全社研修の功罪
先日、ある企業(300名程のコンサルティング会社)において「全社ITスキル向上研修」が行われた。
これは、経営者によるリスキリング施策の一環で、「全社員のITスキルを高める」という目的の下実施され、8時間全ての業務を停止して、全社員が受講するというものであった。
結果は、95%が殆ど何も身についていない(3日後テスト実施)というものであった。つまり、285人/300人が遊んでいたのと変わらないというものであり、経営者が想定していた「全社員のITスキルが高まる」事とは程遠い結果であったことがわかる。
逆に、この効果があったとされる15人はどの様な方であったかというと、ITの専門というわけではないが、DX化のプロジェクトに携る等、「その知識を得る必要がある」方々であった。
ここから何が言えるのか。
大人に対する教育と子供に対する教育の違い
これは、アメリカの成人教育の理論家マルコム・ノウルズにより、成人教育における主要な概念として発展してきた、アンドラゴジーという概念を少しかみ砕いたものである。
この概念に照らし合わせると、テーマにもよるが、全社研修による効果はあまり期待できない事が分かる。
もしどうしても全社研修を行いたいのであれば、下準備に力を入れる必要がある
「まあ、歩留まりはそんなもんでしょ?」と言う経営者はいないとは思うが、どうしても全社研修をやりたいのであれば
下準備を念入りに行う必要がある。
アメリカの教育学者であり、心理学者であるソーンダイクが提唱した言葉に
「レディネス」
というものがある。
これは「学ぶ前の準備」と言い換えることができ、この企業の全社研修では、レディネスが整っているかいないかは個々に委ねられることになった。
その結果
「効果のある人も効果のない人もいるよね~」
という状態となった。非常に効率が悪い。
では、どうすればよかったのかというと、社員個々がそのテーマに「関係がある」「〇〇を得る必要がある」と認識した状態を全社研修前に作っておく必要がある。
先ほどのIT研修であれば、
等のゴール(目的)を作っておき、個々に何が足りないのかを明確にするための事前テスト、そして内容の公表など、上記の大人の学習を成立させるための準備が必要となる。
まあ、正直に言えば、その準備はとても手間がかかり、実務がある中でやっていられるようなものではないことが多い。
つまり、全社研修はやめた方が良いというのが、私の結論であるが、皆様はいかがであろうか。
カトキチ@人材・組織開発コンサルタント