【第312回】『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(アーヴィン・カーシュナー/1980)

 宇宙の要塞“死の星”(デス・スター)が爆発し、その勢力も消滅したかと思われた帝国軍側は、やがて再び大きな軍団となって反撃を開始した。そのため反乱軍は後退し、レイア姫(キャリー・フィッシャー)は残された僅かな部下と銀河のはずれ“惑星ホス”に逃がれていた。そこはすべてが氷に閉ざされた惑星で反乱軍はそこに洞穴をつくって基地にしていた。

シリーズ第2作となったトリロジー9部作のうちの5作目。ジョージ・ルーカスは監督を退き、職人監督であるアーヴィン・カーシュナーに監督を依頼。ピーター・フィンチ、チャールズ・ブロンソンらが出演した『特攻サンダーボルト作戦』の監督として知られた彼の大抜擢は、ルーカス自身がアーヴィン・カーシュナーの職人としての腕を見込んでのことだったという。結果としてアクションがほどよく後退し、人間味の強いドラマに仕上がっているのは全てアーヴィン・カーシュナーの力であり、彼を監督に起用したジョージ・ルーカスの冷静な判断によるものだろう。

ある日、その惑星の乗物的動物、卜ーン・トーンに乗って偵察に出かけたルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)は、突然その惑星の怪獣ワンパに襲われた。が、ベン・ケノビ(アレック・ギネス)から伝授された霊力(フォース)を使い危いところを逃れ、途中迎えにきたハン・ソロ(ハリソン・フォード)に連れられて基地に戻ることができた。前作『新たなる希望』において、デス・スターに最後の一撃を食らわせた活躍が元で、ルークとハン・ソロは晴れて軍の隊長へと昇格した。だがハン・ソロはかつての星での多額の借金を心配しており、いつも星へ帰るフリをして、レイア姫の気を引こうとしている。今作はレイア姫とハン・ソロのロマンスが一方の主軸となっている。

もう一方の主軸は、ベン・ケノビ(アレック・ギネス)の霊力(フォース)によりルークに伝えられたジェダイになるための修行であり、マスター・ヨーダへの弟子入りである。ハン・ソロとチューバッカ(ピーター・メイヒュー)はレイア姫とC-3PO(アンソニー・ダニエルス)を伴い、ミレニアム・ファルコン号に乗せ惑星ホスを脱出した。一方、ルークもR2-D2(ケニー・ベイカー)と共に惑星ホスをのがれ、一路ダゴバ惑星へと向う。ここでは旧シリーズでクワイ=ガン・ジンやオビ=ワン・ケノビの師として君臨した最後の生き残りのジェダイ・マスターであるヨーダが、ルークの到着を待ち侘びていた。ルークは最初、彼がマスターだとは思わないが、やがて偉大なフォースの力を見せつけられ、彼に教えを乞うことになる。

ここでの修行のSFらしからぬ真にアナログな鍛錬の様子が素晴らしい。新3部作ではあえて見せなかったアナキンの修行の様子も、ヨーダとルークの修行によりその一端が垣間見える。逆立ちに始まり、空中浮遊や予知など、ありとあらゆることをヨーダから学んでいく。その傍らには、『新たなる希望』でダースベイダーに殺されたオビ=ワンもいるのである。修行も中盤に差し掛かり、瞑想にふけっていたルークはふと雲の都市でのレイアらの苦境を感知し、2人を救い出すべく雲の都市に向かう。

帝国軍側の猛追を受けたソロ操縦下のミレニアム・ファルコン号は、ある小惑星に寄り、それからベスピンの“雲の都市”へと移動した。その都市はランド・カルリシアン男爵(ビリー・ディー・ウィリアムス)によって統治されていたが、彼はかつてのハン・ソロの仲間でもあった。しかし、その都市にもダース・ベイダーの魔の手はのび、強要されたランドは、遂に2人を引き渡してしまう。それまでハン・ソロに対する恋心を素直に言えなかったレイア姫も、冷凍人間にされる寸前のハン・ソロに「あなたを愛しています」と告白した。その言葉を聞いたハン・ソロは、静かにうなづくとやがて冷凍器の中に姿を消した。レイア姫の気の強さはまさにアミダラ譲りの逞しさである。だがアミダラとアナキンがかつて恋に落ちたように、レイア姫とハン・ソロも互いの想いに徐々に気付いていく。新3部作ではジョージ・ルーカスがあまり得意ではなかった2人の恋に落ちる描写を、アーヴィン・カーシュナーはルーカス以上に器用に演出する。

霊力をもったルークを恐れるダースベイダーは、彼が姿を現わすのを待ち構えていた。アナキンがかつて見た予知夢の能力は息子であるルークにも受け継がれ、その不安の感情が暗黒面へとルークを引きずり込もうとする。クライマックスのダースベイダーと、ヨーダからジェダイの全てを教わる前のルークとの戦いの行方は陽を見るよりも明らかであり、新3部作で両腕を失ったダースベイダーは、実の息子の片腕を躊躇なく切り落とす。冷凍室から下層の回廊、更にクラウド・シティ中核へと場所を移した戦いの末に、右手を切り落とされたルークは、奈落の底へと落ちて行くのである。

オビ=ワンもマスター・ヨーダも、ルークの父親がアナキンだという事実を知りながら、あえてルークには秘密にしていた。その残酷な事実をルークに対し、ダースベイダーが告げる場面はシリーズ屈指の緊迫感を誇る。誰よりも憎んだ男が自分の父親だと知った時のルークのショックは計り知れない。片腕を失うこと以上のダメージがあったはずである。

今作において前半に登場した惑星ホスの雪に囲まれた惑星の造形は、『遊星よりの物体X』とともにその後のSF作品における凍てつく寒さの描写を決定付けたと言っても過言ではない。また早い段階で登場したAT-ATスノーウォーカー(全地域用装甲歩行機)の造形がその後の幾多のアニメ作品に影響を及ぼしたのかを考えれば、アーヴィン・カーシュナーの影響がわかる。彼はこの後も『ロボコップ2』や『007 サンダーボール作戦』をリメイクした『ネバーセイ・ネバーアゲイン』でショーン・コネリーを再びボンド役で召喚するなど職人監督としての人生を全うした。個人的には『スター・ウォーズ』シリーズにおいて今作を超える作品はないと断言する。

#アーヴィンカーシュナー #マークハミル #アレックギネス #キャリーフィッシャー #ハリソンフォード #スターウォーズ #帝国の逆襲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?