概念型はスローラーナーも大切にする
スローラーナーには無理?
概念型を日本の中学生に導入するなんて無理!特にスローラーナーにとって難しい!となるのは以下のような困難が予想されるから?
1. 抽象的な概念の理解
具体事例から抽象的な概念を引き出し、また、その抽象的な概念を具体事例に適用することは難しい。
2. 自己主導の学習
概念型は生徒が自ら考え、探究することを促す。スローラーナーは自己主導の学習に不安を感じる。
3. 評価基準の明確化
評価基準が明確でないとスローラーナーが何を目指すべきか分からず、学習意欲を失う。
4. 継続的なサポートの必要性
スローラーナーには継続的に教師が個別にサポートし、進捗を確認する。
Equityを考慮する概念型はスローラーナーにやさしい
Julie Stern(2018)著のElementary tools for teaching conceptual understandingを見てみる。
Concept-Based Curriculum is naturally more equitable than a traditional, coverage- centered curriculum.
Shifting to a conceptual learning environment, where students are guided to discover the relationships between concepts supported by facts and specific contexts, is an important step in creating equitable classrooms. Most students- especially those who traditionally do poorly in school-thrive in an environment that centers on deep understanding and the application of learning in unique ways. When we ask students to find patterns and make connections, we give them intellectual dignity.
Therefore, Concept-Based Curriculum is naturally more equitable than a traditional, coverage-centered curriculum. When facts are organized around key concepts, it makes them easier to remember. This automatically benefits students who struggle with strict memorization without context or meaning. (pp. 139-140)
ここでは、概念型のカリキュラムは、従来の事実中心のカリキュラムよりもequity(公平性)が高いとされている。ここで言及されているequitable classroomとは、生徒一人ひとりの違いやニーズに応じて、公平な学習機会やサポートが提供される教室のことである。全ての生徒が同じ方法で扱われるのではなく、個々の背景や学力に応じた適切な支援を行う。
生徒が事実や特定の状況をもとに概念同士の関係を発見する学習環境は、特に学校で苦労している生徒に有益で、深い理解と学びの応用を重視するため、知的な尊厳を与える。事実が主要な概念に基づいて整理されると、覚えやすくなり、意味のない暗記に苦労する生徒に大きな助けとなる。このような教室では、特に学習に困難を抱える生徒にも、理解しやすい学び方や深い思考が促されるよう配慮されている。
[コンナビ] カリキュラムが詰め込み型で、基礎的な内容をしっかりと理解する、すなわち、概念的理解のための時間が不足し、特に、文法や単語の暗記に重点が置かれてしまう。自信を持てないまま学習を続けることで、さらにスローラーナーになりやすいのが現状かもしれない。
さらに、本書では次の4つをequity を確保するために提案している。
1. 教師が生徒に対し持つ期待と生徒との関係性
2. 明確な目的を持ったゴール、活動、インストラクション、評価
3. エビデンス収集、フィードバック、生徒と教員によるゴール設定
4. ゴール到達のためその時点で生徒に必要なことを規準とした柔軟なグループ設定
教員の意識改革が課題
ここでは1.The importance of teacher expectations and relationships をまとめてみる。
大人の期待が生徒の成績に与える影響は大きく、無意識の思い込みに基づくことが多い。研究によると、教師は生徒の能力を誤って予測し、自己実現的予言となる場合がある。1964年、ロバート・ローゼンタール博士の研究では、無作為に選ばれた生徒のIQが劇的に伸びると予測された結果、実際にその生徒たちのIQが上がった。この現象は、教師が生徒に対して無意識に行ったポジティブな対応が影響したとされている。この研究はピグマリオン効果として知られ、無意識に生徒の能力を予測し、その予測が現実となる現象である。教師が生徒に対する期待をコントロールするのが難しいので、教師の行動に焦点を当てることが重要だ。マルツァーノの「期待度が低く見られがちな生徒」という用語は、彼らの能力を見直し、より高い期待を持つことが生徒のやる気を引き出すと強調している。具体的に次の8つを挙げている。
1. 生徒リストの作成と観察:スローラーナーをリストアップし、1週間のやり取りを記録します。冗談を交わしたか、厳しく接したか、課題をチェックして肯定的なフィードバックを与えたかを確認する。
2. 小さな行動:期待度が低い生徒に対して、意図的に小さな行動を選びます。近くに席を設ける、笑顔を見せる、目を合わせる、寄り添う、指名する、挑戦的な質問もする、答えを掘り下げる、褒めるなど。
3. 生徒の観察と質問:生徒の興味や学習方法について観察し、質問する。趣味やモチベーション、学習の好みを探る。
4. 問題行動への対応:問題行動には、少し時間をおいて冷静さと共感を持って対応する。
5. 教師以外の役割での関わり:期待度が低い生徒と教師以外の役割で時間を過ごす。バスケットボールの試合を見に行く、ゲームをする、特別な朝食や昼食を共にするなど。
6. 生徒の興味を学ぶ:生徒が興味を持っていることを学ぶ。芸術やスポーツなど、他の分野での意欲や能力に注目する。
7. 信号に注意:生徒が調子の悪いときの信号、ボディランゲージや嫌な日を過ごしているときの様子に注意する。
8. 授業の構成とグループ編成:すべての生徒が難解な教材や複雑な思考に触れられるように授業を構成する。生徒を引き離さない、能力レベルでグループ分けしない。
[コンナビ]バカロレアとの関連から「概念型」は一部の恵まれた生徒のためと思われがちである。しかし、以上のように、きめ細やかな教員の支援の重要性を認め、実践されている。