OKRA大戦2022〜ガンボvsスムージーvs納豆〜
わが街には、慈善団体が運営する、オーガニックのコミュニティ・ファームがある。
そこでこの夏、毎週ごとに繰り広げられているのが「OKRA大戦」だ。
「OKRA」とは「オクラ」。
日本人にはおなじみの夏野菜、「オクラ」だ。英語でも「Okra」という。
日本のものはシュッとしていて緑の色が濃く、種が小さいが、アメリカのものはプクッと太くて色が薄く、種が大きい。
この記事の冒頭に貼ったのが、アメリカのオクラだ。
インド系のマーケットで売っている「デシ・オクラ(デシ=緑)」が、日本のものに近いと思う。
畑への植え付けの関係で生りの数に限りがある「オクラ」をめぐり、毎週ごとのマーケットでは、購入者の間で仁義なきバトル「OKRA大戦」が勃発している。
MacbookPro15インチほどの幅のトレイに並べられた数ある「オクラ」をめぐり、熾烈な闘いが繰り広げられているのだ。
参加者はこの3チーム。
1.ガンボ・ママ
アフリカン・アメリカンと思われる老婦人であるママは、ガンボに「オクラ」を加えるべく、できるだけ大きくて数多くの「オクラ」を求める。
体力がないためか日陰に座って開店を待つが、欲しい物への無茶振りはかなり濃い。
2.ミズ・IKEA
IKEAの青い巨大なエコバッグ(店内で使われているアレ)持参で現れ、ちょっと頭がオカシイんじゃないかという量の野菜を買う、アジア系の女。
わたしは意図せず、偶然に地元のマイクロ・ブリュワリーで旦那さまとおぼしき男性とデートしているかの女を見たことがあるが、お相手と本人の容姿からしてもおそらくは「毎朝、スムージーを飲んでいる」タイプ。
流暢な英語と服装からして、チャイニーズ・アメリカンと推察する。
3.チーム・いなわら
ふたつの双眸と4本の腕を持ち「いつもなんか変なものを買っていくアジア人ふたり組」である、われら。
前日に販売リストを熟読して各人の分担を決め、ファームスタンドの開店30分前に現れる。
計画的にめぼしいものをすべて刈り取るどころか、ないものはスタッフに「あるなら出せ」と迫って畑からとってこさせるパワー・チーム。
とある夏の昼前。
マーケットの開店日30分前に出会い、「ハーイ」と挨拶するミズ・IKEAとわたしたち。
そう、わたしたちは毎週のマーケットで顔を合わせるうちにお互いを認識し、軽い挨拶を交わすくらいには親交がある。
だが、お互いに「この女(こいつら)、今日も来やがった」…くらいの意識なのは間違いないだろう。
その様を自慢のショッピング・カート(座れる仕様になっている)に座ったまま、木陰から黙して見つめるガンボ・ママ。
マーケットの会場にはざっくりとテントが二張くらい張られていて、そこの端をぐるっと囲むようにテーブルが作られている(真ん中にスタッフが入る「□」みたいなイメージ)。
開店となり、チーム・いなわらは前日に配信されたメルマガのリストを元に、欲しい物を召し上げる。
ミズ・IKEAは頭がオカシイとしか思えない量の葉物とフルーツをエコバッグに詰め込んでいく。
そして。
ぁあ、ミスった、オクラがそんな遠くにあったとは!
どこかな〜、とかのんびりしてる場合じゃなかったよ、チーム・いなわら!
すでにミズ・IKEAが小さめで美味しそうなオクラをガンガン袋に入れており、全体の2/3もさらってしまった。
…って、おい、おまえには「あとの人のために残そう」とか「少しは譲ろう」って氣持ちはないのかい!!IKEAは無慈悲なマーケットの女王なのかい!!!!
IKEAがオクラを選んでいる間、礼儀的に横から手を出すことができなかった支配人はイライラしつつIKEAの手がトレイから離れるのを待ち、手が離れた瞬間にサクサクと「まぁいいでしょう」というクラスのオクラを選んだ。
残りはチーム・いなわら的には「デカくてかたいからイマイチ」とされるものが2本。
「オクラはどこ?」と言っていたガンボ・ママのために、ちょっと残したのだ。
そこへやってきたガンボ・ママは、オクラの数が少ないのを見て「ねぇ、もうオクラはないの?」とスタッフに切り出した。
足りなければ畑からとってこい、を知っている常連ならではのわがままだ。
しかしスタッフは「今なってるのは、まだ小さいから収穫できないのよ、来週まで待って」と素っ氣なく返した。
ガンボ・ママは呆れ顔で「それじゃぁ、いらないわ」と。
かくして、大きなオクラ2本は陳列から外され、レジの横に置かれた。
そんな様子では、はためには誰かがキープしているようにも見えるから、売り物かどうかもわからない。
どうなる、どうする、このオクラちゃんたち。
しかし、チーム・いなわらも、必要な量は確保したので、その子たちを連れて帰るのはちょっと「多いかな」…と、戸惑っていた。
頭がオカシイとしか思えない量の野菜たちを会計したIKEAのあと、スタッフに愛想よく会計を頼んだチーム・いなわら。
毎週いつも買っているので、スタッフとも顔なじみなのだ。
そこで、わたしたちがオクラを買っているのを見たファームの主は「ぁ、これもあげるよ」と、レジの横に寂しく並んでいた2本のオクラをくれた。
「ぇつ、いいの?」
「うん、これだけ残っててもしょうがないから、食べて?」
「じゃ、それも買うから、量ってくれたらいいよ?(オクラは量り売り)」
「ぁあ、いいよ、いつも買ってくれてるからね、あげるよ!」
なんと、ガンボ・ママのわがままのおかげで、チーム・いなわらはありがたいおすそ分けに預かった。
チーム・いなわらは、小さなフードプロセッサーで茹でオクラを「納豆」にして麺やごはんにのせ、ズルズルっといただくことがほとんど。
オクラがちょっとばかり大きくてかたくても、実は問題ない。
しかも、基本的に茹でてからいただくので「余剰は冷凍しておけばいい」ということにも氣がついた。
ぁ、そうか、その手があったか。
今も、わが家の冷凍庫にはその大きなオクラたちが出番を待って眠っている。
来週あたり、オクラ納豆にして食べようと思う。
そして、今週もまた、やつらとの「オクラ大戦」が開幕する。
ガンボ・ママとIKEAには、負けない。
だって、オクラは美味しいから。
腸内環境の改善にも、あのトロミが役立つんだよ。