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物言わぬ葦

我は 物言わぬ葦

ただ風雨を耐え凌ぐ為のみに生きている

決して 妬まず ひけらかさず

自己嫌悪も自己憐憫も内的復讐心もおよそ無縁である

無念無想  ひたすら春の訪れを待ちわびている

踏まれても決して怒らない
痛いとすら言わぬ

人知れず平和について深刻に考えている

世俗的な幸福には程遠いがだからといって生きておられぬほど不幸でもない

急がず  貪らず 同情することはあっても干渉はせずまたそれをされることを拒絶する

弱きを助け 強きを挫く

勧善懲悪や偽善をことのほか嫌う

常に小銭しか持たず

かといって吝嗇でもない

むしろ気前はよい

時には身を削り奉仕する

自らが富むことに含羞を感じる

清貧を愛す

愚鈍ではあるが白痴ではない

利害の観念には頗る疎い


情に棹差せば流されると知りつつ 見事に足元を掬われる大馬鹿者である

自虐的なきらいがある 破滅願望に近い

憂悶の士である

あらゆる不幸に聞き耳を立ていつも胸を痛めている

他人の邪魔になることを嫌い
常に身軽な出で立ちで辺りを徘徊している

貞操観念が強く

晴れの日も雨の日も頑なに身を閉ざしておる

孤高を愛し 心に慈しみを忘れず

罪も人も哀れみ

汚れゆく者を愛しむ


世情に疎く 浮き世の事にまるで関心を持たない

よって空気などに流されることもない

死ぬまで兵士たれど 静かに明日の平和を祈り続け

昨日の過ちに一人懺悔する

我は  物言わぬ葦


ただ風雨を耐え凌ぐ為だけに生きている

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