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【後編|事業主必読!】ハラスメントを防ぐ・許さない文化を創るために今すぐやるべきこと
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
前回より、「職場でのハラスメントを防ぐ」「そもそもハラスメントが起きにくいすこやかな職場にする」ために事業主が今すぐやるべきことをお伝えしています。
まだ前編を読んでいない方は、こちらから先にお読みいただくことをおすすめします。
この記事でも引き続き、厚生労働省によるセクハラ指針において、事業主がやるべきこととして示されている10項目をベースに、【今日から動けるように】解説していきます。
今回は、3(5)からスタートします。
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3 【事後対応】迅速かつ適切な対応
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上記の(5)〜(8)の部分です。
(5)事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
(6)事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
(7)事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
(8)再発防止に向けた措置を講ずること。(事実確認ができなかった場合も同様)
コト(ハラスメント)が起きてしまった可能性があり、それが相談窓口への相談等という入口(端緒、といいます。)を通ってきた場合、迅速かつ適切な対応が義務付けられています。ただし、、いざコトが起きてから「急いで対応しよう」とか「早く終わらせなくては」と思ったとしてもまず、無理です(断言)。
事後対応とはいえ、「事前準備」が8割です。事前に準備していない場合、よほどハラスメント対応に精通していないない限り「事実関係を迅速かつ正確に確認」なんてできません。
では、何を事前準備しておくと良いかというと、あらかじめ調査を担当する専門家と事案に対応する専門家の双方(つまり最低2名)のあてをつけておくことです。
いずれも、顧問弁護士やハラスメント調査経験のある弁護士・社会保険労務士等を有力な候補としましょう。
初めて発生したハラスメント事案に対し、事業所内だけで手探りで事後対応なんてしたら、「事実関係を迅速かつ正確に確認」なんて絶対できませんし、コトが起きてから、適切な専門家に出会うことは、まず困難です。
これはハラスメントに限らず、弁護士選びの際によくお話ししています。事が起きた直後は、誰でも目の前のことに追われて判断能力を奪われます(少なくとも低下します)。判断力が低下した状態で選んだ専門家が、適切な人材かどうかは、運でしかありません。厳しいことをいいますが、事前に適切な準備をできなかったからトラブルに遭っているのに、より判断能力が低下した状況でいい人材に出会うなんて宝くじみたいなものだと思いませんか? …絶対に専門家のあては、事が起きる前に「事前準備」してくださいね。
なぜ「最低2名」かというと、調査を担当する専門家と事案に対応する専門家は別の人が必要になるからです。
兼任も絶対不可能というわけではないのですが、調査の初期段階(私が「一次調査」と呼んでいる段階。受付段階。)で、組織の弁護士が被害者から直接話を聞く場合、被害者は「相談に乗ってもらえた 」「味方になってもらえた」と受けとめることがあります。
実際には、相談には乗りますが、まだ、受付段階です。証言に基づき、客観的事実を積み重ねていくので、当然被害者の主張が通らない場合も起こり得ます。
もし、その後の調査・対応の結果において、組織が被害者の主張を認めなかった場合、納得できない被害者は、今度は、組織の使用者責任を追及しようとする場合があります。
そしてその際、最初の窓口として調査を担当した弁護士が組織の代理人として応訴(=組織側の弁護士として対応)した場合、被害者からすると「自分の味方だったはずの弁護士」が敵として現れたように見えることから、「信頼を裏切られた」とさらなる別のトラブルを生むことがあります。
ですから、受付(一次調査)、調査(二次調査)、訴訟の各段階を通して、一人の専門家(弁護士)がすべて担当することは避けるべきです。したがって、調査を担当する専門家と事案に対応する専門家は別の人を確保しておく必要があるわけです。
顧問弁護士もいないのに、2人も専門家を確保するなんて…と途方に暮れてしまいますよね。しかし、この事前準備・心づもりはとても重要なので、すぐに対応しましょう。
ここまで読んで途方に暮れた事業主の方は、どうぞお気軽に塙までご相談ください。>>お問い合わせはこちら
では、専門家を確保できたと仮定して、指針に則って一つずつの対応方法を見ていきましょう。実はもうほとんど、お伝え済みの内容の復習です!
