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KJ 法とは何か?

閃きを観測するメモ帳

メモする習慣がある。習慣と言うより、自分で思いついたことはなんでもメモをするように癖をつけている。

というのも、閃きを集めたいからだ。

「閃き」というものの正体は、字から連想されるように、線である。

「発見」というものは、たいていまったく突然にやってくるものである。毎日みなれていた平凡な事物が、そのときには、ふいに新しい意味をもって、わたしたちのまえにあらわれてくるのである。たとえば宇宙線のような、天体のどこかからふりそそいでくる目にみえない粒子のひとつが、わたしにあたって、脳を貫通すると、そのときひとつの「発見」がうまれるのだ、というふうに、わたしは感じている。

梅棹忠夫『知的生産の技術』

梅棹はこのことを説明するために、ウィルソンの霧箱を引き合いに出している。つづきを引用しよう。

宇宙線は目にみえない。目にみえない宇宙線を観測し、記録するためには、それを目にみえるかたちでとらえる装置が必要である。「ウィルソンの霧箱」とよばれる装置は、それである。

宇宙線は、天空のどこかから、たえず地球上にふりそそいでいて、だれの大脳をも貫通しているはずだ。したがって、「発見」はだれにでもおこっているはずである。それはしかし、瞬間的にきえてしまうものだ。そのまま、きえるにまかせるか、あるいはそれをとらえて、自分の思想の素材にまでそだてあげるかは、そのひとが「ウィルソンの霧箱」のような装置をもっているかどうかにかかっている。「発見の手帳」は、まさにそのウィルソンの霧箱なのである。

ウィルソンの霧箱の実験を見てみたい人は、でんじろう先生の動画がオススメだ。

『知的生産の技術』を読んでから、メモ帳はウィルソンの霧箱だと思っている。閃きを観測し、データ化するのだ。

いつも宇宙からは閃きと言うプレゼントが送られている。それを受け取るための装置を、私は常に携帯している。

いろいろな組み合わせを試す

しかし、メモをするだけでは何にもならない。

大事なのは活用だ。

私はよく、観測した閃きをラベルに移して、テーブルの上でああでもないこうでもないと、いろいろな組み合わせを模索している。

ラベルで愛用しているのはニチバンのマイタックラベル 9 号だ。

これにデータを書き写す。そしてハサミで切り離して 1 枚ずつのバラにして、机上にならべるわけだ。

私は KJ 法の実践者なので、並べた後にラベルの統合作業を行う。ラベルの抽象性が高まるにつれ、データが一つの相に収斂されていく。

その様子を体験するには、川喜田二郎『KJ法 渾沌をして語らしめる』を読んで実践するのがいいだろう。

ただこの本は絶版で、買おうとすると 1 万円近くするので購入のハードルは高いだろう。

きっと誰も買わないだろうなあ。

ともかく、この本を買って日々 KJ 法的に物事を考えている私から言わせてもらうと、KJ 法というのはデータをラベルに移し、全部のラベルの配置、その組み合わせを探る営みなのだ。少なくともこのことは、言っても間違いではないと思う。

本当は正則の手順や注意があるのだが、「なんちゃって KJ 法」でも、それがデータを俎上に載せ、いろいろな組み合わせを試す営みであれば、それなりの成果は上げるのだろう。

すなおな情報処理の果て

正しい手順に従ってデータを集め、いろいろな組み合わせを試してみる。その結果できるのは、KJ 法的にいうと A 型図解と呼ばれるものである。

KJ 法には A 型図解化と B 型叙述化という手順があって、とにかく、一つの相にまとまった図解(A 型図解)を一連の文章(B 型叙述)に起こしていく。

つまり、KJ 法の実践後に出来上がるのは一つの文章なのだ。

こう言ってしまうとなんともあっけない。それなら ChatGPT に任せてしまった方がいいと、思われるかもしれない。

しかし ChatGPT にはない KJ 法のよさがあるのだと私は考える。

それは「啓発」だ。

ChatGPT だとプロンプトを書いたっきり、データを処理するのは全部相手任せになる。データプロセッシングから私たちは締め出される。

一方、KJ 法だと、まさにそのデータ処理をガラス張りに、無理なく行っていくので、抽象性および啓発性を備えた文章ができるし、さらに、その文章を組み立てた自分自身の成長が文章の生成と同時に起こる。

いわば、山頂にヘリコプターで行くのが ChatGPT で、自分の足で登っていくのが KJ 法である、というのが適切だろうか。

ごくすなおにデータと向き合い、その声を聞き届け、組み上げてゆく。

その果てには、作業前とは違う言葉の組み合わせがあり、その組み合わせが一連の文章として、改めて線形になって立ち現れる。

組み合わせが変わるということは、私たちの思想の組成が変わることを意味する。

それだけの力が KJ 法にはあるらしいのだ。


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