【第533回】『ゴジラ2000 ミレニアム』(大河原孝夫/1999)
北海道根室付近、海岸に大型アンテナを設置し、地震の波形データを取る父娘の姿。トヨタ・ナディアの車中では同行した雑誌『オーパーツ』の記者・一ノ瀬由紀(西田尚美)が決定的瞬間を収めるために、念入りにカメラを拭いている。トラックの中に設置された電波受信用のパソコンや観測用の機材の数々。篠田雄二(村田雄浩)と娘のイオ(鈴木麻由)は民間団体ゴジラ予知ネットワーク(GPN)を主宰し、ゴジラの研究に日夜励んでいる。やがて根室沖に現れたゴジラは発電所を破壊する。その姿を間近で見た篠田は、ターゲットは原発施設であり、ゴジラは人間の作り出したエネルギーを憎んでいるのではないかと疑念を抱く。何度も訪れたシャッター・チャンスをモノにしたはずの一ノ瀬のフィルムは、ゴジラの発する放射能にやられ激しく損傷し、まったく写っていない。一方その頃、茨城県鹿島灘沖の日本海溝では、強い磁力を帯びた岩塊が発見されていた。危機管理情報局(CCI)の宮坂四郎(阿部寛)は、すぐに捕獲へ乗り出すが、引き上げ作業中に自力で浮上を果たす。岩塊は数万年前のものだとされ、その内部には地球外生命体の反応が見られるのだった。
20世紀最後の『ゴジラ』シリーズとなった第23作目。再び第1作目以外のエピソードは全てリセットされ、ゴジラは文明がもたらした脅威として設定される。その肉体は背びれが鋭く描かれたギザギザな鋭角的デザインであり、より冷たさを増した印象を受ける。当初根室沖に上陸したゴジラは日本列島の回りを南下し、やがて茨城県東海村の原子力発電所を襲うために上陸する。東海村JCO臨界事故からまもない公開だった今作もやはり反原発のメタファーを孕んでいる。危機管理情報局は東海村付近に自衛隊を緊急配備し、ゴジラの上陸に備える。新兵器フルメタルミサイルは、厚さ10メートルの鉄筋コンクリートの壁を幾重にも貫通することが出来る殺傷能力を持つ。この新兵器はゴジラの動きを止める効果は見られたものの、息の根を止めるには至らない。絶望的な空気が漂う危機管理情報局内だったが、鹿島灘沖で発見された岩塊が突如飛来し、ゴジラに攻撃を始めるのである。映画はこのモンスターとは違う巨大UFOの扱いに苦慮し、岩塊と「オルガナイザーG1」との関連付けにもやたら時間を割いているのは否めない。フルCGで出来た巨大UFOが空を飛ぶ姿はゴジラ映画史上例を見ないシュールな光景であり、『オーパーツ』編集部が入ったシティタワー屋上(おそらく現在地から初台にある東京オペラシティと類推出来る)に一時的に居を構え、大気組成を変え始める。
ゴジラのみならず、UFOや宇宙人も登場するシュールな光景。「オルガナイザーG1」のもたついた説明の後、満を持してゴジラが新宿付近に再上陸する。だが肝心のゴジラの動きがどう考えてもトロい。シュールなCGのUFOの動き出しの遅さにも唖然としたが、ただ壊されるだけのミニチュア背景の書き込みのこだわりが、ゴジラにこのような鈍重な動きを要請したと思われるのだ。かつて大学で一緒だった危機管理情報局(CCI)の宮坂と篠田のゴジラへの見解を巡る対立、篠田のたった1人での日本社会への警鐘は、1954年のオリジナル版の山根博士(志村喬)の孤立を連想させる。国益に走る宮坂四郎の姿はまるで悪役のような描かれ方をしており、その冷徹さはビル爆破場面にも顕著に現れる。その一方で、今作に登場するメカニックや兵器の数々はあまりにも脆弱過ぎる。電源を切ってもコンセントを抜いても、画面が消えないパソコンのモチーフは、明らかに当時のトレンドだった『リング』シリーズにヒントを得ている。ハッキングされたパソコンは人間の手を離れ、その膨大なデータを抜き取られて、UFOのエネルギーとなる。その世紀末的モチーフは2000年問題をも彷彿とさせる。ラストのゴジラに魅せられた権力者の身の破滅は何を意味するのか?主人公の口から発せられた警告の言葉も観客の胸には響いてこない。ローランド・エメリッヒ版の『GODZILLA』に怒りを感じた日本スタッフのシリーズへの愛情と熱意は十分に感じられるものの、昭和シリーズには遠く及ばない。