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其ノ8 仏様🪷めぐる「末吉町岩﨑の薬師如来とトラクター🚜王子」
鹿児島県曽於市末吉町岩﨑地区。住宅の敷地に薬師如来(やくしにょらい)と日光菩薩(にっこうぼさつ)、月光菩薩(がっこうぼさつ)の薬師三尊がある。
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この夏、この地区に住む人に会いに来た。道に迷い、なかなか目的地まで辿りつけない。辺りは畑とポツリと家があるのみ。猛暑続きで炎天下の昼下がり。屋外で作業する人はいない。道を尋ねたくても、ひとがいない。途方に暮れていると、王子様はトラクターに乗って東の方角から現れた。
この人だけは、逃してはいけないと全身で感じた。
必死になって、追いかけた。
たとえるとしたら『飼い主と何日間も離れてしまったワンコが、飼い主を見つけて、しっぽもこれ以上は振れないほど振って駆け寄る』感じ。
しっぽを振りながら走るのは、なかなか大変だ。
やっとの思いで追いつき、じゃれつきたい思いを押し殺して、こころの中でお座りをして、道を尋ねた。しっぽは振ったままだ。
なんと、私の行きたい家は、トラクター🚜王子の知り合いの人の家だった。
案内をしてくれることになって、トラクターと車の交換をするために、トラクター🚜王子の自宅に寄った。
すると、トラクター🚜王子は自分の家の敷地にある薬師如来と私を引き合わせてくれたのだ。
運命の輪は動き始めた。
その瞬間、こころの中でおてをした。しっぽは無意識に振られている。
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この薬師三尊は丸山下自治会の個人の所有地にある。自治会のひとたちで、管理をしている。毎年7月8日に各家庭からの赤飯と焼酎がお供えされ、年末は、しめ縄を作って年を越す準備をする。この地域にあるコミニティーの場のひとつだ。
いつ頃、誰によって安置されたかは誰も知らないと言う。
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数字のハチはヤクの語呂合わせで、縁日になったといわれている
薬師如来は東方浄瑠璃世界(東方にある薬師如来の浄土。瑠璃を大地にして、すべてのものが七宝から成り日光、月光、無数の菩薩が住む世界)の教主で正式名を薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)といい、病気を治して衣食住を満たすという。
阿弥陀如来は死んだ後に安らぎを与えるが、『薬師本願功徳教』という経典によれば、薬師如来は「十二の大願」をたて、生きている間に願いを叶えてくれる。
「十二の大願」とは薬師如来が私たちに約束された願い事をいう。
① 瑠璃の輝きは世界を照らし、全ての人々を悟りに導きます。
② 瑠璃の輝きは雄々しく巍々蕩々(ぎぎとうとう)としていて、迷いの闇を破り浄瑠璃浄土に導きます。
③ 悟りを得るために必要なあらゆる財物を施します。
④ 迷う衆正を佛道へ導く方法を教えます。
⑤ 戒律を破ってしまった者を反省させその罪を清めさせます。
⑥ 病気や身体的苦痛を取り除きます。
⑦ 病気や苦しみを取り除き、心身安楽にして無上菩提を証します。
⑧ 成佛するために男女の区別なく無上菩提に至らせます。
⑨ 正しい菩薩道に引き入れ、苦痛や煩悩を浄化できるようにします。
⑩ 災禍や暴力などに苦しむ衆生が解き放たれるべく授けます。
⑪ 著しい餓えと渇きに晒(さら)された衆生の苦しみを取り除きます。
⑫ 困窮して寒さや虫刺されに悩まされる衆生に衣類を施します。
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昔から近くに寺、神社はない。医者や診療所もない。人びとは農業中心の生活で、南九州特有の、猛暑、大雨、台風、高温、多湿の中、それらに関連した病気に多くの人々が悩まされていたと考えられる。
「十二の大願」から、薬師如来に救いを求め、願いをかけ、すがった様子を想像することができる。
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向かって右側の日光菩薩は、太陽のように人びとの煩悩を照らし出して救済する仏の智慧を象徴し
左側の月光菩薩は月の光のようにやさしい慈しみの心を表して仏の慈悲を象徴している。
この丸山下自治会は24世帯から成る。その80%が80歳代後半から90歳代である。何年か後には、人口の流出による後継者不足、コミニティーの機能低下により、この薬師三尊の管理は、困難になってしまうだろう。これは、この地域に限らない。カタチあるものは、いつかなくなる。しかし、ここにあった人びとの思いや願い、希望はなくならない。なぜならば、その願いの先にいまを生きる人びとがいるからだ。
神様、仏様はその世界独特なものである。この現世で神様、仏様を通して過去に生きていたひとの思いや祈りを知る。それは実話であり、忘れてはならない歴史である。
これからも神様や仏様、鳥居をめぐって、そこにある小さな歴史を神様、仏様とともに残していきたい。
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もしかしたら、東方浄瑠璃世界から来たのかな🪷
ワンコ夏の疲れから復活🐶
参考文献
岩波仏教辞典第2版
仏像図鑑 誠文堂新光社
面白いほどよくわかる仏教のすべて 日本文芸社
如来と菩薩辞典 大森義成著
目で見る仏教小辞典 すずき出版