第8回 日本で唯一のコンポスト専門店「コンポストフレンズ」をオープン! 西川美和子さん
コンポストをはじめたいと思った時、自分のライフスタイルに合ったコンポストを見つけることって、意外と難しいものです。インターネットで調べたり、ホームセンターで探してたりして、コンポストを選んだ人も多いかもしれません。
でも、実際にいろんなコンポストを見比べながら、相談できるお店があったら! そんな願いをかなえてくれたのが、西川美和子さん。昨年(2024年)6月、日本で唯一のコンポスト専門店「コンポストフレンズ」をオープンしました。店内では、前回、紹介したキエーロやバッグ型のコンポストなど、様々なコンポストを販売。コンポスト講座やコンポストづくりのワークショップを開催しています。西川さんにお店をオープンするきっかけや活動についてお話をお聞きしました。
コンポストとの出会いをお手伝い
「コンポストフレンズ」は、小田急線の新百合ヶ丘駅からバスに乗り10分あまり。東京都稲城市にある平尾団地商店街の一角にあります。
ピスタチオグリーンとガラス窓が印象的な明るい雰囲気のお店。店内には、西川さんがセレクトしたベランダ型、設置型の「キエーロ」やバッグ型コンポスト、木製コンポストなどが置かれ、まるでコンポストの展示場のよう! 生ごみをためておくストッカーのほか、シャベルやネームプレートなど、ベランダやガーデニングに便利なアイテムなども販売しています。
見て比べて相談できる
実店舗ならではの良さ
いざコンポストをスタートしたいと思っても、虫や臭いの心配、自宅まわりの環境(一軒家orマンション、庭やベランダの広さ)、家族構成など、自分にはどのコンポストが最適なのか? ネットの情報だけだと判断できないことも多いもの。西川さんは、様々なコンポストを紹介しながら、それぞれのライフスタイルにあったコンポストを提案。玄関先に置かれた実践中のキエーロを見ながら、生ごみの入れ方やかき混ぜ方、水分の量などを丁寧に教えてくれます。
「実際に、コンポストを使っているところをこの目でみてから買いたい」と、遠くはなんと福岡や浜松から来られた方もいるんだそう。
SDGsでコンポストが注目され、ポップアップショップやイベント等の開催でコンポストを購入できる機会も多くなりましたが、いつでも相談できるお店って日本では、初めてではないでしょうか。コンポストを購入したい人、またコンポストを実践中の人が相談できる場所としてコンポストフレンズは、「待ち望んでいたお店」といえそうです
では、西川さんはコンポストフレンズをなぜはじめようと思ったのでしょうか? そのきっかけについて伺いました。
一冊の本との出合いがコンポストをはじめるきっかけに
「コンポストをはじめるきっかけは 1冊の本でした。4年前のある夜、『土・牛・微生物~文明の衰退を食い止める土の話』を読んでいて、それまで知らなかった土の中の世界と出合いました」。
著者であるデイビッド・モントゴメリー氏は、国際的な地質学者で、「土」のエキスパート。土と生態系、人との関わりを様々な角度から描いた、『土の文明史』、『土と内臓』、『土と脂』、そして『土・牛・微生物』(築地書館刊)は、土の四部作といわれています。
じつは、西川さんは、NHKで36年間、番組制作や国際発信に携わってきました。
「ここ20年は、環境問題に関する番組を制作し、地球温暖化などの気候変動や二酸化炭素削減についても取り上げてきました。大気中にある炭素を減らす方法としては、二つの方法が知られています。
① 森林吸収 植林し森を増やすことで、木の中に炭素をためる方法
② 工業的に炭素を大気中から隔離して貯める方法
②に関しては、世界中でさまざまな技術開発も行われていますが、まだ確実かつ安価に炭素を減らしていける方法は確立していません。しかし、この本を読んで
『土の中に炭素を閉じ込める方法があったんだ!』 と衝撃を受けたんです」。
植物の光合成を利用して二酸化炭素を削減
それは、植物の光合成を使って二酸化炭素を削減する方法。陸上の植物が、光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭素が多く含んだ枝葉を作ります。さらに枯れた葉や茎などが地面に落ち、微生物などがそれを食べ、炭素をたっぷり含んだ土壌が作られる。この自然の営みが、大気中の炭素を土の中に閉じ込め、大気中の炭素を減らすことができるといいます。
なかでも、農業を通じて土壌や植物が二酸化炭素を吸収・固定する「カーボン・ファーミング」は、環境再生型(リジェネラティブ)農業として、近年、世界的に注目されています。
カーボンファーミングの番組を制作
「本には、実践者のひとりとして、アメリカの環境再生型農業のパイオニアであるゲイブ・ブラウンさんが紹介されていました。早速、ゲイブさんの『土を育てる』という本を読んでみたら、とても面白くて。なんといっても、ご自身の体験から綴られている言葉なので、わかりやすいんです。これをなんとか番組にできないかと思い、NHKワールドJapanで『CARBON FARMING 〜A Climate Solution Under Our Feet〜』として、番組を制作。ゲイブさんや菌ちゃん農法として知られている吉田俊道さんを紹介しました。
