農家が加工食品を作るとロクなことにならないという話
農業の世界で「6次産業化」という言葉がもてはやされた時期がありました。
農林漁業者(1次産業)が、生産物の価値を高め、農林漁業者の所得を向上させることが狙いで、そのために、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組むというものです。
1次産業+2次産業+3次産業だから6次産業、ということだそうで、この言葉を思いついた学者さんだか役人さんは、さぞかし大きなガッツポーズをしたのでしょうね、おじさんはダジャレとか上手いこと言うの好きだから。
行政が主導して、設備投資を中心に補助金をジャブジャブつけて、後押しすることで、6次産業化は農業界でもかなり大きなムーブメントとなり、多くの農家が加工用の設備の拡充に進みました。
農家が6次産業化したい理由の多くは、供給過多や規格外などで出荷できない農作物の現金化という即物的なものでした。
つまり、そもそも原料となる農作物の量が限られている訳で、全部売れたとしても設備投資に見合う売上げが見込めないことが大半でした。
売上げを向上させるためには、原料を別の生産者さんから仕入れないといけないのですが、売れない農作物を使用してスタートさせているものだから、原価計算の時に原料代をかなり低く見積もってしまい、事業拡大ができないというジレンマに軒並み陥っていきます。
更に、流通・販売(3次産業)という事業のプロフェッショナル性を軽視する農家特有の考え方も大きくマイナスに働きました。
個人的な経験でも、市場に納入する額と小売店で販売されている額の差を「何もしてないのに間だけ抜かれてる」と思っていた農家からの声を多く聞きました。
薄利で供給と需要のバランスを必死でとる流通業というのは大変な仕事で、民間化されてからのJAの流通が厳しくなったことからも、難しいビジネスであることがうかがい知れます。
では、流通ではなく自分たちで直接販売するのはどうかというと、そこも素人が太刀打ちできる世界ではありません。
例えば、販売する際に必要なのが商材のバリエーション。
購入者は、たくさんある商品の中から選んで決めたい、送料の割合を下げてなるべくお得に買い物するためにるために注文はまとめたい、という心情が働きます。
販売店にしても、オーダーの際に同じ商品の在庫を積みたくない、新しい商材がないと追加発注を後回しにしてしまう、と考えるので、商品のバリエーションを求めてきます。
そこでECはどうだ、ということで行政が再び補助金を付けまくる訳ですが、撮影から商品登録、こまめにサイトを更新し、個別の注文に応対し、梱包の数も増えるなどなど、予想以上に手間=人件費がかかるのです。
しかも、それは売れた場合のこと。大半はお客様に見つけてもらえず、開店休業状態に。
通販ポータルサイトから声がかかっても、手数料の分まで考えて値段設定していないので、対応できません。
そんなことよりも何よりも、農家は大前提として「人手不足」という、如何ともし難い問題を抱えています。
めちゃめちゃ手間がかかる上に今までとは全く違う新しい分野にチャレンジしないといけない6次産業に手を出してもロクなことにならないのです。
もちろん、6次産業化の波に上手くのっている方もいますので、その例から打開策を探ってみましょう。
まず、スモールビジネスであれば、本来の6次産業化が成立しやすいところがあります。自分が納得して管理できる規模に農地をとどめ、こだわりを持って加工することで、ブランド力を持ち、ファンを獲得している例は少なくありません。
高知のフルヤジや兵庫のターンムファームのハバネロソースなんかが当てはまるかと思います。
また、加工食品の製造をゴールとした農業も確立していると感じます。例えば、国産ワインを想像するとわかりやすいかと思います。ぶどうとして流通させるのではなく、あくまでワインの原材料として農業を行うので、生産コストをワインの原価の中で調整しやすい構造なのです。
更に舵をきった生産者さんの中には、完全に加工食品業者へ転向したケースもあります。個人的には漁業関係者で、船を売っていりこや薫製などの加工業者に転向して上手くいっている方も数人知っています。
どうでしょう、何か見えてきたでしょうか。
そうです。ここに挙げた例はどれも、加工食品に軸足をおいているのです。
きつい言い方をすれば、6次産業化を進めるためには1次産業での流通を優先順位の最下位におかないといけないのです。
僕が農業生産法人を経営していたときに、加工食品を1年で年商2000万円くらいまで育てたのに、その後、意図的に拡大路線を止めた理由は、そのあたりにあったのです。
この辺りを理解した上で、6次産業に着手すると上手くいく確立が上がるかもしれません。
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