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若気の至りで愚行に走った話の記録

これを書いている半日前にあたる午前一時半頃、私は人生で初めて市販の咳止め錠をODした。界隈で最も有名な製品だ。

タイトルにもある通り、この文にはODを推奨する意図も、また逆に思い留まらせる意図もない。ただ自分の日記帳にでも書き留めておけばよいものを、筆記の手間を惜しんでネット上に記録しただけだ。


きっかけは三週間ほど前、やけに気分が沈んでいた日に、ほとんど衝動的に通販で錠剤を注文したこと。幸いそれが手元に届く頃にはODの衝動が薄れていて「本当にどうしようもなくつらくなった時の現実逃避に取っておこう」と思っていた。

では飲んだ時そんな状況に陥っていたかというと実はそうでもなく、喩えるなら【やさぐれた中年サラリーマンの自棄酒】くらいの感覚だった。あとは、少なめに出されている不眠時の処方薬を受診日まで保たせる小さな足掻きも含まれていた。主治医が聞けば「そういう保たせ方をしてほしくてこうしたわけじゃない」とお叱りを頂きそうだが。


とにかく私は比較的安易な気持ちで、初めての咳止め薬ODを実行に移した。
同居する両親が寝静まった頃、バレないように自室の本棚に隠してあった錠剤の瓶を、用心深く寝間着のポケットに忍ばせてリビングに向かう。

そして冷蔵庫から、数時間前に作っておいたルイボスティー入りの冷水筒を取り出した。錠剤を飲み込む時に使うのはもちろん、副作用に口渇があるという意見をネットで多く目にしたため、その対策の意味も込めて、少なくとも一リットルは用意していたと思う。


いよいよ瓶の蓋を回し開けて、何も考えずザラっと手に出してみる。その時は「これの半分ぐらい飲めばいいかな」と思ったが、数えてみると十七錠だった。飲もうと思っていた量とたった二錠しか変わらないことに少し怖気づくも、すぐ「まあいいや」と開き直って、十五錠を数錠ずつ小分けにして飲んだ。

この薬のOD常習者らしい人のネット記事を参考にして、飲んだ後はタイマーを一時間半にセットした。その記事によれば効果の判定のためらしい。

また、一時間半待っても苦痛な副作用がなく、かつ望む効果が現れない場合は、十五錠では足りない体質と思われるため、日を開けて量を増やし再挑戦しろとも書いてあったが、私は二十分ほど経った時点で更に五錠追加した
なんとなくタガが外れていたのだと思う。「どうせODはODなんだし、今五錠追加したって大して変わりはない」という考えからだった。


そこからはひたすら音楽を聴きながら、スマホを見たり眠ろうとしたりを繰り返して朝まで過ごす。
その間に少し不安が出てきたため、飲み合わせの悪さは承知の上で処方されている抗不安薬を一錠だけ飲んだ。

まず体感として、強めの眠気比較的心地よい脱力感があった。それだけなら眠りこんでしまっていただろうが、そうならなかったのは、おそらくエフェドリンかカフェインの作用、そして尿意の影響だろう。

そう、驚いたのは、私がこの薬のODで「ほぼ確実に来る」と予想していた結果はまるきり反対になったことだった。一番警戒していた口渇ほぼ苦痛にならない程度しか起こらなかったし、次に心配していた尿閉に至ってはてんで逆の症状を引き起こした。
おそらく、ODをしてからの数時間は、三十分に一度くらいの頻度で手洗いに立っていた気がする。


そうこうしているうちにすっかり夜が明ける。
両親が仕事に出てから、数時間単位の睡眠を二回ほどに分けてとって「その気になればまだ眠れそうだけど全然起きられる」くらいの感覚になったのは昼過ぎだった。

ようやく寝床から這い出して、ネットで調べて見つけた、ドラッグに関係していたといわれる四〜五十年前の洋楽歌手の曲──例えばジャニス・ジョプリンやザ・フー──をストリーミングで聴きながら、歯を磨いたり軽い食事を摂ったりした。この文章を書こうと思い立ったのはその時だ。ザ・リバティーンズの『Can't Stand Me Now』をずっと聴きながら書いている。ちなみにこの曲は、大好きな小説の中で主人公の青年が自殺を決意した時、彼が“人生の最後を飾る音くらいは自分で決めたい”と選んだものでもある。それも相まって、私の最近のお気に入りの一つだ。


おそらく、少なくとも今ある薬瓶の中身(売られている中で最も量の多いものを選んだ)をほとんど使い切るまでは、私はこの薬のODをやめられないだろう。
過去に自己切傷の既往があるが、その習慣を断ち切れた際の経緯を踏まえると、懲りるまでは続けてしまう質だからだ。
とは言ってもそこらの缶ジュースのような感覚で買える値段ではないため、この瓶限りで手を引きたいのが理想ではある。


最後に、こんなくだらない記録を終わりまで読んでくださったあなたに感謝を。あなたが少しでも苦しい依存に縁のない生活を送れますように。

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