
ゲームデザイナー目線で、ゲームマーケットチャレンジの仕様を決めたらの話
ゲームマーケット2022秋からゲームマーケットチャレンジというイベント内イベントが開催されることとなりました。
簡単に言えば、ゲームの仕様をある程度決めてしまって、それに沿ったゲームを展示するエリアを別途主催から準備する、といったものです。
これによって、同人ボドゲへの敷居を下げよう、という趣旨です。
制限がかなりありますが、試みの1つとしては面白そうだなと思いました。
詳しくは以下のサイトを見ていただいた方が間違いがありません。
さて、私の周りでも何人かがこのゲームマーケットチャレンジに出店すべく、日々ゲーム作りにいそしんでおり、そのテストプレイをいくつかさせて頂いています。私は無理ってなったので、作るのをやめた脱落組です。
今回は、ゲームデザイナーの立場として、その仕様をどうしたらもっと面白くなるかな、という思考実験です。
決して、「元々の企画に対して文句がある」訳ではありません。
いや、正直、これについて書きたい部分もあるけど、どういった切り口にするか、というのはちょっと悩みました。ボツがいっぱい!
1.現状のゲームマーケットチャレンジの仕様について
これは毎年変わるようになっています。今回はこの仕様、ということです。
内容物:カードのみ、32枚以下
サイズは90x60mm程度 いわゆるTCGサイズ~ポーカーサイズぐらい
ルール説明:5分以内
プレイ時間:15分以内
人数:指定なし
システム:協力ゲームを除けばなんでもOK。
こんな感じになっています。
1つずつ見ていきましょう。
1-1.内容物:カードのみ、32枚以下
サイズは90x60mm程度 いわゆるTCGサイズ~ポーカーサイズぐらい
先に結論を書くのですが、私なら36枚以下、チップやコマ10個以下程度かな。
まず、36枚に増やしたい部分について、話そうと思います。
ボードゲームをたくさん作っていると気付くことがあります。6の倍数ってすごく便利ってことです。特に60という数字は誰もがお世話になっている数字ではないでしょうか。そんなことはない? 大丈夫、これからお世話になるから。ちなみに66枚派とか細かい派閥はありますが、誰もが通っているのは60枚じゃないかなと思っています。
で、60枚の話は横に置いといて、32枚より36枚の方がいい、というのは倍数で見ると結構わかりやすいです。
2分割で18。
3分割で12。
4分割で9。
5分割で7。あまり1。
6分割で6。
そんな感じで、カードのセットが組みやすくなります。また、割り切れるため、カードを1枚ずつ使うゲームの場合、手番数の差が出にくい、という性質を持っています。
逆に32枚なら、
2分割で16
3分割で10。あまり2。
4分割で8。
5分割で6。あまり2。
6分割で5。あまり2。
カードのあまりをギミックに使ったシステムを作ろうとすると4人では難しい、逆に余りを作りたくないときは、そのほとんどで余ってしまう。
4人の時のみ特殊な状態になります、というパターンもあり得るんですが、ボドゲで一番遊ばれる数字、4人がそれだとプレイ感としてとても特殊なものになってしまいます。
ゲームのシステムはどうしてもきれいな部分、同じ処理の部分を作った方がまとまりもよく、遊びやすくなるため、それらを吸収しやすい36枚の方がより面白いゲームを期待できる、と考えています。
またこれはケースバイケースですが、カード以外に使用できない場合、カードを数枚使ってそれらを表すことがあるのですが、あまりがない数字があると、すべてそれらに合わせるので、それなら素数の方がありがたい、とかっていうのもあります。
カードサイズは、名刺カードを採用しているところも割とあるので、分かりやすく、名刺サイズ、ポーカーサイズ、TCGサイズ程度、とするかな。
すごい余談ですが、どこの印刷所に行っても、今回のサイズであれば、カードは36枚の印刷で、32枚の印刷っていうのはほとんどないよね、っていうのは知っておいていいかなとは思います。
