#07 東欧のクリエイター「MotionLab」が語る制作哲学とは?
カラーズクリエーションによるインタビュー企画「CREATOR's INTERVIEW」。
第7弾となる今回は、ルーマニアを拠点にプロジェクションマッピングやインスタレーションを制作し、数々の受賞歴を誇るクリエイティブスタジオ「MotionLab」代表のZoran Stangacilovic(ゾラン・スタンガチロビッチ)氏と、彼のパートナーでありプロデューサーのLoana氏を招き、カラーズクリエーション代表 石多未知行との対談をお届けする。
─MotionLabの多彩な作品群と挑戦
石多:今日は忙しい中、インタビューに応じてくれてありがとうございます。
MotionLabは映像やプロジェクションマッピングだけでなく、インスタレーション作品も多く手がけていますね。
Zoran:はい、もともとアニメーションの仕事をしてる中で、観客の体験環境を変えるツールとしてプロジェクションマッピングを探求し始めたのですが、さらに新しいチャレンジをしたくなりました。
そこで、インスタレーションの分野でもビジネス展開をするようになりました。
石多:複数の分野でビジネスを展開するにあたって、意識していたことは?
Zoran:成功の鍵があるとすれば、才能あるチームを持つことに全力を注ぐこと、テクノロジーに対する好奇心を持ち続けること、そしてもちろんたくさんのリサーチをすることですね。
常に新しい発見や経験がありますから。それらを逃さないように意識しています。
石多:インスタレーション作品について、人々の心をつかむものは何だと思いますか?
Zoran:インタラクティビティ(観客へのリアルタイム性)をもって人々と作品を結びつけることにあると思います。イベント業界では、一体となり、同じ雰囲気や瞬間を共有する発想がなにより重要です。
─世界で活躍するクリエイティブプロデューサーを生み出した原体験
石多:お二人がクリエイターを志したきっかけはなんですか?エピソードがあればぜひ教えてください。
Zoran:子供の頃から私は手を動かすのがとても好きで、粘土をいじったり、祖父から譲り受けた道具で彫刻を掘ったりしていました。
こういった体験が、現在になってマッピングアニメーションや映像を作る基盤になっています。
Loana:若い頃は日本のアニメをよく見ていましたが、日本の文化は非常に優れていると思います。もしかしたら、世界一なのかもしれません。
他のどの国ともスタイルも違うし、想像力豊かで、私たちが映像を志した理由の一つです。
Zoran:セルビアで生まれ育ち、19歳の頃にルーマニア・ブカレストに移り住み、映画アカデミーのマルチメディア・デザイン科に入学しました。子供の頃から映画、特にアニメーションに魅了されていました。
石多:なぜセルビアを出て、ルーマニアの大学を選択したのでしょうか?
Zoran:大学を検討していた頃、セルビアは戦争中だったのです。
NATOがセルビアを爆撃したのが1999年のことで、私達はセルビアで大学を探すより良い解決策を見つける必要がありました。10年くらい戦争状態が続いていたので。。。
私はセルビアで語学を学びながら、次の日にはルーマニアの大学に行くといった生活を送っていました。新しい国、新しい文化に触れられたことはとても面白かったです。
石多:プロフィールにセルビアとルーマニアという2つの国の名前を使っているのは、そういった経歴から?
Zoran:はい、現在私たちはルーマニアにいますが、ルーマニアとセルビアの両国を代表して、MotionLabとして国際的に活動しています。
石多:大学での勉強はどうでしたか?やりたいことに集中できましたか?
Zoran:クリエイティブなコースや授業がたくさんあり、映像編集、サウンドデザイン、アニメーション、2D、3Dアニメーションを学びました。
今振り返っても、大学生活は最高の経験になったと思います。
ただ、大学にはPCが2台しかなく、使用するには行列に並ばないといけませんでした。何かを3Dでレンダリングする必要がある場合は、3〜4日ほど待つ必要があって、1本の動画を作るのにとても長い時間がかかりました。
石多:今とは全然違う環境ですよね。
Zoran:はい、本当に。これは当時世界中の学校が似たような状況だったのではないかと思います。
ただ、大学自体は脚本家や照明、あとはデザイナーや俳優のコースもある大きなアカデミーでした。チームで作ったドラマで学内の優秀賞を受賞したり、そういう様々なことができる良い環境でした。
石多:プロジェクションマッピングを始めたのはどのような経緯があったのですか?
Zoran:大学卒業後、アニメーションの仕事を始めました。
プロジェクションマッピングは2012年にスタートしました。私たちの活動の中では、比較的最近のことです。
YouTubeで建物のプロジェクションマッピングを見ていました。そして、建物の構造を使ってデザインし投映するものや、建物の様子を変えるアニメーションなど、遊ぶような表現アイデアがとても好きです。
初めて建物へのマッピングを制作したのは2015年ごろだったと思います。
石多:ルーマニアには世界最大級のプロジェクションマッピング大会「iMapp」がありますね。
Zoran:はい。昔は作品を公募していましたが、今は各国の優勝者たちによるWinners leagueとして開催していますよね。
公募していた頃はたくさんの作品が集まり、映像コンテンツが充実していたと思いますが、やはりコンペティションを事業として続けるのは大変なのでしょうか。
石多:そうですね、我々が日本で続けている1minute Projection Mapping Competitionは毎年公募を行っていて、200以上のエントリーが来ますが、選考は本当に大変な作業になります。
しかし、多くの若いクリエイターやマッピングを試みたいクリエイターに表現や挑戦の機会を作ることは非常に重要だと思っています。大きな建物への投映を実現するのは本当に難しいことなので。
Zoran:その通りですね。このようなコンテストは、文化を成長させるための使命だと思います。なので、私たちも発表の場を創出する組織をルーマニアで作ろうとしています。
石多:ルーマニアで新たなコンペティションの開催を目指すのもいいですね。
いいですね。日本と一緒に何かできるかもしれないし、ルーマニア政府や大使館との信頼関係も作っていけるかもしれないですね。
─子供たちと、教育にかける思い
石多:今は、主にどのようなことを考えながら仕事をしていますか?
