ヒトラーと呼ばれたマネジャーは対話という奇跡体験で人生を変えた〜第三章〜
Episode 10 マネジャーになって経験した地獄「あの~お時間いいですか?」
店を繁盛店にして、自由な時間と給与の増額を目論みつつも、以前とは一変し"ゆる~い毎日"を送っていたある日、またまた代表から信じられない言葉を聞いた。
(代表)「淳之介の給与、今は増やせないよ」
(ボク)「えっ?うちの店舗順調ですよ。利益は出ていますよね?」
(代表)「いま、他の店の業績が良くないから給与増額はムリ」
(ボク)「えっ??うちって独立採算制ですよね?」
(代表)「同じ釜の中でお金は循環しているんだから、お前の店だけうまくいっても会社としてはどうしよもないだろ。そんなこと、考えたらわかるだろ」
もう、この時は何も考えられなくなった。汚い言葉すら心のなかに浮かんでこなかった。
「独立採算制ってなんやったんや❓」
落ち込むのもダルい。この話をされた翌日、ボクは代表に「マネジャー」になると伝えにいった。店長をしていたんではボクの自由は永遠にこない。そう感じたからだ。
「ボクがマネジャーになって全体を見る」という話はあっさり承諾された。
そしてボクはこの時、給与を大幅に減らした。
その理由は、ボクに「マネジメント一年生」という思いがった。一年生は何もできない。何もできない人間がお金をもらうのは違う。だから、また真剣に仕事する。
こう考えたから。しかし、給与を減らすかわりにボクは時間の自由だけは確保した。マネジャーになったボクは「店長のときにうまくいった方法を、他の店でもコピペしたらいいや」と軽く考えていた。
軽く考えているようなことが、うまくいくことなんて世の中にほとんどない。
もう、強制するのはやめていたから、やるべきことをスタッフに一応は優しい伝え方で説明する。
すると気だるそうな態度をとられたり、反発されたりする。店長をしていた時には起こるはずの無かったことが、当然のようにボクの身に降り掛かってくる。
「これはヤバい」と感じ、封印していた強制力を開放した結果、ボクはいよいよ陰でヒトラーと呼ばれるようになった。
そして毎月のように、時には毎週「あの~お時間いいですか?」と言われる始末。
「あの~お時間いいですか?」という部下からの声は管理職をしている人間なら、誰もが背中に寒気を感じたことのあるフレーズだと思う。
優しくしていても、タルんだ空気になるだけで売り上げは伸びない。またそんな空気では有能な人間から去っていく。
逆に強制力を発揮すれば「田口さんのやり方とは合わない」「田口さんが嫌いだから」と辞めていく。
何をしても人がどんどん辞めていく。ボクはすっかり人間不信になっていった。そしてバカで弱かったボクは、他人に責任転嫁していった。
「そもそも、自分がこんなに苦しい想いをしているのは、これまでちゃんと教育していなかった先輩や上司が悪い。いや、それより最大の悪の権化はあの代表だ」といった感じで、他人のせいにばっかりしていたんだ。
Episode11 河原で歩く虚ろな目 ~人間関係の仕組みと対話を覚える~
他人のせいにしてばかりいるような奴が、うまくいっているのを見たことがあるだろうか?
決して無いだろう。
当時のボクがまさにそいつだ。人が辞めていくことに怯えまくってまともに部下と話すことすらできなくなっていった。決定的な原因は店長時と違い、戦略を実行させられなかったこと。
戦略が機能しなければ、売上はあがらない。
「もう、誰にも会いたくない」
本気でこう思っていた。
この時の心境を言葉にするなら、「イジメられている」だ。
店長時は加害者だったが、マネジャーになってからは常に被害者意識に取り憑かれていた。
完全に心がバグっていたボクは、家庭にも悪影響を与えていた。そのため、自宅近くにアパートを借りられた。そこでひとり昼夜逆転の生活を送るようになる。
昼間は河原を歩きながらひたすら自分を責める。
流れる川を橋の上から見ていたら、「いっそ飛び込んだ方が楽になるかな」なんて思いが頭の中をぐるぐるまわる。
夜は、死にたくなった気分の反動で「なんで、オレが死ななきゃいけなんいだ!悪いのはあいつらだ」と無意味に腹を立てながら、暗いアパートの中で当時流行りだしたweb集客の方法を模索していた。
ボクはこの期に及んで、何とか自分の存在価値を証明したかった。
スタッフは誰一人としていうことを聞かない。話を聞かないどころか、死ぬほど嫌われている。
けど、もしコストをかけずに集客できたら売上も利益もあがるわけで。
Web集客に未来を見ていたボクは、アメブロのカスタム費用の見積もりを業者に依頼した。
その見積もりはスタッフ全員分で60万円となっていた。
ボクはこの話を代表にするのも嫌だった。(どうせ言われることはわかっている)
それに自分自身もコストをかけるのが嫌だったから、独学でアメブロをカスタムしスタッフ全員分の発信媒体をつくった。
けど、完成しても誰も喜ばなかった。むしろ、みんな嫌そうだった。
「もう、何もかもが嫌だ」
新しいことを提案するのも、会社を良くしていこうと思うのも、生きているのも、本当に何もかもが嫌になった。「なんでオレがこんな目にあわなきゃいけないんだ」
ボクはすべてのことから逃げ出したかった。
というか逃げていた。
うまくいかないことを、目に映るすべての人のせいにした。そして、最後に残ったのは、鏡に写った自分だけだった。
もう、ここまでくると、原因は自分にあると認めるしか残された道はない。
