心理系大学院予備校選び③(日本編入学院編)
社会人の院試を推奨する予備校
「お年を召した方の受験は厳しい」という、問い合わせたファイブアカデミーからの回答にがっかりした私が見つけたのが日本編入学院である。名前も聞いたことなく、風変わりな院名だったが、この学院長の「学び直しはいつからでもできる」という姿勢に共感した。ファイブアカデミーの回答にやる気を削がれていた私は、我が意を得たり、と嬉しくなった。さらに
という言葉は私の根底を覆した。
「そうだ、臨床心理士を目指そう。」
この歳で臨床心理学を深く学ぶことにした動機(別稿予定)に立ち返り、公認心理師を目指すことはやめ、心理系大学院受験のために、編入学院に通うことにした。
ちなみに、ネットで検索しても、ここの予備校の評判は目にしたことがない。入学を検討している方は、下記の情報を参考にしていただければ幸いである。
「持ちコマ数」消費による受講スタイル
入試まで約1年あったので、心理学初学者であり、40年ぶりの受験勉強にもなるので、とにかくとことんコミットしようとフルパッケージのS特別コースにした。この「160コマ」とは160回(1講義が基本1コマ)授業を10ヶ月間受けられる、ということ。入学相談時の塾長によれば、このコマ数であれば、基礎心理学は3ヶ月、臨床心理学は6ヶ月と心理英語、残りは過去問と研究計画書を個別講座(講師と1on1。3コマ消費)で万全、という触れ込みだった。テキストは河合塾のようなオリジナルではなく、基礎心理と臨床心理については、
「心理学」第5版補訂版(東京大学出版会)
よくわかる臨床心理学(ミネルヴァ書房)
をメインで使用した。心理英語は講師が参加者からジャンルの要望を聞きながら、いくつかの論文の中から選んで訳していくやり方だった。
少人数で講師や生徒との距離は近い
校舎は渋谷の青山学院の裏の雑居ビルの小さな会議室、という感じ。部屋には島型テーブルで8人くらいの座席。少人数で先生との距離が近く、気軽に質問もできる。授業は対面と同時にZOOMによるオンライン受講とのハイブリッド。教室に行かなくてもオンラインでの受講がいつでもできるし、レコーディングもできるので、後で好きなときに見ることもできる。教室に来る顔ぶれには社会人が多く、40代以上も多い印象。人数が少ないので、対話も多く、仲良くなったメンバーとはお茶やランチをして情報交換ができた。
講師は心理学、心理英語とも同じT先生から学んだ。おっとりした感じのT先生の講義は、基本的に参考書を読んで進めていきながら、周辺情報や知識を加えてわかりやすく説明してくれる。心理初学者の私でも、参考書の内容が頭に入りやすく、心理学全体の理解が進んだ。
過去問もかなり充実している。ほとんどの心理系大学院の過去問が、大学院ごとに古くは10年分くらいがファイルに綴じられており、それを自由(無料)にコピーできる。
編入学院の落とし穴
さて、ここまで読むとかなり興味を持たれる方も多いと思うが、これまでのいい点を覆すような落とし穴もある。冒頭にS特別コースというフルパッケージを申込み、欠席することなく授業に出ていた私は、結果として、臨床心理学の講義が全部終わらないまま受験を迎えることになった。また心理学初学者にとっての鬼門である「統計学」についても、授業でまったく触れられることがなかった。
つまり、1年受講しても院試の試験範囲を網羅してもらえなかった、ということだ。文書的に契約事項として残していないのでその責任は問われないが、もともと6ヶ月くらいで終わると聞いて入学した受講生の中には「詐欺まがい」と不満を述べるものもいた。網羅できない部分は、結局個別指導で3倍のコマ数を消費して学ばざるを得なかった。
また過去問の在庫は良いが、授業で過去問を解いたり、添削してもらう機会はない。過去問の相談も個別指導しかなく、また添削はしてもらえず、その場でのフィードバックしかない。