1-2.他のコンポーネント
プレイヤーの色を示すコマ、スタートプレイヤーを示すコマ、場のカードの上に置くコマ、ペナルティチップなど、数個のコマでできることは多種に及びます。さらにはカードを書いたり消したりできることによって使えるマーカーや布、スリーブなんかもギミックに使えます。
カードにパラメーターを入れたときに広がるルール構築幅は、書くよりもゲームデザインをしたことがある人ならすぐに感じると思います。
今回のレギュレーションではこれらを使うことはできません。
ゲーム自体をかなり絞るにはよい案かもしれませんが、その実、楽しみの幅がかなり狭くなっていると私は考えています。(自分とこのゲーム棚(大体300個+同人200個ぐらい並んでる)を眺めてると、ちょっとしたものが入ってるものが多い印章を受けます。)
自由な発想が同人ボドゲのおいしいところ、と私は感じているので、これはなんとか取り込みたいなと思います。
これによって、カードゲームのやり取りもあれば、カード自体を1つのギミックとして遊ぶこともできるんだよ、という幅の広さが見えると思います。
まぁ、これらは実際ゲームデザインするときの言い訳なんですがw
ほんと、駒が1つあるだけでラウンド数を表すことができる、というだけで大きく違います。もちろんカードで表すこともできますが、それ自体の価値は大きく異なります。
そんなことまで考えると10個以下のコマ、チップは入れたら面白くなりそうな気がしています。
閑話休題:
コマを1個追加しただけで大きく変わった、というゲームの1つで思い出せるのが「キャプテン・リノ」です。これは実は昔のゲームで原型があって(確かRavensburgerのゲームだったと思います)、その時はコマがなく、うまく積み上げるだけのゲームになっていました。
1個加わるだけで大幅に変わったので、そういうのは大きくありなんだなぁって感じます。
2.ルール説明:5分以内
今回、非常にあいまいな項目がここです。
私の解釈では、ルールを知らない人が1から読んで5分、ってことなんかなと思っていますが、これ、そうやって理解するとかなり難しいルールかなと思います。
逆に慣れた人が説明するのに5分、であれば、ゲームにもよりますが、だいぶ長文のルールも5分程度で説明できることがあるので、そうではない、という判断をしました。
例えば、カードに特殊能力があるゲームだとして、それらのカードが8種類あったとします。
通常ルールの説明に追加して、カードを1枚ずつ説明します。1枚30秒程度で説明+理解しなければなりません。
複数の能力を持っていればもっと短くなります。
そんなことを考えると、私の場合、軽いゲームを目的にするなら、10分にするかな。
特に特殊能力を持ったカードを採用している場合、トリテをしたい場合はそれくらい見積もった方がいいかなと思います。トリテなんて、それ自体の構造の説明で5分程度使うんですよね。そこからそのゲームの特色の説明になると思っています。
まー、個人的には「無制限」が一番面白いと思います。例えばですが、カードゲームでストーリーを読ませるようなゲームがあってもいいと思います。
謎解き? マーダーミステリー? みたいな感じで作られる人もいるかもしれませんが、それはそれで面白そうな気はしますね。
でもゲームデザインサイズを気にしている部分もイベントの趣旨から感じられるので、10分としたいと思います。
3.プレイ時間:15分以内
これは割とできる気はします。とはいえ、ラウンド制のゲームであれば、かなり厳しい時間設定です。
手番制のゲームであれば、1ゲーム4手番ずつとして、4人で遊ぶと1手番1分ありません。
ちょっと手元のゲームを見てみましょう。
6ニムトで45分。
Shitで10-20分。
Flix Mixで20-30分。
スーパーメガラッキーボックスで20分。
Q.ラインナップが結構マニアックよね?
