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『ポンヌフの恋人』 世界のすべてとすれ違ったとしても、きみとだけはすれ違いたくなかったのに

『ポンヌフの恋人』(1991年/レオス・カラックス)

【あらすじ】
ポンヌフで大恋愛して大失恋する

カラックスは『汚れた血』がオールタイムフェイヴァリットに大好きで、あとは『ホーリー・モーターズ』と『TOKYO!』の『メルド』も大好きで、実はアレックス三部作それ自体への思い入れはそこまで過多しているわけではないけれど、久しぶりに観た本作は、やっぱりどう考えてもスゲー映画で感銘を受けた。

こんな映画、マジで一生に一本しか撮れない類のヤツじゃないか。

あの有名な、フランス革命200年祭で花火ボッカンボッカンなポンヌフで乱舞するドニ・ラヴァンとビノシュのシーンよりも、地下に貼られたビノシュの顔面デカポスターを全部ブチ燃やすシーンが泣ける。カラックスの心の叫びに全映画ファンが共鳴……。
世界のすべてとすれ違ったとしても、それでも走り続けたいと願ったカラックスが、最もすれ違いたくなかったビノシュとのすれ違いを経て、映画による再現/復讐/救済/成就まで辿り着く、ラストの「まどろめ、パリ!」へと辿り着く、映画少年とミューズの世界一美しい失恋のカタチ。

ヌーヴェルヴァーグの孫と呼ばれたゴダール大好きカラックスが、その失恋の仕方までゴダールと同じになる辺り、宿命とは恐ろしい。
取り返しのつかない気持ちは、映画によって取り返せる。恋も失恋も、映画があれば怖くなんかない。

面会にやって来たビノシュの顔のヨリ、からの「治らないものはないわ」、からのこぼれ落ちる一粒の涙。他の映画のどのビノシュよりも、最も美しいビノシュ。
ゴダール然り、カラックス然り、やっぱりカレシが撮るカノジョがいちばん綺麗なんでしょうか。

『汚れた血』のスカイダイビング同様に、ビノシュにガチで水上スキーさせて無茶させる辺り、とても可愛い。眼帯トラックスーツ姿のビノシュも可愛い。
ドニ・ラヴァンに関しては、車に足轢かれてたけど大丈夫なん?!としばらく心配しながら観てしまった。

映画が最高潮にジョイフルに到達するポンヌフでの二人の再会シーンで幕を下ろさず、ちゃんとビノシュへ怨念をぶつける行為があって、からの、すべてを水に流そうと言いたげな水中落下があるの、カラックスのことを考えると泣けてしまう。

カラックスとビノシュが打ち上げた最後の花火。
花火そのものが刹那的な事象であるかの如く、アレックス三部作は事実上、カラックスにとって呪われた映画群となった。しかし、事ここにおいて歴然としていることは、カラックスからビノシュへの愛と私怨以上に、本作は製作過程も含めて「呪われまくった映画」であり、若き映画作家にとっての呪いとは、祝福と同義の機能をしていることに他ならない。

ということで、借金、撮影延期、どんどん不機嫌になるビノシュといった地獄のようなメイキングも面白い。

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