学院には随時入学できるが、裏を返せば、いつ受験をするかはまったく考慮されない。日々同じペースで参考書を読み進めるだけなので、1年後に受験する新入生と、来月受験をする人が同じ授業を受けているという状況があった。授業は火曜の15時以降と金曜の午前、日曜しかなく、それ以外の時間が合わなければ、個別指導しかない。T講師以外の先生の授業は私には合わず、受けられる曜日が限られて日程調整に苦心した。知り合いの社会人女性は、受けたい講師の日程が合わないので、ほとんどの授業を個別指導にせざるを得ず、学ぶ量が極端に限られてしまった、と嘆いていた。
日本編入学院のお薦め度は
約1年間通った結果として私は合格こそしたが、この予備校以外にも投資をして学んだことの多さを考えると、正直かなり不満が残った。私の主観評価は以下の通りである。
【○】
・少人数制
8人も入れば一杯になるようなこぢんまりした部屋での授業で、講師との距離も近く質問もしやすいし、生徒同士のコミュニケーションもある。社会人も多く、受験仲間の友人もできた。
・過去問充実度
私の知る限り河合塾KALSよりも充実していた。コピーし放題もありがたい。ただここ数年のものがない大学院もあり、アップデートは遅かった。
【△】
・心理学の講義のわかりやすさ
特にT講師については、基礎心理学・臨床心理学全般を単なる受験対策に必要な血の通わない言葉の羅列ではなく、興味深い学問と感じさせてくれたところはよかった。ただ、他の講師にはそこまでの魅力は感じなかった。
・欠席やオンライン対応
教室でもオンラインでも自由に受講でき、レコーディングできることは嬉しい。事前に連絡して欠席すればコマ消費にはならないが、休んだ授業については動画がないため、わからない。
【▲】
・過去問添削
自分が教えて欲しい過去問の答えは、個別相談時に教えてもらう形のみ。添削はしてくれないし、事前に過去問を渡しても解いてきてくれなかった。
・心理英語
講師が選んだヒルガードよりも難しい論文を教材に読むのはいい経験になった。ただ、授業は事前に読んできたものを生徒が1文ずつ訳し、講師が訳しなおすだけ。文法的な説明はなかった。予備校の授業と言うより勉強会のイメージ。
・合格者の体験記閲覧
合格者の体験記はあるが、年度の記載はなく、いつの合格者かは不明。合格状況も公表されない。
・受講環境
場所は渋谷と表参道からそれぞれ徒歩10分程度。部屋が古いのはまだしも、年中周りのビルで工事をしていてうるさい。
少人数制をウリにしているが、クラスごとの人数制限をかけていないため、ある授業ではクラスに来ても、部屋に入れない生徒がいた。
【×】
・受講費用
S特別コース(160コマ)で¥76万、と予備校の中でも最高値。Aコースで¥56万、Bコースで¥40万。受講プログラムや講師数、受講可能時間が限られる割に他校より高額。
・講義の網羅性
入学してから受験までにいつなにをやるのか、やればいいのかがまったくわからないし、教えてもらえない。私の期の場合、1年で臨床心理学の参考書が終わらず。統計には最後まで触れなかったので、自学をせざるを得なかった。
・アウトプット機会
何もなかった。
・志望校や受験に関する相談
個別指導でチケットを消費して講師に相談するしか方法がない。これを不満として編入してくる受講生がいる、と河合塾チューターから聞いた。院長に勉強法を尋ねたら、合格体験記を読んでくれ、と言われた。
・講師のプロフィール
すべての講師の名前や経歴、心理職資格の有無など一切不明であった。
【追記】(2023/2/16)
この投稿をして以降、受講経験者から「入学までの熱心さと打って変わって、入学後はネグレクト状態。個別指導とは名ばかりの杜撰な対応」という声が数々寄せられている。
【注】上記の情報は2023年1月時点での個人的評価なので、事実と異なる場合はご容赦ください。最新状況は直接お問い合わせの上、ご自身でご確認、ご判断ください。