まなかい;大雪 第72候 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)
71候から続く。
一緒に笑ったその犬は、2度と暗い家には入らなかった。
家の並びに芝地があって、そこに立って、真っ直ぐに丘の向こうを見つめている。白い秋田犬と芝犬を合わせたような雰囲気の日本犬に姿が変わっていた。
大きな堂々とした白い胸を張って、光っている。
何を見て居るの?と聞いても、じっとそちらを見つめたままだ。黒い瞳でじっと見つめるその先。
さっきは二人で夕日を見ていた丘。そちらをみているようだけど、夕日ではない。ここでは時間が早いようだ。
白い感じが強くなって、光が感じられる。赤い。熱。炎。黄色。。。
太陽が昇る。はじまり。春。
何がはじまるのか、僕が何をはじめるのか。
…なにを始めるのかワンちゃんにいってみてください。
「花を初めから、今度はもっと大きく。最初から。初心に立って。
たくさんの生命と喜びを分かち合う」。
さっきの笑顔を思い出す。動物とも植物とも人とも、喜びは分かち合える。みんな嬉しければ笑うし、悲しければ泣く。
…そうだと言っています。
犬は草むらをクンクンしながらモソモソと動き始めている。
それと、「魂をちゃんと送る」。
…それです。
それでは最後、その子を抱きしめてあげてください。
そうか、もう最後なんだ。
そばにいって、ありがとうと言いながら撫でると、驚いたことにその子は僕の手の中で子犬になっていった。とてもとても柔らかい、ふわふわの子犬。瞳はつぶらな星空のようだった。もう忘れないだろう。
もう一つ。
「ちゃんとこの手で」。
送るにしても、愛でるにしても。
花を活けることは、命を送り、同時に宿すこと、今ここにある未来を立たせ、笑って送ることなのだ。
僕の名前には「塚」が入っていて、「塚」とは犬牲をして清められた聖所のことだ。
そのことを犬たちが教えてくれた。まだみぬ犬たちもいたけど、どこか出会って居るのかもしれない犬たち。未来かも。
スワンと、スプートニック。
北からやってくる白鳥。
北方のロシアの、犬を乗せたロケットの名を持つ。彼は宇宙に行ったっきり帰ってこなかった。
白と黒の犬たち。
第72候は、鶏が卵を産み始める頃。
鶏は太陽を呼ぶ。闇を打ち破る鳥。鬼を祓う鳥。
聖所に清らかな光が射す。何度迎えても春は、いつも初めての春。
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