【体験レポ】伝統と革新で織りなす美――七宝焼きジュエリーの個展に行ってみた!
七宝、という技法をご存じですか?
金属の素地に高温で熱した釉薬を乗せ、釉薬から溶け出したガラスやエナメルで綺麗な文様と色彩を創り出す伝統工芸の一種です。
古今東西で発展してきた技術で、紀元前の古代エジプトが起源。日本では古墳時代末期のものと推定される「七宝亀甲形座金具」が最古の七宝とされており、安土桃山時代には全国に広まったと考えられています。
現代でも、アクセサリーやインテリア、各種工芸品などで用いられている七宝。その伝統の精神を受け継ぎつつ、洗練されたデザインで形作られた七宝ジュエリーの個展があると聞き、訪ねてみました。
ジュエリーがすきな方、伝統工芸にちょっと興味がある方、ぜひお読みください!
サロンで開かれるラグジュアリーなひととき《narsa*New Jewelry collection展》
総勢20点以上の七宝焼きジュエリーがお出迎え
場所は中目黒にある、とあるマンションの一角。……本当に普通のマンションだったので、「本当にここでジュエリーの個展が……?」とおっかなびっくりエレベーターで上がると、ドアの前に個展《narsa*New Jewelry collection展》の案内を発見。
ピンポンを押して中に入れて頂き、進んでいくと……なんと、素敵なサロン空間が!
マダムのティールーム、という趣きのお部屋で、テーブル上に散りばめられたジュエリーの数々……不思議の国に迷い込んだように、一気にワクワク感がこみ上げてきました。
七宝ジュエリーについて、名前しか聞いたことのなかった筆者。七宝について事前にWEBで調べても、美術品のようなものが多く、伝統工芸のイメージが強くありました。
また、この個展で用いられている技法は《京七宝》という京都に伝わるもので、それも伝統を強く想起させる要因でした。
しかし……実際に目で見て驚き!
こんなに繊細で、自由で、多彩な表現が可能だなんて!
一点一点こだわりの凝縮した作品が、総勢20点以上も展示されているので非常に見ごたえがありました。
しかし、この個展のユニークな特徴は、他にもあったのです。
サロンで談笑しながら、気軽に試着ができます
個展、というと、ギャラリーなどで静かに開催される光景が思い描かれます。
が、こちらの個展では、来場者どうしで談笑しながら、実際にジュエリーの試着ができてしまうのです。更には、ウェルカムドリンクにティータイムセットつき……サロンという空間の良さが、最大限に活かされていました。
来場者の方々はジュエリーを試着したり、美味しいケーキ&ドリンクに舌鼓を打ちながら、楽しい時間を過ごされていました。
1点の製作に1週間以上! 魂と真心のこもった珠玉のジュエリーたち
楽しみ方は5パターン?! アイデアがギュッと詰まったピアス
会場で一際注目を集めていたのが、こちらのピアス。
深い青と、ドラマチックな文様がなんとも魅力的です。
来場者の方が実際につけてみたのですが……これがバッチリよく似合う!
この段階で会場は大盛り上がりでしたが、「実はそれ、別の付け方もできるんです」とデザイナーであり主催者のNarsaさん。どういうことかと動向を見守っていると……?
深く塗りこめられた青が印象的だった表面とは裏腹に、裏面は鮮やかなグラデーション! キラキラと金属の光沢も散っていて、まったく違った美しさが現れました!
