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芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)
「ながめる」とは 永い雨、長雨(ながめ)から来ているという。
間断なく降り続く雨を眺めていると そこはかないぼんやりしたときが過ぎていく。焦点はどこか遠くなっていく。
夜半過ぎても雨が降り続いていたりすると もぞもぞ起き出して 手近な異界である書物を読みたくなる 五月雨に濡れそぼる五月闇。雨は日常を異界にしてくれるから、雨音を聴きながら書物という森を踏み迷うにはうってつけだ。
「梅子黄 うめのみきばむ」
まだ浅い春に咲く梅の花 梅花の香りは夜そこはかとなく漂う
黒鉄の木末に 寒空を咲く梅の花
受粉してできる堅い青い実は まだ赤ちゃんの柔らかい核を守ってきた
お母さんが嬰児を守るのと一緒だ
核がしっかり種子として固まる梅雨時
梅の実は色づきいよいよ熟し しとど降る雨に果実の香りは溶け出し
紫陽花に滴り 土に染み込む
人や鳥が残した梅の実
熟して落ちた実もまた場所に帰る 黴雨に溶かされ 夏草が覆って 帰って行く
雨をながめながらのものおもい
記憶 も 溶け出していくようだ