研究室訪問で問われた「覚悟」
研究室訪問はできるところばかりではない
研究指導を受けたい教授の研究室に事前に訪問する「研究室訪問」について、心理系大学院の場合にはいくつかのタイプがある。出願にあたり、事前の研究室訪問を必須にする大学院、訪問してもいいという大学院、訪問は受けつけない大学院、と分かれる。
私が志望した大学院については、出願時に希望する指導教授を指名できない大学が多かった。理由をある大学院に聞くと、特定の教授に応募人数が偏ってしまうことを避けるため、研究計画書の内容と入学後の希望から大学院側で振り分けるため、ということだった。研究室訪問は、大学のHPに教授のアドレスが開示されているところもあれば、事務室に申し込むとこもある。
私の場合、ある大学院には相談会が終わってしまい、情報が取れなかったので、教授とオンラインで話しをすることを事務室に申し込んだ。またある教授には、直接研究室訪問を申し込んだのが試験日2ヶ月前だったので、「試験の公平を期すために」という理由で断られた。
研究室訪問が出願要件になるか、教授に事前に訪問できるかは、大学院のHPに書いているところもあるが、出願書類を読むのが一番正確である。ただ、試験のある年度の出願書類は入試数ヶ月前にならないと公開されないので、公開されている前年度の書類を見て確認するのも手だ。
B教授からアポメールで問われた本気度
ここでは、出願に研究室訪問が必須なある大学院でのできごとをご紹介したい。
私は、関心をもっていた論文を書かれたB教授が、別大学院から今年赴任されたことを大学院のHPで知った。この大学院は、出願には事前に研究室訪問が必要であったため、大学院の事務室に申し込んだ。すると、B教授自身から下記の質問があった(実際にいただいたメールの趣旨をご紹介する)
これに対して返信したところ、B教授から返信があった。
社会人として、特に私の年齢で大学院を目指すにあたっての「本気度」や「覚悟」を確認する内容と捉えた。私自身は昼の仕事を辞めてまで院試にかけていたので、無論そうした覚悟はあった。ただ、この教授の大学院での研究というものへの想いを感じるメールだった。
B教授との面談後に感じたためらい
当日、B教授はにこやかに出迎えてくれ、応接室に通された。教授の面接サインが出願書類に必要なため、研究計画書や履歴書などの出願書類ごと持参した。その大学院では、郵送でなく窓口持参でも受付してくれる。B教授は
履歴書や研究計画書に目を通しながら、私が大学院で学ぼうとしていることやその動機、現状の仕事との結びつきなどを尋ねてきた。逆にB教授が師となる教授の講演会などに直接何度も出向き、何度も断られながら弟子入りをさせてもらった経緯なども話してくれた。
B教授の「研究計画書はしっかり書けているし、研究したいことはわかった。でもあなたの研究対象は成人ですよね。私の専門領域は幼児です。この2年間は幼児のことばかり研究します。入学してからやっぱりちょっと違った、というのはお互いに不幸です。あなたはそれでもできますか?」という質問には、正直詰まった。
私の研究したいテーマは、DVや虐待なので、当然被害者となる幼児も研究対象の一部となる。しかし、どちらかというと被害者心理よりも加害者心理を研究したいというのが現状だった。そこを突かれて、自信を持った回答はできなかった。「そのあたりはよく考えてください。出願用のサインはしますから」B教授は30分の約束のところ、40分以上お話してくれた。
教授と別れて、出願書類一式を事務室に持っていこうと思いながら、ふとためらいを感じている自分に気づき、構内のベンチに腰掛けた。ちょうど昼時で構内に歩く学生達に目をやりながら、B教授との会話を反芻した。
厳しいながらも熱い思いがあるB教授のもとで学んでみたい。でもこの大学院に入って、自分が研究したいことはできるのか。そして何度も断られながらも弟子入りを志願したB教授のような強い気持ちはあるのか…
今後の軸を作ってくれたB教授の返信メール
15分ほどベンチで考えた私は、出願しない決心をした。書類を事務室に出すことなく、帰路についた。
翌日、B教授に面会の御礼と出願を辞めたことをメールした。しばらくして返信をいただいた。
一人の受験希望生でしかない私に対して、このような温かい返信を時間を割いて書いていただいたことへの感動と感謝があふれた。一方で、出願しなかったことへの決意も承認してもらい、自分が進みたい方向の軸がはっきりした瞬間だった。そしていつか、B教授と学会等でお話することが楽しみになった。
社会人が研究室訪問をする前に
研究室訪問は、このような素晴らしい教授と会うこともできる貴重な機会だ。教授にお時間を取っていただく以上、自分がどのようなことを研究したいか、できれば研究計画書の骨子レベルでもよいので持参するようにしたい。またどうしてこの研究室に訪問しようと思ったのかをしっかり話せるように、その教授の論文や著書、WEBなどの投稿などに可能な範囲で目を通しておきたい。
そのあたりをないがしろにして訪問を希望しても、B教授のような方には、特に社会人の場合、覚悟のほどが見抜かれてメールの段階で断られてしまうので注意したほうがいい。