このように、上下のパーツを入れ替えたり、上のパーツだけにすることで、5つの楽しみ方がある本作。下のパーツはペンダントトップにして、ペアで持つことも可能です。
たった1つのピアスでこれだけのアイデアが詰まっているなんて……と、会場でも感嘆の声が湧き上がりました。
最初からこうする予定だったのかとNarsaさんに訊ねると、そもそもは表面ありきのデザインだったと言います。
それが、制作しているうちに裏面の構想が出てきて、「このピアスを一番よく表現するためには?」と試行錯誤を繰り返すうちに、この形に辿り着いたのだとか。
その他の作品にも、同じように思い入れがあるそうです。ひとつひとつに心血を注ぎこむため、1点あたりの制作時間は最低でも1週間はかかるとのこと。
配色やアタッチメント、焼成……どれがズレても、最高の作品にはならないため、一切妥協ナシ。聞いているだけで気が遠くなりそうですが、だからこそ、一目見ただけで心ときめく作品になるのだと納得しました。
表・裏、両面に籠めた想い――あなたの“本質”を引き出すジュエリー
また、表と裏で違う色彩なのにも、理由があるとNarsaさんは言います。
裏面をデザインする際にイメージしているのは、“心の内面”。目に見える表側は、誰しもオシャレやメイクなどでそれぞれに着飾るもの。
だけど、心の内面はみんな同じように綺麗だから……Narsaさんのそんな想いが籠められています。
また、先ほどのピアスを別の来場者の方がつけていましたが、同じモノなのに全く異なる印象になるのを目の当たりにしてそれも驚きました!
身につける人の、本質的な美しさを引き出してくれるジュエリー……それもまた、Narsaさんが制作されているときに心がけていることだと言います。
会場では、来場者の方々がお互いに似合いそうなジュエリーを勧めあう、和やかな雰囲気が流れていました。
1千万円の腕時計?! 盤面・ベルト・龍頭、すべてに妥協ナシの《Narsa01》
そんな中、作品群で一際目立っていたのが、覆いの中にある腕時計。
わざわざ囲われているだけにタダモノではないと思っていましたが……なんと、1000万もするシロモノだというじゃありませんか!
今回、特別に覆いをとって間近で眺められることに。
モチーフにされているのは、“鶴”。鶴は一度つがいを決めたら一生寄り添いあう、という生態に感動して決めたのだとか。
京七宝の技法を駆使した字盤はもちろん、ベルトは特注の西陣織で外側は白く、内側は朱色に。龍頭にはプラチナを、機構にはロレックスにも使用されているものを採用。
これだけ随所にこだわりが詰め込まれていたら、1000万の価格にも頷かざるを得ません。
個人的に強く惹きつけられたのが、西陣織のベルト。わざわざ職人さんの工房に出向いて作ってもらっただけあって、計算され尽くした光沢が麗しく輝いて、得も言われぬ美しさでした。
一つひとつに籠められた想いを、身につけて、味わって
これまでご紹介したピアスや腕時計が物語るように、どの作品にも並々ならぬ想いが籠められています。
そんな入魂のジュエリーを、気軽に身につけて楽しめるなんて、またとない機会! 来場の皆さんも、それぞれ思い思いに試着されていました。
ジュエリーそれ自体も、この個展の雰囲気も、とてもユニークで味わい深いものでした。どんな想いで開催されたのか、主催者のNarsaさんに改めてお話を伺いました!
初開催で感無量! 京七宝ジュエリーデザイナー・Narsaさんにお話を伺いました
「天国みたい!」初開催に心いっぱい
実は、きちんと“個展”として銘打った形で作品と展示したのは今回が初めてとのこと。初日を迎えられての感想をお聞きすると、心いっぱいの嬉しさが伝わってきました。
「本当に天国にいるような気持ちです! こんなに多くの方に、自分の作品を見て頂けて……しかも、皆さんお祝いも持ってきてくださって、こんなたくさんのお花に囲まれたのも初めてです」
今回の個展に間に合わせるまで、直近の一週間で徹夜を2回もされたというNarsaさん。やらないでする後悔より、やってする後悔にしようと思って、というお言葉から、この個展に対する情熱の深さが感じられました。
元々は4月に行う予定だったのが、押さえていた会場が売り払われて強制キャンセル……一時は開催が危ぶまれたものの、友人にこちらのサロンを紹介され、無事当日を迎えられたそうです。
七宝への恩返し――制作に注ぐ情熱の原点
そんなNarsaさんが京七宝と出逢ったのは、保育士として働いていた頃。出逢ってすぐに惚れこみ、習いに通い始めたそうです。