Loana:最近は子供たちへの教育について考えています。良い学校とは、より良い環境とは何か、、、
日本の学校、特に大学は学費の負担が大きいイメージがありますね。
石多:そうですね。日本は良い環境が整っていると感じますが、国民が教育に莫大な金額を支払わなければならない状況はおかしいと思います。
Loana:日本には優秀な人がたくさんいるのに、教育費がかかるのは不公平ですよね。本来、教育は無償であるべきだと思っています。
ヨーロッパの大学教育では、無料で教育の機会を得るチャンスがたくさんあって、優秀な学生であれば、全額の奨学金も受けることができます。
石多:そうみたいですね、子供の進学先に海外を視野に入れるのもいいと思います。
Loana:特に、北欧諸国はヨーロッパでも特に最高の学校制度を持っていると言われていますね。
教育において「誰一人取り残さない」というモットーを持ち、学習の遅れをバックアップするためのアシスタント制度が義務付けられている地域もあり、安心できる環境が整っています。
現在、スウェーデンの教育に多くの人々が注目していて、無料の国際留学プログラムも充実しているんです。
実際に政治家たちが北欧諸国の教育現場を訪れて研究していますが、私たちの国の教育に対するフィードバックはまだありません。
とはいえ、私たちの大学時代は友達のスキルやモチベーションが高く、素晴らしい環境で過ごせたと思います。
教育のみならず周りの環境も含めて、自分にとって最良の場所を選択できるよう、若い人たちにはいろんな国の学校を知ってほしいですね。
石多:間違いないですね。大学でどんな人間関係があるか、どんな友人を持てるかということは、時に何を学ぶ以上に重要になると思います。
より成長していくためには自身の生活環境を変えて行ったり、どのような人間関係の中で生きていくか?そうしたことを考えることが大切ですね。
─混沌の社会における、アートの役割とは?
石多:今日はありがとうございました。最後に、プロジェクションマッピングやアートは、今後社会にどのような価値をもたらすと思いますか?
Zoran:テクノロジーは私たちの活動に大きな影響を与え、生活のあらゆる部分に入り込んでいます。プロジェクションマッピングも日々進化していて、インパクトのある様々な景色をもたらすことができるようになっています。
石多:表現の幅やその規模が広がることで、見る人々に語りかけられるメッセージも増えていくといいですね。
Zoran:はい、私たちは未来を予測することはできませんが、より良い未来を思い描き、形にしていくことはできます。その中で、アートが担うことができる役割はこれからも増えていくと思います。
アートは常に人類の「核」だと考えているので、これまで話した様々な課題や、世界の難しい問題も、「創造性」で良い方向に変えられると信じています。
石多: では、MotionLabの活動範囲も世界中に広がっていきますね。
Zoran:はい、プロジェクションマッピングやインスタレーションの分野で、できる限りワールドワイドにビジネスを展開していきたいです。
─インタビューを終えて
Zoranと初めて会ったのは、ルーマニアのiMAPPへ2017年に訪問した際、軽く挨拶した程度でした。その後小田原城で行われたプロジェクションマッピング国際大会で初来日してくれて、色々と話す機会を持てました。それまで彼らのチーム名や作品はもちろん知っていましたが、実際に深く話すと本当に真面目で人間味溢れる人柄でした。
ルーマニアとセルビアという二つの国名を常に出しながら活動していたので、そのことについてもいつか深く聞いてみたいと思っていたのですが、それをパートナーのLoanaと一緒に話せた今回はとても良い機会でした。前回のAVA Animation & Visual Designの2人もそうでしたが、自分達が生きる「国」や「環境」について、特に子供たちの「教育」に重きを置いているところに、共通性がありました。
日本にとって戦争や貧困は遠い国のことかもしれませんが、彼らにとっては壁一つ隔てたところにリアルに存在していて、「生きる」ということ「良い未来を作る」というのが本当に高いモチベーションとなっていると感じます。
そして同時に、そんなクリエイター達が戦争から遠い日本の「アニメ」作品や文化に大きな影響を受けているというのも非常に興味深い。戦後の日本のアニメーションはまだ戦争が身近だった余韻の中で育まれて来ましたが、昨今それが遠くなり、違った感覚や創造性で人々が「争う」ことを表現していると思います。特に「痛み」に対しての感性に違うものがあり、日本人の表現は争いに対して「心の痛み」という点によりフォーカスしていて、それが世界から関心を持たれているのかもしれません。
昨年の秋(インタビューは昨年の初夏)に再びiMAPPの審査でルーマニアを訪れた際には、娘さん含めて家族みんなで歓待してくれました。その子供の様子を見ながらこのインタビューを思い返したのですが、ここに未来があると感じました。
特に我々クリエイティブに資する者にとって、未来へ向き合う共通するプライオリティは子供や教育にあり、そのシンパシーを世界的に育むことは大きな平和への可能性ではないかと改めて心に落ちました。
石多未知行
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