(5)事実関係を迅速かつ正確に確認すること
ファクト!ファクト!ファクト!です。こちらでガッツリまとめました。
(6)速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
厚生労働省の指針では、「事実確認ができた場合には」という枕詞がついていますが、実際にはこの枕詞は不要です。事実確認ができてから配慮しても、手遅れです。
事業主が行うべき対応は、被害者の安全確保→状況把握の順番となります。被害者は、「労働者の就業環境が害される」結果が生じたor生じると感じているわけですから、事業主は、まず被害者の心身状態を確認した上で、さらなる被害に遭わない状態を確保します(出勤停止や人事権行使としての異動等)。
ここの順番を間違えると、事実確認をしている間に、被害者が、さらに被害を受ける可能性が高い。ですから、必ず、被害(を訴えている)者の安全確保が先です。
事実がなかったとしても、可能性があった以上はやむをえない措置です。
被害を受けている可能性のある人の保護を最優先にしましょう。
(7)事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
適正な措置(処分)です。こちらにまとめました。
(8)再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)
被害者の速やかな保護も重要ですが、「『就業環境が害されること』が問題だから」ハラスメントという概念がうまれていることを忘れてはいけません。ハラスメント調査を何のために行うかというと、「就業環境が害される」から、それを回復し、二度と起こさない為です。
つまり、被害者一人の問題ではなく、すこやかな職場環境の整備・保持が最終的に最も大切な目的です。
ハラスメントは、加害者の個人的な資質や問題「だけ」によって生じたものではない。ハラスメントを許した組織の体制や文化にも必ず課題があります。
少なくとも、法律上義務付けられている「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じていなかったとすれば、それは組織に原因があったと受けとめるしかありません。
では、どうすれば今回のハラスメントを防げたのか。ハラスメントが確認されなかったとしても、訴えた人をそう思わせてしまった環境は何か。
どこに分岐点があったのか、それを検討することが重要です。
訴えや被害がでてしまった以上、その被害を無駄にせず、そこから学び、今後起こらないように具体的に対策する。事業主には、そういった行動が必要になります。
4 【事前対応】1から3までの措置と併せて講ずべき措置
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事業主が講ずべき措置10項目のラスト(9)(10)にあたる部分です。
(9)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
「プライバシーを保護するために必要な措置」を講じなければいけません。
プライバシーが保護されないのであれば、相談も、被害の申し出もできないからです。
そして、こういった措置を取ったことを「周知」しなければならない。
「相談しても、相談したことは誰にも知られないよ」「守られるから、安心して相談してね」と、みんなにわかるようにお知らせしてください。
繰り返しますが、相談者にとって、小規模な組織では、相談した時点で面が割れてしまう(匿名性がない)ことから、そもそも相談しにくいという壁もあります。この場合、「プライバシーを保護するために必要な措置」として、やはり外部相談窓口の設置はオススメです。
(10)相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
「相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない」ことをコンプライアンス規程や相談窓口の規程に具体的に定める必要があります。
もし、相談や調査協力をしたことによって不当な扱いをされるのであれば、弱い立場である労働者は、相談も被害の申し出もできないからです。
そして、こういった定めを置いたことを「周知」することまでがセットです。
「ハラスメントを相談したり、誰かが相談した事案への調査協力をしたりしても、一切の不利益はないから安心してね」としっかり伝えなくてはなりません。
いざハラスメント事案が発生するとわかりますが、事業主のあなたは「このことが表沙汰になったら組織の存続に関わる」「だから穏便に済ませたい」と、事案を隠蔽し、相談者や通報者に不利益な取り扱いをしたくなる衝動に必ずかられるはずです。
しかし、あなたの組織が「すこやかで働きやすい」「生産性の良い」職場になるためには、この衝動をぐっと抑え込んでみせなくてはなりません。
その時は、ぜひ似たような事案を検索してみてください。ハラスメントの初期対応に失敗して、とんでもなく炎上してしまった企業の事例は、枚挙にいとまがありません。
いかに事前に「万全のハラスメント対応をするよ」宣言・周知しても、一度でも隠蔽したいという衝動に負けたら、従業員にとっては「逆の意味の周知」となり、信頼関係は完全に壊れることを忘れてはいけません。
この衝動に負けないことが、あなたの経営者としての将来を決めると言っても過言ではないのです。
まとめ
2回にわたり、ハラスメントを許さない組織づくりとして事業主がやるべきことを紹介しました。
前回記事の冒頭にお伝えしましたが、ハラスメント体質の人を採用段階で見抜くのは難しい。だから、ハラスメント体質の人が応募してくる確率を減らすためにも、組織が「ハラスメントを許さない」ことを前面に打ち出し、真剣に対応している実績を積んでいることが大切です。
組織に守られている安心感があれば、従業員のやる気は向上し、それは必ずや組織に生産性として還元されるでしょう。
内部だけで解決しようとせず、適切に外部の力を借りながら、すこやかな職場づくりをしていきましょう。