完全に自分が間違えていることを、認め受け入れることにした。
他人のせいにするのはやめよう
自分の責任としてモノゴトを見てみよう
どんな自己啓発本にも書いてあるようなベタなことだけど、これをするのが一番怖かった。
けど「自分の責任でモノゴトを見る」と決めてみると、こんな発見があった。
「ボクは一緒に働く仲間との人間関係が構築できていない。そして、その人間関係を構築し、ビジネスを発展させるためのコミュニケーションの方法を知らない」
気がついたら、すぐに行動できるのがボクの唯一の取り柄かもしれない。
発見から約4年かけて「人間関係」と「対話」について学習し、自分自身に向き合い続けた。
ミーティング中に「帰りたい人は帰っていいですよ。強制じゃないので」と言ったら、スタッフが帰宅しだすなんて一度や二度じゃない。
対話できるようになってきたと思ったら、「辞めたい」と言われて、眠れない夜を何度も過ごした。
何度も何度も「対話」を学ぶことを諦めかけたし、その実践に苦悩してきた。
けど、粘り強く自分自身と、そして部下と対話していくと、最初は自分の思いをまったく話せなかった部下も、少しずつ自分の思いを話してくれるようになった。
そして、いろんな取り組みに積極的に参加してくれるようにもなった。たとえば、経営合宿なんかもそうだった。
最初は、強制的におこなっていた合宿。けど、対話を深めるごとに事前準備をしっかり行い、全員が取組みを発表するスタイルができあがった。その結果、経営合宿は普段の営業でお互いサポートし合うときの基盤となっていった。
夜の宴会では、今までボクが封印していた笑顔が「これでもかっ!」というくらい溢れるようにもなっていた。
また、マネジャー就任当時は人が辞めまくっていたのに、気がついたら新人の離職率は4年間で0%にもなっていた。
離職率を減らしたかったんじゃない。お互いに理解し合える関係性をつくることに必死だった。
その結果が離職率4年間0%だったんだ。
Episode12 対話はチームを、そして未来をつくる
26歳の終わりごろ店長なって、31歳の終わりごろにボクは美容師を卒業した。
悲しいこと、悔しいこと、怒れること、嬉しいこと。本当にたくさんの経験をさせてもらった。
この当時、ボクが何を理解していなかったのか?
こう自問していくと、理解していたことより断然「わかっていないこと」の方が多かった。
わかっていないというより、むしろ何も知らなかったと言える。
そして、この時期ボクが知る必要のあったことが「チームマネジメント」でありそのチームマネジメントを機能させるための「対話」だった。
さらに言えば「リーダーシップ」の発揮だった。
いや、あの当時は死ぬほどムカついたけど、振り返ればボクを動機づけたデキゴトはすべて完璧だった。
ボクみたいな人間は机の上でジッと勉強するわけがない。
そして、心を突き動かされなくては行動しない。
今よりももっと未熟だった20代のボクに火がつく動機、それは「怒り」くらいのものだったと思う。
しかし、ボクはもう怒りを動機にする必要はない。
なぜなら、今のボクには対話があるから。
自分の想いをしっかり伝える術を知っている。
相手の想いを汲み取るために、自分が何をすべきかを知っている。
もちろん「わかりあえる」なんてことは、それじたい奇跡みたいなものなんだけど。その奇跡を信じる心を手に入れられたことは大きな財産になった。
そして何よりもボクを成長させた体験は対話には、奇跡を起こす力があることを教えてくれた。
現在では全国の経営者・ビジネスパーソンが抱えている次のような課題の解決に一緒に取り組んでいる。
☑指示命令以外の伝え方ができない
☑同族経営に悩んでいる
☑部下がいうことを聞かないことにストレスを感じている
☑離職率が多くて困っている
☑チームマネジメントの基本を理解したい
☑対話できる組織にしていきたい
☑リーダーシップを発揮していきたい
☑職場の人間関係を理想の状態にしたい
☑人材育成をしていきたい
もう読者にはバレていると思う。これらの課題は、当時のボクが死ぬほど悩みまくっていた課題そのもの。
こんな課題をチャンスに変え、お店や会社を絶対良くする!
未来に想いを馳せる経営層に、リーダーシッププログラムという研修やパーソナルセッションを提供している。
これらのサービスは、現場でのボクの失敗経験が生み出したプログラム。
ボクの夢はこのプログラムを通して、経営者や幹部が。そして日本中のビジネスパーソンが対話を通して、今よりさらに楽しく仕事ができる世界をつくること。
「いや、そんなの無理だ!」
「大人のクセに甘いこというなよ!」
そう思う人もいるだろう。
どんな風に思われてもボクの夢は揺るがない。
別に同じ職場の人間と仲良くなる必要はないかもしれない。
友達ではないから。
ましてや血の繋がっていない人間を「家族」と呼ぶ必要もないだろう。
けど、仲間ではある。
仲間に信頼関係が必要なのは、誰にでもわかることだ。
「一緒に働く仲間と、対話を通してビジネスを発展させていく」そんな想いのあるクライアントをサポートすることに情熱を感じている。
そして、この情熱が静かに燃え続けているボクの心には、この言葉が刻まれている。
"半径(r)5メートル"を対話のある世界に
最後に。
許さないと決めて、ここでは言えないような喧嘩を何度も繰り返した当時の代表であり生涯のメンターとのその後を。
完