番組は、YouTubeにアップされ、約175万回もの再生数を記録!(英語版は無料、日本語版はNHKオンデマンドで有料配信)。
ゲイブ・ブラウンさんの『土を育てる』は、西川さんの提案により、NHK出版から日本語版を刊行。2023年時点で、5刷もの重版を重ねるほどの話題の本となっています。
二酸化炭素削減に自分ができること=コンポストをスタート
西川さんは、番組づくりに携わったことで、
「二酸化炭素を減らす試みとして、いきなり畑をすることはできないけれど、コンポストを実践すれば
・土の微生物を増やして炭素たっぷりの土壌をつくることができる
・生ごみの収集や処理に伴う二酸化炭素の排出量を削減することができる
これなら、私にもできるかなって思ったんです」。
時は、コロナ渦。時間に余裕があったことも幸いし、西川さんはコンポストをスタートします。
「はじめはホームセンターで売っていたバケツ型で液肥を取るコンポストにトライしました。でも、このやり方だと、かなりの発酵臭がするのと、出来たものを庭に埋めるのが相当な手間で、すぐにやめてしまいました。その後、バッグ型のLFCコンポストや、いろいろなコンポストを試しているうちにキエーロを知ったんです。手間もかからずに、失敗も少ないこと。基材交換が不要なことも魅力で、なんてラクチンでいいんだろう! すごく楽しいって」。
キエーロの魅力にすっかりはまった西川さんは、その後、キエーロオフィシャル運営事務局メンバーとしてキエーロの普及活動にも取り組みます。
コンポスト熱が高じて
コンポスト屋さんを決意
「ちょうどその頃に定年を迎えて。なにをしようかと考えた時、キエーロが気軽に買えないんだったら、私がキエーロを売ろうかなって思ったんです」。
西川さん自身、初めはリンゴ箱で自作した簡易的なキエーロを使っていましたが、本格的な設置型のキエーロを欲しいと思った時に、販売するお店がありませんでした。知人を通じてようやくキエーロを制作している方につないでもらい、入手することに苦労した経験から、コンポストのお店を思い立ったといいます。
「まわりの人には無謀だって、驚かれたんですけどね」と軽やかに笑う西川さん。
キエーロ好きが高じて、お店をオープンするなんて、その熱意に驚かされます。実際、コンポストで利益を出すことはなかなか難しいこと。でもコンポストの話をする西川さんは、とても自然体。そして本当に楽しそうです。
コンポスト専門店への夢を実現するべく西川さんは、早速、動き始めます。東京都及び東京都中小企業振興公社が、シニア起業を後押しすることを目的に、55歳以上を対象としたコンテスト「東京シニアビジネスグランプリ」に応募。114名の応募者の中から、最優秀賞を受賞しました。また、観客やオンライン配信に参加した皆さんが投票するオーディエンス賞にも選ばれ、グランプリとのダブル受賞に輝きます。
コンポスト専門店をオープン!
その賞金50万円を開業資金の一部として、2024年6月、自宅近くの商店街の一角に、「コンポストフレンズ」をオープン。コンポストの販売とともに、キエーロ作りのワークショップを定期的に開催。最近は、出張講座も開催するほど人気の講座となっています。
「講座を重ねることで、定型以外のキエーロを希望される方も多くて、これからはオーダーメイドのキエーロにも応えられるようランナップを増やしていけたらと思っています」。
また、団地の商店街という土地柄、地元の方の反響を聞いてみると
「団地の方のなかには、貸し農園で畑をやっている方もいらして、土のことなどいろいろと教えていただいています。なかでもバッグ型のコンポストは、自宅で作った堆肥を畑に運ぶのに便利と購入くださる方も多いんです。コンポストってみんなでやると楽しいので、将来的には地元でコンポスト仲間を増やして、団地でプランター菜園をやれたらいいなと思っています」。
取材を通して感じたのは、西川さんの熱いコンポスト愛としなやかなパワー。コンポストについての講座もとても興味深く、自然とお話しに惹きこまれていきました。
なかでも、地球温暖化対策の二酸化炭素削減のメカニズムについては、私自身、日々のニュースなどで知ってはいたものの、本を読んでも具体的には理解できずにいました。しかし、化学式が苦手な私にも西川さんの丁寧な説明により、ようやく「土の中に炭素を閉じ込める」意味を理解することができました。
「難しいことをわかりやすく」。これは、西川さんが「伝えるプロ」としてNHKで環境問題に携わってこられた豊かな知識と経験からつむぎだされる言葉だからだと感じました。
また、自分のコンポスト堆肥が地球温暖化の一助になっていること。一人ひとりは、ちいさなアクションかもしれませんが、コンポストの大きな可能性をあらためて感じることができました。
店名の『コンポストフレンズ』のように、コンポストという共通の話題があると、性別や年齢、職業などの垣根を越えて、自然と話が弾みます。お店を通じて、人と人がつながり、コンポストの輪が広がっていきそうです!
コンポストフレンズ
・住所 東京都稲城市平尾3-1-1-35-109
・電話 070-2402-2424
営業日等はインスタグラムにアップ