「当時、うつ状態だったんです。それを京七宝が救ってくれた。七宝がなければ、今の私もなかった。だから、京七宝のことを今でもすごく尊敬しているし、恩返ししたいという気持ちがとても強くあります」
とはいえ、京七宝を始め伝統工芸は厳しい世界……薄利多売が当たり前、という雰囲気があり、これでは食べていけない、という想いも当初はあったそうです。
しかし、Narsaさんは一念発起して自身の工房を構えました。今は小さくとも、ここが世界一の工房になる……その信念とともに京七宝とともに歩み続けて18年、念願の個展を開くまでに至りました。
“なりたい自分”へと導くジュエリーを……Narsaさんの想いと今後の展望
そんなNarsaさんが京七宝ジュエリーを生み出すにあたって中心に据えているコンセプトは、「“なりたい自分”になれるジュエリー」。
選ぶ際にも、“今の”自分ではなく、”なりたい”自分に似合うジュエリーはどれか? という観点で決めてもらうことをお客様に提案されていると言います。
「ジュエリーって、つけているとそれだけで気持ちを引っ張ってくれるんです。だからこそ、未来の自分、夢を叶えた自分をイメージして、それに相応しいジュエリーを身につけることで、本当に叶っていく……そんな作品づくりを心がけています。
だからこそ、大切にしてくれる人のもとに届けたいです。ジュエリーに夢を入れてくれると嬉しいなって思います」
オーダーメイド制作では、なんと一年がかりだとか! どんな自分になりたいか、どんな夢を叶えたいかをヒアリングしながらデザインを固めていくため、どんどん構想が膨らんでいって、そのくらいかかるそうです。そのくらい、制作者もお客さんも、妥協ナシなんですね。
18年たっても、京七宝への想いがますます深まっているNarsaさん。
今後の展望をお聞きしました。
「個展は、年一くらいでできたらいいなと思っています。また、絵も描くので、《夢を叶えるジュエリー》というテーマで絵本を作りたい、というアイデアもずっとあって。ジュエリーひとつひとつに籠めた想いを物語にして伝えていくことも、やってみたいです」
夢を叶えるジュエリーを創られているNarsaさんも、まだまだ叶えたい夢がたくさんある……伺っていて、こちらの気持ちも温かくなりました。これからも応援しています!
本質に寄り添い、未来を歩くパートナー……京七宝ジュエリーの世界へようこそ
値段とお手入れは、一緒に永く過ごすために
ここまでお読み頂いて、京七宝に興味を持った方……自然と、お値段やお手入れが気になってくることと思います。
京七宝を愛しているからこそ、大切にしてくれる人の元に届けたい。その信念から、Narsaさんは敢えて京七宝の一般的な相場より、高めの価格帯を設定しています。
その分、大切にしてくれる方の元に届けられるように、一点一点に心血を注いで製作されています。今回の個展で作品を見ても、頷くしかないクオリティです。
また、有名なブランドものレベルで高額、というわけではなく、心を決めれば手を伸ばせる範囲なのでご安心を。
また、使用されているのはいずれも純銀。通常、アクセサリーに使用される金属は混ざりものがありますが、京七宝では焼成の工程が入るため、そうしたものではどうしても綺麗な色にならないのだと言います。
純銀製品はお手入れが大変なイメージがありますが、Narsaさんの作品は購入の際にお手入れ用の専用クロスとクリーナーがセットになっているので、自分で用意するハードルを下げてくれます。
普段使用したときにはクロスで、ちょっと黒ずみが目立ってきたらクリーナーで……そうして適切にお手入れをしているうちに愛着が湧いて、大切なパートナーになること間違いなしです。
今年末に次回開催の可能性も。ぜひ一度その目で、あの輝きをチェック!
Narsaさんの個展ですが、次回開催はまだ未定。それでも、早ければ今年末にも催される可能性があります。実際に見てみたい、試着したい、という方は続報を心待ちにしていてください!
それまで待てない! という方にはオンラインショップもあります。ぜひ一度ご覧くださいね。
ジュエリーをつけると、自然と気分が華やぐもの。それが、自分の本質を引き出し、なりたい自分に導いてくれる……そんな祈りの籠められたものだったらなおさらです。
心に寄り添う京七宝ジュエリーの世界、あなたも触れてみませんか?
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