メンバーnote「その子らしさを尊重するために、 親にできること。没頭して学ぶ子ども たちからから考えたこと。」
保護者メンバーからの寄稿です。
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「僕は音楽で平和を訴えたい。」
そんな願いを口にする息子は、自己流でオーケストラ曲を作曲することが大好きな小学5年生です。
幼少期から戦争や生死等のテーマに関心が高く、いつもこの話題ばかりを口にしていた時期はとても心配していましたが、最近は音で表現することを覚えました。
息子はもともと音楽が大好きで、映画音楽やクラッシック音楽もよく聴いています。
特にここ1年ほど前から、クラッシック音楽の世界に一層のめり込むようになりました。
クラッシック音楽を聴くことからはじまり、次第に時代や作曲家の個性により古楽器や楽器の種類、本数が変化していくオーケストラの編成に興味を持ちました。
そこから古楽器の種類とその発展や音楽史に興味が広がりました。
そしてついには、自分で編成したオーケストラの曲を作曲しはじめています。
彼の熱量が「知りたい」から「創りたい」まで、まるで波に乗るように移っていきました。
このように研究や創作に没頭していたため、Co-musubiの平日の自習会やおはなし会に参加できず、その理由を代表の井上さんに伝えました。
すると、息子の研究や創作した楽曲を「発表できる場をつくろう。」と提案いただきました。
そして1月末に、はじめての「Co−musubiフェス」が開催されることが決まりました。
上記は、息子が作成したCo-musubiフェスのご案内ポスターです。
この知らせを聞いた息子は、さっそく音楽史から準備をはじめました。
パワーポイントのスライドにまとめはじめると「あれも書きたい」「これも書きたい」と想いが溢れます。
音楽史の時代に合わせ、同時期の世界史や日本史にも興味が広がり、その結果「音楽」というテーマから多方向に発散したまとまりのないスライドになっていることに途中で気づきました。
「どこに向かっているの〜?」と息子の好奇心を止めてしまいそうな衝動が母である私の中に生まれました。
テーマに沿ってゴールを設定しタスクを決め進めることに慣れてしまった私は、フェスのデッドラインを目前にして、一瞬、息子の大いなる寄り道がもどかしくなってしまったのです。
普段から「寄り道は大歓迎」の気持ちでいようと気をつけてはいますが、堪えることもなかなか難しい。苦笑
フェスの準備にあたり、事前に息子と一緒に確認していたことがありました。それは、
「自分の伝えたいことだけを一方的に話し続けるプレゼンになると、相手はどう感じるかな」
「どうしたら参加する皆が楽しめるかな」
といった、聴いてくれる人を想像して準備をしよう、ということです。
他者の視点に立ち工夫する作業は、息子にとっては超える山のとても高いフィールドの一つです。
Co-musubiでは常々「他者の立場に立って考え準備すること」や「子どもが機会を活かし自分で育つことを見守る姿勢」を大事にしているので、表現することが不器用な彼でも、このような機会を繰り返し経験していく中で、彼自身が彼なりに試行錯誤しながらエンパシーの力を育てていけたらと思い、口出しせずに見守ることにしました。
しかし、私の予想は的中。スライドが膨大なページ数になり、与えられた時間内にはたして発表したいことがまとまるのかしら、という懸念が生まれました。
そのタイミングで、Co-musubiの発表仲間とのミーティングがありました。
作成した60ページにも及ぶスライドや発表内容の確認を行った時、代表の井上さんからもやはり同様の指摘をされていました。
「どうしたら発表を聴いてくれる参加者が楽しんでくれるかな?」
息子はその時「(スライドページが多くて説明が長くても)途中でオススメの曲を聴いてもらったり、クイズみたいにするから大丈夫」と主張しました。
ところが後になって、井上さんから言われたことを彼なりに受け取ったのでしょう。
作成したスライドの中で、特に重要なところや面白いと思う部分をあれこれ考えながら発表するスライドを取捨選択し、面白いと思って聴いていただけるよう彼なりに工夫し、自分の力で軌道修正する様子が見られました。
プレゼン自体が目的なのではなく、プレゼンという機会を通じ彼の世界や視野が少しずつ広がっていること、つくづく大切なプロセスだな、と感じました。
音楽史のスライド作成と同時に、発表したい曲づくりにも楽しく熱心に取り組んでいました。
冒頭で申し上げたとおり、特に戦争時代に生きていた作曲家の存在や、戦争をテーマにしたオーケストラ曲に魅力を感じていることもあり、今回も戦争をテーマにしたチャイコフスキーの「序曲1812」からインスピレーション受けて作曲に取りかかったそうです。
曲をつくる時にはいつも、ピアノを弾いて音を確かめながら作曲をするのではなく、頭の中で響いた音を直接譜面に落とし込み作成しています。
自分のストーリーイメージが膨らむと、イメージに合う楽器にメロディーを込めて音符を書き込み、彼のクリエイティビティを楽譜の上に表現していきます。
チベットの言葉には、“creativity” という言葉はなく、最も近い言葉に当てはめると“natural” になるのだと聞いたことがあります。
