「わたしは非正規公務員」 映画にあふれた当事者の声
「会計年度任用職員」。それは単年度更新と公募制度の組み合わせによる公務員の不安定な雇用を意味する。そのうちの一人、非正規公務員の女性が製作した短編映画「わたしは非正規公務員」の上映会が7日夜、参議院議員会館であった。国会議員を含む約200人(うち100人はオンライン)が参加し、当事者の声に耳を傾けた。
映画は7月に都内であったレイバー映画祭に出品された20分間の作品。製作したのは地方の労働局で約10年間、ハローワークの相談員を務めている女性だ。
実名で非正規公務員の待遇改善を訴えたことから、職場で孤立し、雇い止めが迫っているという。
ハラスメントとも表裏一体
「子どもが2人いて、1人は今年入院し、莫大な医療費がかかっている。ちょうどその時期にクビになるのを目前に控えて、今後どうやって生活していこうかとか、親の介護をどうしようかとか、不安定な状況です」
非正規公務員の約8割が女性。公募制度でも、女性が雇い止めになることが多い。仕事の質や熱意、市民対応の善し悪しで評価されず、単に1年経ったから後任を公募する、という形で職を追われる。
ハラスメントとも表裏一体だ。労働相談員として、ハラスメントを受けた人が雇い止めになるケースを多く見てきた。自身も2018年の同僚の雇い止めをきっかけに実名で声を上げた。その後、仕事中すれ違いざまに「うちに居たいなら黙っていろ」「辞めろ」「テロリスト」と言われたり、市民対応中に聞こえるような声で指を差されて陰口を言われたり、といったハラスメントを受けたという。
「ハラスメントがあると思考能力が低下し、目の前のいじめのことだけで頭がいっぱいになります」
来春の採用に向け、職員の公募が始まった。ハラスメントの後なので、雇い止めになる不安はことさら強いという。
「公務は社会の窓口」
女性は就職氷河期世代。上の世代のように常勤、終身雇用で「普通に働く」ということが難しいとずっと感じてきた。ハローワークで相談を受け始め、格差や貧困や差別がより鮮明に見えるようになった。仕事で受けたハラスメントから自己肯定感が下がり、精神疾患に至る人もいる。
「公務の窓口は社会の窓。自己責任感でいっぱいになっている彼らの心に、あなたのせいじゃないといつも伝え続けている」と話す。
クビになる恐怖と、仕事への責任感や使命感という相矛盾する思いがない交ぜになった生活の中で、とても輝いて見えたのが同じ非正規公務員の女性たちが集うオープンチャットの会話だった。本音を書いて、読んで、また書いて。
「職場で苦しいと思っていること、市民への使命感などすべてが同じだった。その言葉たちが宝石みたいにキラキラ輝いていた。それを映画にしたいと思った」と製作の動機を語った。
「教員不足なぜ? 非正規教員を大事にしないからです」
映画には6人の非正規公務員が登場する。
◇学童保育指導員のみゆさん
「なんでこんなにヘトヘトになるまで働いて最低賃金なんだろう?『自分で選んだんでしょ?』と言われるけど、選んだんじゃない。非正規の職にしか就けなかった」
◇生活保護相談員のまきさん
「経験のない上司が来ると、先入観で対応を決めてしまうことがある。私のように、専門的な知識を持っているケースワーカーは腫れ物扱い。職場では挨拶もなく、情報共有もされない」
◇公立中学校相談員のゆりさん
「生徒ばかりでなく、保護者の相談に乗ることも多い。うまく解決できると良かった、と思う。2020年度から会計年度任用職員となり期末手当がもらえるようになった。その分、時給や勤務時間を減らされ、収入は増えなかった」
◇アイヌ生活相談員の八重樫さん
「アイヌ生活相談員は、和人には相談しにくいことを聞くのが仕事。子どもたちには学校でのいじめや差別もある。親身になって相談に乗っているが、職場では非正規職員へのパワハラがある。相談員は奴隷ではない」
◇非正規教員のゆうさん
「一生懸命努力しても、毎年教員採用試験で落とされる。正規教員と同じように授業や学校行事の中核を担っているのに。採用の枠がないんです。二次試験に7回落ちた友人は『なぜ、あなたが受からないんだと思う?』と質問された。こっちが聞きたいです。私たちには退職金も育休も病休も介護休もない。教員不足は非正規教員の不足の問題。なぜ、不足するか? 大事にしてないからです」
◇ハローワーク相談員のはなさん
「職場で無視され、質問すると怒鳴られました。経験不足だから公募には受からないよ、と言われて翌年の応募をやめました。でも、後任は未経験者でした。シングルマザーだと知られ、興味本位の質問をされたり、上司からセクハラにあったりしました」
公務員の非常勤、15年で1.5倍の約70万人に
上映後、労働問題に詳しいジャーナリストの竹信三恵子さんが「非正規公務員問題とは何か」について解説した。
「この映画は非正規公務員当事者が出演、製作しているということが画期的。なぜなら、非正規公務員は顔が出てしまうとすぐに仕事を失う危険性があるから。1年間の短期契約で、次の公募に応募しなければ自動的に仕事から追い出される。そこに構造的な問題があります」
2020年度の総務省調査によると、地方公務員の臨時・非常勤職員は69・4万人。2005年の45万人から、1・5倍に増えた。任用期間が6ヶ月未満や勤務時間が週19・5時間未満の43・1万人を算入すると110万人超が非正規公務員として働いていることになる。
その臨時・非常勤職員の約9割が会計年度任用職員だ。内訳をみると、88・8%がパートタイムに位置づけられ、女性の割合も76・6%と高い。職種別では「一般事務職員」が3割を占めるが、その多くが相談員や窓口業務だ。
低い待遇を合理化する女性差別
竹信さんは、「会計年度任用職員とは、低い処遇を合理化する女性差別といえる」と指摘した。
竹信さんによると、国民の処遇を決定する「権力的な公務」に対し、住民の支援や相談は「周縁的な公務」として、人件費抑制のターゲットにされた。
「低い処遇は会計年度任用で固定化され、単年度更新だと不服申立もままならない。嫌ならやめなさい、とハラスメントが横行する。弱い住民の世話を弱い非正規公務員にやらせているのが実情です。住民サービスの向上のためにも、私たちの公務員観を変えていく必要がある」
集会を主催した「非正規公務員voices」は、署名活動やアンケート調査を実施し、非正規公務員の「公募制度」や「1年雇用」の廃止、処遇の改善を訴えている。
(阿久沢悦子)