A.そんなんしか棚に並んでないねん。
こうやってみると、ちょっと厳しい気がしますね。15分て。
20分かなぁ。やるなら。30分だとちょっと趣旨が変わってきそうなところもあるしで。
ちなみにラウンド制のあるトリテ「ウィザード」で45分、「ポテトマン」で20分でした。
トリテは20分でルールの作り方によってぎりぎりかもですね。
4.人数:指定なし
個人的にはこここそ焦点を当てるに面白いところかなと思ってます。
遊び手からすれば、いつも遊べるメンバーや遊ぶ場所なんかで大体の人数って決まっていると思います。
夫婦2人で、なんて話は世代的によく聞きます。(うらやましい)
そんな感じで、ここは4人で遊べること(上限、下限は問わない)という感じにするかな。
自分のプレイ環境を考えて、2人でしか遊べないのに、めちゃくちゃ多いゲームをたくさん眺めなくて済むだろうし、逆にその人数なら遊べそう、って人は気安いと思う。
これは、こないだ、うちでやったゲーム会の時に聞いた話ですが、「そもそも自分に合わないゲームには手を出さない」って話があって、新規開拓にもならなさそうに感じました。
簡単にいうと、陰キャが多人数でやる合コンゲームみたいなものをやるかといわれれば、そもそもやらない、という話ですね。
その場で売れればいい、ということではなく、楽しいということが伝わってほしい、っていう風に考えるので、この辺は割と重要な気はしています。
5.システム:協力ゲームを除けばなんでもOK。
システムを制限するかどうか、という点は、ゲームデザイナーの立場でいうと、結構難しくなります。
というのは、どういう点をもって、そのシステムかどうか、という判断が難しいためです。
例えば、1人で遊ぶルールがあったとして、それは「協力」なのかどうか。
6人で遊ぶカードゲームがあったとして、それが「パーティーゲーム」なのかどうか。
対戦ではあるけれど、2vs3のゲーム(例えばトランプのナポレオン)は協力ゲームなのかどうか。
そういった点から、私はこの項目自体は避ける、規定しないのが一番面白いんじゃないかなと思います。
ゲームジャンルについては、昔からいろいろな疑問や考察、討論がありますが、結果として「ふわっとしたもの」という解釈になっていると思います。
これには作ったことのある人しかわからない面もあって、ゲームの基本システム的にはすごく面白いのに、これを避けるために別の着地点をもって完成とした場合、せっかく可能性のあった、より面白いゲームをつぶしてしまうことにもなります。
しかもその判断が人によって異なり、取りようによってはどのような形でも取ることができる場合、「Aを避ける」という形を行うにはかなり難しいものがある、と感じます。
逆に「Bを含む」というような制限の方がまだやれることはあるかもしれません。
ですが、いずれにせよ、ゲームデザイナーの自由な発想を阻害しやすいこの項目は私は外した方が面白いだろうな、とは感じています。
ゲームデザイナーの発想をそこで苦しめるのは違うだろう、という考えです。
6.まとめ
そんなこんなで、私がもしゲームマーケットチャレンジをやるなら、以下のようにするかな。
内容物:カード36枚。コマやチップ、タイルなどカードより小さい別のものが10個以下。
名刺サイズ、ポーカーサイズ、TCGサイズ程度、タロットサイズ程度まで
ルール説明:10分前後
プレイ時間:20分以内
人数制限:4人で遊べること。上限、下限は問わない。
システム:制限しない
となります。
すでに元々の規定でテストプレイや製作が進んでいるから、今から事務局が「仕様を変える」なんてことは絶対に言わないでほしい(周りのゲームデザイナーの苦しみぶりからほんとやるならこのままの方がいい。全部やり直しになる)けれど、製作側のこと、その内容によってやれること、それらを見に来る人たちのことを考えると私はこんな感じにしたいかなと思いました。
今回の記事は本当に「内容が無いよう」みたいなものですが、完全に自分の欲求のために書きました。
すっきり!(ぇー