどビザください」って窓口で唐突にお姉さんに伝えた。すると「何しに行くの?」と訊かれたので頭が真っ白になった。至極当然の質問だと思うが、僕は何も考えていなかった。まさか、彼女と喧嘩して嫌気がさしたから、なんて言えないし、咄嗟に「歌、歌を歌いたいんです」そう口を突いてそんな言葉が出た。お姉さんの表情が曇った。「困ったわねぇ」そう言い、窓口の背面にあるオフィスに姿を消した。数分後に戻ってきてパスポートにでっかいハンコをバンッ!と押してくれた。渡航ビザだった。
パスポートにビザ、銀行口座、航空チケットも手配した。金が$1000で足りるのかなんて分からなかったからすっかり自分の中では準備万端整った!そんな感じだった。