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アリバブダイアリー8.「いつからか」

私が育った街には大きな国道沿いに大型チェーンの飲食店やスーツショップが並び、どこにでもありそうな風景に所在の無さを感じ、たびたび胸が押し潰されそうになった。ここをいつか離れる日が来るだろうと思いながらいつからか過ごしてきた。

18歳の春、大学生になり新しい生活を始めるため海が見える高台のマンションに引っ越した。生まれ育った街から電車で3時間、築20年のワンルームマンションの一室が私の新たな住処となった。

両親と兄2人と私の5人家族、それから近くには父方の親族が祖父祖母を合わせ10人以上いて、なにかあれば皆寄っては賑やかに過ごしてきた。だからだろうか、いつか育った場所を離れ違う土地へ行くだろうと漠然と考えていたにもかかわらず、引越し当日駅のホームで電車を待っているとどうしようもなく寂しい気持ちで一杯になった。電車の座席は向かい合わせになっていて、前に座っている人の視線を阻むように、膝の上に置いた母が持たせてくれたお弁当の包みをじっと見ていた。

駅のホームに残してきたもう一人の私が、違う街へ向かう私の乗った快速列車を佇んで見送っているように思えた。

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