幼い子ども達は、恥ずかしさも恐れもなくごく自然に突拍子もない行動をしたり、大人が思いつかないような柔らかい発想や豊かな遊びを生み出している様子を目にします。
そんな子どもの自然体な姿こそが、実はとてもクリエイティブなのだと感じます。
正直言えば、息子の発想に「え?それ意味あるの?」だったり、過去に息子の作曲したものを聴いて「何だ、その曲は?」などと心の内でつっこんでしまう事がありますが(笑)
今回のフェスで夢中になって取り組む彼の姿にしても、彼の日頃のどんなアクションにしても、まさしくそれらは彼の内側から湧き上がるナチュラルでクリエイティブな活動なのだと思います。
数日前、あらゆる曲のパターンを学習したAI(人工知能)によって、無数のフレーズを組み合わせ簡単に作曲できるサービスが誕生したことをニュースで知りました。
もはや驚きはしませんが、シンギュラリティ(技術的特異点)の概念をふと身近に感じてしまいます。
一方で人は、それぞれ生まれてから一生を過ごす中で、様々な経験をし感情や知性が蓄積され、それらは個人の中で複雑につながりながら唯一無二のものとなるはずです。
ゆえに、感性豊かに生み出される創造物や表現は、感情を伴う人間だからこそ成せる素敵な技の結晶だと思うのです。
しかし大人になるにつれ、色んな環境要因で、このようなこどもたちの自然なふるまいに見られる大切なものを失っていくことが多いと言われています。
だからこそ、たとえ多くの人に理解や評価をされなかったとしても、親として彼自身のクリエイティブなポテンシャルを潰さず、否定せず、コントロールすることもなく、そのまま受け入れて応援し続けることの重要性が身にしみます。
今回のCo-musubiフェスで、多くの方を前に自分の好きなことを思い切り表現することができ、またそれをたくさんの方が受け入れてくださった経験ができました。
おかげさまで、彼の中に新たな感情が芽生え貯えられたと思います。
これからも豊かな経験を一つずつ積み重ねながら、彼だからこその創造力を信じ続けて欲しいと願っています。
そこから湧き上がるクリエイティブエナジーは、これから困難にぶち当たった時、きっと彼の助けになるだろうから。
今回のCo-musubiフェスを通して、息子の様子やCo-musubiの子どもたちのクリエイティブな発表から、あれこれ思ったことを書きました。
この度、この貴重な機会を作ってくださった井上さん、そしてCo-musubiの皆さん、素敵な時間をどうもありがとうございました。
最後に、
Co-musubiフェスにご参加くださった皆様、お忙しい中にもかかわらず、子どもたちのために貴重なお時間を割いて下さり、本当に感謝で一杯です。
ありがとうございました。
この場を借りて御礼申し上げます。
坂田
(参考文献:Tom Kelley & David Kelley : CREATIVE CONFIDENCE )
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《 編集後記 》
2021年1月31日に、たくさんのCo-musubi応援隊の皆さまがご参加くださり、朝から夜まで一日かけてのCo-musubiフェスオンラインを初開催しました。
そのCo-musubiフェス企画のきっかけは、この音楽史を研究しているRくんでした。
以前、彼が映画配給会社について関心が高かった際にも、様々な人に向けてプレゼンテーションできる機会があり、とても熱心に準備をしイキイキと説明している姿がとても印象に残っており、ぜひ今回もそのような機会をつくってあげたいな、という想いからでした。
その時の様子は、ぜひこちらをご覧ください。
今回のフェスで、彼はプレゼンの最後に参加者の皆さんに対し大きな身振りで
「10年後には東京芸術劇場の大ホールを使って音楽を発表したいです。僕に関係する人をみんな呼んで1万人を集めたいです。」
と宣言してくれました。
さて、フェスにご参加くださった方々から温かいメッセージもいただきました。一部をご紹介させていただきます。
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「作曲するにあたって、歴史についてもきちんと勉強しているという姿勢が、素晴らしいなと思いました。また、音楽の歴史について本当にたくさんのことを知っているので、びっくりしました。色々テーマを組み合わせて作っている途中の曲は、物語を聴いているようでワクワクしたので、完成したらぜひ聴かせて欲しいです。」
「音楽の歴史の深さに驚きました!とてもわかりやすくまとめてあって、なんとなくしか知らなかった事も、全く知らなかった事もとても勉強になりました。作曲もとても素晴らしく、作曲途中との事だったので続きも楽しみにしています!!」
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いつも、たくさんの方の応援のお気持ちに支えられ、Co-musubiの子どもたちは自分の学びをクリエイトしイキイキと日々を送ることができています。
心より感謝申し上げます。
一般社団法人ダイアローグ・ラーニング 代表理事
Co-musubi 代表
井上 真祈子